16、十文字タケルと山本は握手する

ゴールデンウィークも半分が終わり、心で泣きながらギャルゲーをプレイしていた。

もう学校なんか行きたくない五月病を患っていた。


家最高!

原作の事件起きなくて最高!


そんな風にはしゃぎながらゲームプレイに集中する。


『一生お慕いします。弥勒様』


戦記モノのおしとやかで男を尊重し、一歩後ろを歩く系ヒロインにほっこりしていた。


「あああ!ヒロインがなんとなく永遠ちゃんみたいで可愛い!素敵!主人公を弥勒じゃなくて秀頼か光秀って呼んでもらいたいっ!」


俺は今までたくさんゲームをプレイしてきたけど、ついぞ自分の名前を呼んでくれるギャルゲーに出会ったことがない。

戦国時代のゲームで明智光秀、豊臣秀頼の名前が呼ばれるのがせいぜいである。

野郎じゃなくて、ギャルゲーのヒロインに名前を呼ばれたいのよ。


SNSで本名秀頼の同士を募りギャルゲーを作って欲しい人でも募ろうか?

『リアル本能寺』の名前でも出すか?

あれはスタチャ専用アカウントで、あまり使いたくないんだけど……。


「ん?」


そんなことを考えていると山本から着信がくる。

高校入学してから山本と接する回数が増えた気がする。

ギャルゲーをセーブしてから電話に出る。


「はい、もしもし。こちら明智」

『おっす。俺、山本。これからちょっと外出ない?』

「えー?ヤだよ、面倒だし……」


窓の外を見ると絶好の晴れ日より。

肌が焼けそうで嫌になる天気だ。


『残念ながら明智先生。緊急召集の時間だ』

「ふっ、それなら仕方ない」


緊急招集と言われたら立ち上がらざるを得ない。

『リア充破裂グループ』において緊急招集の4文字はとても重い単語になる。

何故なら『一生に1度のお願いだから用事があっても来い』とほぼ同意義であるのだから。

グループ内でも緊急招集を使うのは月1までの決まりがあるので仕方ないので出るしかなさそうだ。


「タケルも来るの?」

『ああ、十文字も呼んでる。とりあえず駅前集合だ』

「わかったよ」


ゲーム機の電源を切る。

永遠ちゃん似のヒロイン攻略は残念ながら持ち越しである。

あーあ、俺も弥勒って名前に改名して鉈姫に『弥勒様』って呼ばれたい人生だったぜ……。





それから30分後。

駅前に俺、タケル、山本の3人が揃っていた。


「今日は『リア充破裂グループ』のメンバー全員揃って嬉しいぜ」

「それで、今日はどうした?混浴の温泉でも見付けたか?」

「それとも大人のビデオ屋に大人っぽい雰囲気になってビデオ探検か?」

「ノンノンノン。今日は下ネタ一切ないクリーンな用件よ。実は行ってみてー店があるんだ」


ゲーム屋の角にあるピンクのコーナーに入りたいとかそういった用件だと思っていた俺とタケルで顔を合わせる。

山本の行きたい店が思い浮かばなかった。


「西山がなゴールデンウィーク中にフリフリして可愛いウェイトレス衣装を着ていた可愛い店員さんが接客してくれる店見付けたって言うのよ!興味あるだろ!?」

「フリフリに可愛いウェイトレス衣装?しかも可愛い店員?行くしかねーよな!」


山本とタケルが握手しながら燃えていた。

仲良いなこいつら……。


「はぁ……、つまんね……」


永遠ちゃん似のヒロインの鉈姫様の攻略を中断してまで行くのが普通の店だぁ?

つまらんね、そういうのは生まれる前に卒業してんだよ。


「やる気なさそうだな秀頼」

「だってなぁ……。可愛い店員とかそれだけかよ。こないだ俺に接客してくれたえくぼが似合うスタブァの姉ちゃんとかでも十分可愛かったし。あの姉ちゃん、絶対俺に気があるだろ」

「あのスタブァ姉ちゃんこないだ彼氏と電車乗ってたぞ」

「マジで!?うわ、マジショック……」


タケルの一言で、スターブァックスに通う理由の9割が消えた。

嘘マジかよ……。

こないだ俺に笑顔で連絡先くれたのにショック過ぎる……。

俺の清らかな心を弄びながら男とズッコンバッコンしていると思うと泣けてくる……。

先週タケルと山本に自慢したばかりなのにな……。


スタブァ姉ちゃんと会う回数減らそう……。

そして、永遠ちゃん似の鉈姫様でショックを癒したい……。


「でも今から行く店、スタチャが常連客なんだってよ」

「行くしかねーな山本!」

「明智にスタチャの名前出すと絶対ノリノリになるよね……。スタチャに彼氏報道きたらどうすんの?」

「は?そのヤリ●●男の本名をデ●ノートに書きまくるんだが?」

「こわ……」


実際にデ●ノートは存在しないので、せいぜいギフトでスタチャに対する恋愛感情を消去するくらいに留まるだろうけどね。


そのまま3人でスタチャトークをしながら山本のGPS案内で店に向かって行く。

スタチャってどんな店に通っているんだろうとワクワクしながら歩いていくと、何故かどんどん見覚えのある道に来る。


「なぁ、秀頼……」

「いや……。んなことないだろ……?」

「次の信号を右に曲がるみたいだ。あっ、あれじゃね?」

「……あれだね」


山本が指で差した先は、谷川咲夜の父親であるマスターが経営している喫茶店であった……。

多分、もう100回以上通ってる……。










単発で絡むことがあっても、ガッツリ3人でなんかする物語はもしかして初?



『リア充破裂グループ』とは、

アンチリア充を掲げるリア充グループ(みんな鈍感でリア充の自覚なし)。


俗物な切り込み隊長の山本。

機転が冴え渡る主人公のタケル。

野郎を統括するハイスペックリーダーの明智先生。


原作の展開を変えつつ、日常を楽しむスタンスの明智先生最強過ぎる……。


学校では日々メンバーに入れて欲しいという参加希望者が絶えないが、全員書類審査で落とされるため中々『リア充破裂グループ』のメンバーが増えないのが悩みの種。

秀頼的には達裄やマスターの様な話術の上手い人をメンバーに欲しがっている。

タケル的には秀頼をモテないと思わせられる人をメンバーに欲しがっている。

山本的にはそもそも『リア充破裂グループ』の参加希望者が絶えないことに対してなんかおかしいと思っている。

書類審査は上松ゆりかの承認が必要。

ゆりかに認められ、はじめて3人と面接し、2人以上が賛成することで晴れてメンバー入りを果たせる。

ジャニィーズよりも倍率が高い(実在する芸能事務所とは一切関係ありません)。

クラスでは『リア充破裂グループ』のヒエラルキーが最上位に存在しているのを3人は気付いていない。




西山って誰?

第6章 偽りのアイドル

第107部分 10、明智秀頼はオススメしない


山本君初登場時に囲んでいた友達のこと。



因みにタケルが発言したえくぼが似合うスタブァの姉ちゃんの彼氏の存在は嘘である。

タケルの内心ではスタブァ姉ちゃんにライバル心を燃やしていることでしょう。


スタブァの姉ちゃんはコーヒーを溢したミスをしても笑って許して、一緒に後片付けの手伝いをして、自分のミスだと言って店長さんに頭を下げた親切な秀頼を密かに狙っていました。

しかし、一連の流れから残念ではありますが秀頼はスタブァへ通う回数が大きく減ってしまいました……。




次回、山本君の本名が明らかに……?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る