20、エニアは誘惑する

神って何?

唐突に壮大過ぎる一言に唖然としてしまう。

いや、俺じゃなくて主人公のタケルを誘えよ。


『神だ。明智秀頼、お前には神になる資格がある』

「はぁ……」

『全然信じていない顔だな』


うさんくせぇ……。

大体こういった誘いをするラスボスにロクな奴は居ないっての。


『お前はこの世界を『悲しみの連鎖を断ち切り』というゲームとして知識があるわけだが、今お前が住んでいる通り実際はこの世界は存在するのだ!


つまり、お前は次元を超えてこの世界に来た!

前世を知っている奴はたまに現れるが、次元を超えてこの世界に来る者ははじめてだ!


お前は四次元からこの世界に来たも同然!


神とて10000年以上の終わることのない永遠の様な悠久の刻を生きてきてはじめてなのだっ!


クハッ、クハハハッ!クハハハハハハッ!


神になる資格がある!死にたくないだろ!?神になればお前もこの神、エニアの様な崇められる存在になれるのだっ!


凄いだろっ!?凄いよな!?だからお前も神の名を手に入れよっ!』





「ちょっと何言ってんのかわかんない」

『なんで何言ってんのかわかんねーんだよ!』


力説されたところでなんかすげーくらいしか思わなかった。


「10000年生きてるってことはもしかしてリアル本能寺見てた?」

『あ?あぁ、明智光秀イキって裏切ったあれだろ。なんとなく覚えてる』

「すげーな、リアル本能寺」

『興味それだけかい!』

「大坂夏の陣とか覚えてる?」

『徳川家康が年下相手にムキになったやつな。覚えてるよ』

「すげーな、リアル夏の陣」

『あのさ、真面目にトークしてくれねーかな?』


結構真面目に本能寺の変とか大坂夏の陣とかの話題を出していたつもりだったのだが、エニアは頬を膨らませてお怒りであった。


『それに、神になればいつでも恋人に困らないし、誰とでも恋愛ができるぞ』

「恋愛ねぇ……」

『お兄ちゃん』

「は?」


目の前からエニアは消えていて、変わりにスターチャイルドが俺のベッドに座っている。


『スタチャと恋愛だってできるよ』

「っ……!?」

『男って正直だね、お兄ちゃん☆』


スタチャスマイルを浮かべ、俺のソレへ足を伸ばしてくる。


『テント張るってこういう感じなんだねー。クハハッ☆クハハッ☆』


星が付くくらいに輝く笑顔で彼女は嗤う。

星子の声で足を操り笑うスターチャイルドの皮を被ったエニア。


『キラッ☆』

「お前、マジでふざけんなよ……」

『そんなに怒らないで、豊臣君』

「っ……!?なんなんだよお前っ!?」


バスタオル1枚だけを纏い、俺に迫ってくる来栖由美の姿だった。


『好きだよ、豊臣君。今だったら全部できるよ。私たち何もできなかったもんね……。キスとかその先のセッ』

「やめろ、気持ち悪い」


来栖さんの姿で気持ち悪いことを口にするな。

来栖さんじゃないクセに、俺を誘惑してくるな。

気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。


来栖由美の顔を見て、こんなに気色が悪くて吐き出しそうになったのははじめてだった……。


『どうしても首を振ってくれぬか……?』


俺の怒りに気付いたのか、黒フードを着込んだ元の褐色肌の白髪ロ●に姿が戻る。


「首なんか振るわけねーだろ!今、俺はお前を殺してやりたいほどに憎しみに満ちている……。星子を、……来栖さんを侮辱するなっ」

『明智秀頼……』


縋る様に手を伸ばしてくるエニア。

縋りたいのは俺の方だ……。

俺だって死にたくねーんだ……。

痛いほどにエニアの気持ちはわかる。

でも……。


「俺はお前の様な外道かみに堕ちるくらいなら人間で充分だ。それがハッキリわかったよ」

『ぐっ……』

「神なんてお断りだ、俺は自分で死ぬ未来をどうにかする。お前も自分で死ぬ未来をどうにかしてみやがれっ」

『クハッ、クハハハッ!喩えそれが十文字タケルやヨル・ヒルなどの友人。果てはお前をも殺すとしてもか!?』

「死なねーよ。俺がお前の野望を全部食い止めて生き延びてやるよ」


その為に、俺は達裄さんから鍛えられているんだ。

それにみんな生きてエンディングを迎えられるなら俺の命くらいエニアにくれてやる。


『こ、後悔するからなっ!神にしてって頭下げても二度とお前にはそのチャンスすら与えないからなっ!』

「くどい」

『クハッ、クハハハッ!神は死なぬ』


そのまま霧が晴れていく様にエニアの姿が消えていった。

まさかエニアが原作の情報ノートに手を伸ばしてくるとは……。


「…………概念さん」


散々情けないラスボスとしてネタキャラ扱いされるエニアだけど……、俺は別にあんたが嫌いじゃなかった……。

ゲームであんたがヨルに殺害される時も同情していたくらいだ……。


それに、本気で叔父さんの虐待を止めることができたギフト能力についても凄い感謝しているんだ……。

そういう意味ではエニア、あんたは俺の恩人だ。

その恩人を、俺が嫌えるわけないだろ……。


──ただ、星子と来栖さんだけはあんたは触れちゃいけなかった……。


「どうして上手くいかないもんかね……」


エニアを殺すべき敵と円にも常日頃言っていたことだ。

実際にエニアを殺さないとハッピーエンドなんて迎えられないだろう。


しかし、どうしてもエニアも殺さず、タケルらも殺されない。

そんなルートを模索してしまう。


『それはただのご都合主義だ!』って誰かは言うかもしれない。

ただ、俺はそんなご都合主義のハッピーエンドを迎えられるなら、俺の命くらいは投げ出してしまうだろう。


あー、死にたくねぇ。

けど、死ねって言うなら死ぬしかねーよな……。


俺の決意なんか何の意味もないと吐き捨てる様にエンディングまでの時間を時計が1秒1秒と刻んでいるのであった……。

そのエンディングは果たしてハッピーエンドか?

それともバッドエンドか?













エニアは原作に登場する非攻略キャラクターの中では1番人気がありました。


ラスボスながらも情けなく、わからせられてしまうメスガキみたいな末路なども含めてファンが多かったです。


ヘイトを溜めるんだけど、どこか憎めない、傲慢なゴミクズ神様といったポジションです。

原作秀頼とはゴミクズ同士、相性が良かった。



エニアがスタチャや来栖さんの姿で秀頼を誘惑したのは、煽るとかの意味はなく『この子好きなんでしょ?』と純粋に秀頼の需要に応えただけ。

人の心や価値観がわからないダメダメ神様です。




次回、秀頼が前世の両親の教えを思い出す。

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