8、『ギフトリベンジャー』

これは、ゴールデンウィークが始まる前日の出来事であった。



『ギフトリベンジャー』。

知的そうなメガネを掛けた男、瀧口雅也はギフト所持者が集まる第5ギフトアカデミーの教師である。

若くて普段は温厚で冴えない男でありながら、優しく生徒に歩み寄る様は理想の教師を演じていて、支持率も高い。

しかし、そんな理想の教師を演じる裏にはギフト狩りを裏で組織する鬼のような男であった。


ギフトに復讐をする。

その目的を果たすために、それだけが彼の生きがいであった。


「ギフト使いなんかクズばっかりだ。存在そのものに虫酸が走る。僕はあいつらの全てを喰らい尽くす」


瀧口は口を開く。

それを同行者の男子生徒に言い聞かせると、彼もまた頷いた。


「オレも、ギフトを悪用している奴が許せない。怒りが抑えられねーよ」


男子生徒の関翔は瀧口を肯定するように頷く。

その答えを満足そうに瀧口は嗤う。


「まったくギフト狩りはまだまだ人数不足だね。優秀な彼女が抜けたのは勿体ないなぁ」

「裏切り者の上松を始末しなくて良いのですか先生?」

「こらこら裏切り者なんて言うもんでないよ。元々彼女はフリーでギフト狩りをすると言っていたんだ。裏切っちゃいないさ。それに、またギフトの醜さを痛感すればいくらでもこちらに引き戻せる。上松ゆりかのギフトの憎しみは本物だ。同じギフトを憎む者同士、彼女を待ってあげようじゃないか」


メガネを動かしながら瀧口が言うと「だけどよ……」と少し不満げであるが関が返事をする。


「でも、あいつがオレ達の情報を漏らしたりしたら……」

「生真面目な彼女にそれはないかな。あれでも彼女は僕に感謝しているんだ。そんな不義理を働く子じゃないよ。元は根も優しい子なんだからほっときなさい。僕はポンコツなあの子が気に入っているんだ」

