19、エニア

今日がゴールデンウィークの最終日。

津軽円と原作の打ち合わせをする予定日。


嫌だなぁ……。

もう学校に行かないで自由気ままな人生を送りたい……。


もう起きようか、もう少し寝ていようかベッドの上で葛藤していた。


このまま絵美やおばさんに起こされたら起きるんだけど。

起きるきっかけが欲しい。


目を摘むって悩んでいると、微かな音が聴こえてきた。



パラ……、パラ……。



なんだろう?

本を捲る音?



パラ……、パラ……。



心地よい紙の音が睡眠欲を高めていく。

なんの音だろう?

薄れゆく意識を無理矢理繋ぎ止め、目を開いていく。




『クハハハッ、なるほど。なるほど……』




白髪の褐色肌の幼女が俺の寝るベッドの横に座り何かノートを読んでいた。

…………。

……。



「うわああ!?が、概念さん!?」

『エニアじゃ、ボケ』

「がっ……」


弱いチョップを頭から喰らう。

酷い、酷い……。

寝起きに暴力は酷いじゃないか……。


何故か原作の黒幕。

傲慢なロ●ババア神様のエニアが俺の部屋に居座っていた。

神といえやりたい放題だなお前……。


「大体なんのノート読んでんだよ?保健のノートは下ネタしか書いてねーぞ……」

『これ』

「っ……!?」


俺の眠気が一瞬で吹き飛んだ。

彼女が読んでいるノートは俺が前世が蘇った際に『悲しみの連鎖を断ち切り』の情報を書きつらったモノであったからだ。



誰にもわからない様にクローゼットの中に金庫があり、その金庫に鍵を差してパスワードロックを寸分狂わず3つ解除することが必要だ。

そして、金庫の中には沢村ヤマのエロい本が収まっており、お気に入りの水着ページに栞変わりとして原作をまとめたノートを挟めている。

金庫の鍵のありかは俺の机の引き出しが二重底になっていて、ボールペンの芯を引き出しの底に開いている穴へ通して二重底を持ち上げないと鍵が取れない様になっている(ボールペンの芯を使わないで二重底を開けるとガソリンに電流が流れ机を燃やす仕組みになっている)。

それくらい面倒な手順を踏まないと、このノートは取り出せないのだ。


絵美やおばさんでも絶対に破ることが出来ない禁忌を、こいつは開けやがった……。


『しかし、金庫のパスワードロックが『0721』なのはちょっと引いたぞ。あとは前世の女の誕生日『1225』、妹の誕生日『0303』。単純だなぁ』

「…………」

『そう睨むな明智秀頼。燃やすつもりも破るつもりも、盗むつもりも、複製するつもりも、文章の改変もするつもりは一切ない。クハハッ』


バカにした口調でエニアはノートの最終ページを読んでいる。


『『悲しみの連鎖を断ち切り』ねぇ……。最終的にギフトの元凶・エニアを殺害し、ギフトの存在が消滅する。十文字タケルはヨル・ヒルと結ばれてハッピーエンドか……。なるほどなるほど、3年後にはこうなるのか』


ノートをパタンと閉じる。

それを手裏剣みたいに投げ渡してくる。

慌ててノートを見直すが大丈夫だ。

破られてもないし、改変もされていない。

全部俺の字だ。


『存在してはいけないノートだな。神として見過ごしてはいけないモノだ』

「ふん。何が神だ……。偉そうにしてるだけで人にギフトを与えて人間ドラマを見て笑ってる暇人神様が」

『クハッ。神様っぽく言ったつもりが冗談は嫌いか』

「冗談を言うのは好きでも、冗談を言われるのは嫌いな質でね。燃やすつもりも破るつもりも、盗むつもりも、複製するつもりも、文章の改変もするつもりは一切ないってあんたが言ったんだろ」

『そうだったな、こりゃ失礼。ならノートの存在を見過ごすよ』


ノートを慌ててベッドに置き、毛布で隠す。

エニアの視界にすらこのノートは入れたくない。


『なぁ、明智秀頼』

「なんだよ」


原作ノートの変わりに表紙に騙されて買ったグラビア誌をエニアに手渡しておく。

興味深そうにしながらエニアはグラビア誌を開き始めた。

くつろいでいるのか、足をパタパタさせている。


『こんな物語のどこがハッピーエンドなんだ?』

「は?」

『なぁ、神に教えてくれよ』


ギャルゲーのハッピーエンドなんて所詮主人公とヒロインが問題を解決!

イチャイチャ!

エピローグ!

ED!

タイトル画面!


こんなんだからな。

しかし、エニアが聞きたいのはギャルゲーのハッピーエンドではなく、『悲しみの連鎖を断ち切り』のハッピーエンドを知りたいんだよな。


「そ、そりゃあ憎しみの象徴になっていたギフトの存在が消えて……」

『違う。そんな模範的な教科書みたいな話を聞きたいのではない』

「じゃあなんだよ?」


エニアはグラビア誌を置いて、俺に向き合う。

そして小さい右手を胸に当てながら口を開く。


『神であるエニアが死んでハッピーエンド?ふざけるのも大概にしろよ』

「……は?」

『なんで、神が!この神が!死ななくてはならぬ。認めぬぞ、こんなバッドエンド』


エニアがいつになく厳しい目を向ける。

そりゃあお前がゲームのラスボスポジションであるからで……。


「お前がギフトなんか配るからだろ!?」

『困っている人を救う力を与えている神が悪役?あり得ぬだろ』

「大体お前、ギフトで混乱している人間を高笑いして眺めているだけで救うつもりも助けるつもりもないじゃねーか」

『でも、明智秀頼は叔父の虐待を終わらせた』

「…………」


それを言われると俺も強く言えない。


『神は願いを叶える力を与えている。力を与えた人間がどんな人生を送るのかを楽しみに生きているだけだ。何も神は悪いことをしていないではないか。

ギブアンドテイクだよ、ギフトを与えるからギフトで願いを叶えた先の人間の生きざまが見たい。ただそれだけだ。

人間だってドラマやアニメ、ゲームが好きだろう?

神にとってはただドラマの様な、アニメの様な、ゲームの様な人間の行く末が見たい。神とて、人間と同じ娯楽を求めているだけだ。

概念である神も娯楽を求めるのは悪か?』

「……」


人間と神の主張なんて食い違いがあるに決まっている。


『神だって死ぬのなんかごめんだ』


タケルとヨルに討伐されるエニアは情けなく、命乞いをするもヨルに心臓を突かれて死亡する。

その時のあまりにも情けない態度、『死にたくない』と連呼してすがる姿、普段の傲慢さがどこかに消え去ったりとゲームのユーザーからはざまあwとネタにされ、概念さんとバカにされる末路を辿る。


だから、エニアが腹を立てる理由もよくわかる。


『それに、明智秀頼に佐々木絵美などは例外なく死んでいるではないか。嫌だろう、そんなのハッピーエンドでもなんでもないじゃないか!』

「あー……、そこに触れちゃいますか……」

『お前だって十文字タケルに、ヨル・ヒルに、深森美月に、関翔に殺害される運命が待っているではないか』

「あ、あはは……」


うん。

原作のハッピーエンドを迎えて欲しくないのは俺も同感だよ。

そもそも俺は生き残るために、原作の相談をずっと円としてきたわけだから。


『なぁ、明智秀頼』

「ん?」

『お前、神にならないか?』

「…………は?」


そんな突然『遊びに行かない?』みたいなノリで神に勧誘されるとは思わなくて思考が停止する。











次回、エニアが秀頼を誘惑する……?

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