7、『アイスブレード』

廃墟内に2つの足音を立てながら、大広間に着く。

ゆりかは興味深そうに廃墟内を見ていた。


「勝負内容は恨みっこなしの1回勝負だ」

「あぁ。武器の刃物や凶器はなしだ。純粋な力のみで勝負で良いな」

「あぁ」


ゆりかの条件に頷く。

このペンダントは封印だ。

そして、もう1つ確かめるようにゆりかは口を開く。


「ギフトは有りで良いか?」

「あぁ。良いぜ」


ゆりかのギフトはわからない。

でもあたしは『アンチギフト』がある。

全てのギフトを完全にメタるそれはあたしの最強の武器だ。

あたしが頷くと、ゆりかが動きだす。


速い脚の動きに、ゆりかの姿を見失う。


「はっ!」

「っ!?」


後ろからゆりかが殴りかかってきて、あたしは床に転がり緊急回避する。

動きが速い。

油断したらすぐに負けてしまいそうだ……。


「我はヨルが気に入っている。だからこそ、ギフト狩りなんかにヨルを巻き込みたくない……」

「あたしもゆりかを気に入っている。……ただ、あたしにも使命がある」

「ふっ。我と似た境遇がありそうだな」


ゆりかが髪をかきあげる。

その隙にあたしは立ち上がる。


「我とヨルは同類だと気付いていた。……いつか、こうなるんじゃないかと思っていたよ」

「……」

「まさか、こんなに早くその日が来るなんてな」


ゆりかがあたしから間合いを取る。

彼女なりの使命も、その態度から感じる。


「師匠から我がギフト狩りと聞いたのだな?」

「あぁ」

「…………え?もしかして師匠からヨルと戦って修行しろという我へのメッセージ!?」

「いや、それは知らんけど……」

「もう、師匠ったら男前!」

「…………」


相変わらずなんだこいつ……?

あと、多分あいつはただなんとなくゆりかがギフト狩りと言っただけで、なんの意図もないと思う。

面倒だからゆりかには明智から修行のためにあたしにバラしたということにしておこう。


「こんなギフトをまた人に向ける日が来るとは……。『アイスブレード』」

「はっ!?」


氷の刃があたしに3本狙って飛んでくる。

それをあたしは右手を突き出しガードする。

あたしの目の前で氷の刃は消失した。


「なるほど、それがヨルのギフトか!ギフトを消滅させる力か」


それを確信させるためか、また氷の刃をあたしの首筋を狙ってくる。

しかし、首筋に当たる直前、氷が砕け散る。


「常時ガードしているわけか。ヨルが反応するまでもなくオートガードか」

「けらけらけら、ギフト合戦なら負けないぜっ!」


あたしは跳躍し、ゆりかに狙って手刀を狙うもゆりかが半歩下がり避けていく。

そのまま蹴りを狙うが、ゆりかからも脚を上げられ防がれる。

そのままお互い離れる。


「へへっ。お互い互角だな」

「いや、我はもうヨルを攻略している。上を見ろ」

「なっ……!?」



あ……、これ終わった……。


それから対処する間もなく、たくさんの瓦礫があたしの頭上から落ちてくる。

何も出来ないまま、あたしはゆりかに救出されていた。


「我の勝ちだ」

「…………なんでこんなに瓦礫が……?」

「お前が肉体攻撃をしている時に廃墟の天井や柱に『アイスブレード』をぶつけて崩していただけだ。お前のギフトは確かに我のギフトを打ち消すようだが、ギフト以外は打ち消せぬようだな」

「っ……」


初見であたしのギフトの弱点を付いてきた。

ゆりかにあたしは完全敗北した……。


「師匠なんかギフトを使わないで我を圧倒した。ヨル、ハッキリ言ってお前は力にうぬぼれている」

「ぐ……」

「お前は師匠と会う前の我とまったく同じだな。負けることがそもそも頭にない奴は弱い。師匠は多分負けてばっかりで弱虫だからあんなに強いんだと思う」


ゆりかから強さを説かれる。

明智がゆりかをギフト無しで退けた……?

わけがわからない。

あんなに凄いギフトを持っていながら、あいつは使わなかったのか……?


ずっとタケルの隣にいる明智。

ゆりかに完全敗北したあたしは、あいつの存在が遥か遠くにあるのを痛感した……。


「恨みっこなしだぞ」

「……あぁ。悪かったよゆりか」

「気にするな……。ただ、ヒントは与えておく」

「ヒント……?」


ゆりかに引っ張られて無理矢理に立たせられる。

目が合うとゆりかは呟くように囁いた。


「教師の瀧口には気を付けろ」


瀧口?

普段は優しく温厚な先生として生徒からも人気がある教師だ。


「奴の正体は『ギフトリベンジャー』だ」

「なっ……?」

「正直、もうヨルにはギフト狩りに関わらないで欲しい……。無理な話だとは思うがな……」


ゆりかはそれだけ言い残し廃墟を立ち去った。

1人残ったあたしは瓦礫の山を茫然と見ていた。


「『ギフトリベンジャー』……。あいつが……!あいつがっ!?」


あたしは託されたペンダントを握る。

このペンダントの持ち主は『ギフトリベンジャー』に殺されたようなもの……。

あたしが復讐するべきターゲットの1人。


「でも、ダメだ……。まだまだあたしは弱すぎる……」


ゆりか、そしてゆりかより強いという明智にすらあたしは敵わない。

クソッ……、あたしはこれからどうしたら良いんだ……。


「タケル……、助けて……」


あたしは愛しい名前を告げて、涙を流す。

この狂っていて壊れた悲しみの連鎖を断ち切る方法が欲しい。

誰でも良い、教えて欲しい……。

全てに打ちのめされた気分であたしは崩れ落ちた……。











女同士の殴り合いから友情が深まりました。



ゆりかのギフト能力は氷の刃を飛ばす『アイスブレード』です。

刃だけに限らず、氷を自由自在に形を変えて投擲できます。

凍らせるよりも投げるがメインです。

荒事特化ギフト。



因みにギフトなし、武器ありならヨルの方が強いです。

あの子は拷問とか出来るハイスペック女子ですから。



これまでのヒロインの勝負描写を見て、

咲夜>ゆりか>ヨル>絵美>咲夜

こんなわけわからん図になっています。



参考描写一覧


咲夜>ゆりか

第8章 病弱の代償

第178部分 19、谷川咲夜は相談に乗る


ゆりか>ヨル

第9章 連休の爆弾魔

第214部分 7、『アイスブレード』


ヨル>絵美

第5章 鳥籠の少女

第94部分 50、佐々木絵美の末路B


絵美>咲夜

第4章 変人親子の喫茶店

第41部分 5、ギフト持ちの犯罪

第5章 鳥籠の少女

第81部分 37、女子4人の勉強会



力バランスは安定しているのかもしれません。

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