「わかったっす。先生がそう言うなら上松はほっとくっす」

「それより目下は……この子だね」


瀧口は今から狩りに行く生徒の資料を読んでいく。

そこには2年の女子生徒のデータが書き記されてあった。


「ギフト所持者の本物のクズには消えてもらわないとね」


ハーフデッドゲームを主催した田沼という少年をギフト管理局には引き渡さずに停学にする案を出した瀧口であった。

当然、ギフト管理局に引き渡してしまえば粛清が出来ないからだ。

だから、先週末に田沼を瀧口が殺害したばかりだと言うのにもうギフトを使った悪人が学園に現れたらしい。


学園の敷地内に誰も寄り付かない場所へ、今日のターゲットを呼び出していた。


「先生、こんにちはー!」


その女子生徒は瀧口に呼び出されて嬉しそうにしていた。

彼が授業で贔屓してやっている女子生徒の東海林である。


彼女は丸メガネを掛けた地味な風貌であり、成績優秀な生徒だ。

しかし、そんな優等生の裏では自分より成績優秀な子へギフトを使って脅迫をしたり、実際に暴行をして口封じをしたりする忌むべき相手であった。


「東海林、最近勉強の調子が良さそうだな」

「はい、ありがとうございます!瀧口先生にそう言ってもらえて嬉しいです!」

「……」

「……」


いけしゃあしゃあとした図太い態度に2人の怒りのボルテージは上がっていく。

瀧口も関も、彼女を狩るべき相手と認識した。


「えっと、今日はオレから先生に東海林を呼んでもらったんだ。君に伝えたいことがあって」

「え!?」

「オレは関翔って言います」


関の甘いフェイスに、低くて王子様みたいな声と評判の彼に囁かれるような言葉に東海林は顔を赤くする。


「え、えっと……。よ、よろしくね関君」

「うん。それでね……、君に死んでもらおうと思って」

「……え?」


怒りに任せて関は東海林を押し倒す。


今、目の前の女は狩るべき敵。

ギフトを悪用するクズ。

関は正義を執行している。


「ぐっ……、このっ!?死ねやゴラァァァァ!」


東海林は手に炎を纏わせてそのまま関を触ろうとするが、反射的に彼女を避ける。

当然、彼女のギフトについてはリサーチ済み。

被害者生徒、目撃者生徒の証言から東海林のギフトを把握していたのだからやるべき対策は簡単である。


「手のひらに炎を纏うギフトか。とりあえず刃に貫かれろ」


関の出したギフトによる氷の刃が東海林の手の甲に突き刺さる。

突然の激痛に彼女はギフトを解除してしまう。


「がああああっ!?」

「ほらほら、避けねぇと蜂の巣だぜ」


関が3本の『アイスブレード』を生み出し投擲する。

彼女の右胸、左足、喉の3箇所が刃を抉る。

立っていられなくなったのか、彼女は膝から崩れ落ちる。


「ぐあっ……!?た、たすけ……せんせっ……」


声がかすれながらも、教師の瀧口に許しを乞う。

その醜い姿に、自分がギフトを憎むきっかけになった女と重なり瀧口は腕を踏みつける。


「がっ!?」

「お前ら害虫を僕が踏みつけて、世界から憎しみを喰らい尽くすのが僕の使命だ!汚い害虫が僕の視界に入るなっ!」


東海林の垂れ下げた頭を瀧口が蹴りあげる。


「関、燃やせ」

「りょーかい」


関のギフトが発動し、手のひらに炎が発生する。

その姿を見た彼女が怯える目になる。


「なっ!?なんで2個目のギフト……?それに、そのギフトは私のっ……」

「自分のギフトで自滅しな」

「ぎゃああああああ!?ああぁぁぁぁあ!?あづ、あづぃぃ!?」


醜い悲鳴が2人の男の耳に反響する。

瀧口は忌々しい目で、焼き焦げていく女が苦しむ様を見ていた。

そのまま、力尽きるように彼女は煤に囲まれた肉の塊になる。


「よっしゃ、ギフト狩り完了。まだ生きてるけど抵抗できないっしょ」

「よくやった関。後は僕が処理する。それでこの女は行方不明扱いにする」


警察、ギフト管理局、政治家、マスコミ、ヤクザ。

『ギフトリベンジャー』の名を与えられている男はそれらの組織に所属するギフト狩りの同士により人の死程度、何人でも隠蔽出来る。

そして既に彼は10人以上の粗悪なギフト所持者を葬ってきた。


「ふふっ。来年には五月雨という新入生のギフト狩りも投入予定だ。その時は関、世話を頼むぞ」

「りょーかい」


上松ゆりかのギフト狩り脱退から学んだ瀧口は、フリーのギフト狩りの存在は認めないことに決まった。

そして、既に1人、ギフト狩りの素質のある少女を彼は見出だしていた。


「じゃあ明日からゴールデンウィークだ。楽しい休日を送れよ」

「うっす」


瀧口は鎌を持って女子生徒であった身体に駆け寄っていく。

解体するのを察した関は、顔を背けてそのまま帰宅していくのであった。








『クハ、クハハハハっ!ギフト狩りねぇ……。あたしの大事な子供を好き勝手してくれるねぇ』


『視界に入れたギフトをコピーする』ギフトを与えた少年・関を遥か彼方からエニアは監視をしては嘲笑っていたのであった……。










『ギフトリベンジャー』はギフト能力ではなく、ギフト狩りリーダーの異名です。

ぽっと出みたいですが、過去に1度登場しています。


第6章 偽りのアイドル

第129部分 31、偽りのアイドルの崩壊する日常

にて、星子が秀頼の妹でギフト所持者であるのを全国に広めた張本人の教師が瀧口です。



「明智には僕もうんざりしててさ。兄貴がゴミだと妹も大変だな。ほら、明智の恨み全部妹のお前が肩代わりしろよ」


瀧口は星子に対してこういった発言をしてますが、ゆりかを殺害した原作秀頼を相当恨んでいました。





上松ゆりかに対する2人の評価


瀧口

ポンコツだけど良い子。

惜しい人材だからギフト狩りに戻って来て欲しい。


めっちゃ好き。

彼女にしたい。

上松を殺す必要なくて安心した。

ただ、裏切って複雑……。



上松ゆりかの2人の評価


瀧口

え?頭おかしいんじゃね……?

いつも善人ぶった演技するの大変そう……。


え?ギフトコピーすんのインチキじゃね……?

勝手に我のギフトコピーされたんだが……。



因みにゆりかの秀頼の評価


師匠格好良い!

強くて憧れ!

好き好き好き好き好き!

彼氏になって欲しい!

ナンバーワンじゃなくて良いから側室ポジションにはなりたい!

子供は3人くらい欲しい!

あ、円も上目遣いで師匠狙ってる!

え?瀧口?関?

ギフト狩りの仲間で恩もあるけど、人としてはどうでも良い。

なんか怖いし……、人を殺してそうだし……。




次回、寝ていた秀頼の元に……?

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