16、津軽円はムカつく

夜、私のスマホがブルブル震えだす。

ディスプレイには『明智秀頼』の名前が出てきた。

私は、面倒と思いながらも重要な話だと悪いので通話状態にする。


「もしもし」

『あっ、もしもし円。俺、明智だけど』

「どうしたの?珍しいわね?」


明智君が私を苦手にしているのはわかってる。

けど、そうさせている私が悪い。

しかし、そんな状態でも私と付き合ってくれる明智君の根は真面目だ。


多分、豊臣君を知らなかったら彼に好意を寄せるくらいには好きな性格をしている。

それがまたイライラを加速される。


十文字君みたいにいっそ好みから遠い性格の方がよっぽど絡みやすい。


「もしかして三島遥香と接点が持てた?」

『いや、今日は彼女が帰った後で三島とは会えなかった』

「そう……」

『だけど違う問題が浮上した』

「違う問題ですって!?」


明智君の慌てた態度になにか予期せぬハプニングにでも見舞われたのか心配になってくる。

「どうしたの?早くしゃべりなさい」と急かすと、躊躇いながら口を開いた。



『エイエンちゃんが俺をからかってくる……』

「は?」

『からかい上手の宮村さんだったんだ……』

「はぁ……。は?」

『俺の唇触ってきたり、俺に『彼氏が欲しいなぁ』みたいに言ってきたり、目の前で源氏物語の勉強をし出すんだ!…………もしかしてエイエンちゃんって俺に気があるのかな?』


気があるどころか中学時代からその子は君を狙ってます。

明智君が居ないところではかなり牽制力が強い。

頭もまわるしかなりの策士である。


もし一言『宮村永遠は明智秀頼が好きよ』と漏らしたら来月までには付き合っているかもしれない。

今回の電話はもしかしたらその確信が欲しいから電話をしてきたのだろう。


「…………」


それを考えたらイライラしてきた。

十文字君なら許せるけど、明智君なら凄くイライラする。


「はぁ?自惚れ過ぎ。明智君が永遠となんか付き合えるわけないでしょ」

『だ、だよな……』

「からかわれてるだけに決まってるじゃない。おめでたい頭」

『そ、そこまで言わなくて良いだろうがっ!』


なんで私に恋愛相談してくるの……?


私、明智君の顔が見えてる時なら必死に気持ちを悟られないように仮面を付けられる。


でも、明智君の顔が見えないと油断して多分情けない顔をしてる。

本人には絶対見せられないくらいに、傷付いた顔をしている。




ねぇ、もしかしてだけどあなた……?




あり得ない妄想が頭を過る。

聞きたい、あなたを知りたい。

ねぇ、あなたは何者なの?


似ているだけ?

本人?


豊臣君のことを考えているのに、いつの間にか明智君に変わっちゃう……。

ねぇ、もしかしてあなたは……?


感じない?

明智君は、私を来栖由美って思わない?


聞きたい。

あなたは、津軽円が好き?



『ははっ……。だよなぁ、エイエンちゃんが俺を……なんて考えた俺がバカだったよ』

「ふんっ。まったく、変な電話しないでっ!」

『ご、ごめん……』


でも、5年間も明智君に冷たく当たってきた口は今更改善できなかった……。

もし、豊臣君なら私を幻滅するかもしれない。

……そんなことを考えると伝えられない。


『なぁ、円……』

「今度は何?」

『…………体調悪い?』

「え?」

『なんとなくなんだけど……、俺にだけ無理させてる気がしてさ……。同じ転生者とはいえ嫌いな相手とずっと一緒に行動してきて、嫌になってんのかなって……』

「ぜ、全然そんなことないわよ!……明智君ごときが私を心配するとか生意気過ぎ」

『あー、お前はそういう奴だよな!可愛げがねぇ!』


もし、豊臣君の口から『可愛げがねぇ!』なんて言われたら、多分立ち直れない。


『まぁ、いいや。お前が体調悪いかどうかとかどうでも良いや』

「拗ねてる拗ねてる」

『ッ……。病は気からみたいなところあるからメンタルケアとかしておけよ!じゃーな!』

「わかったわよ!あと、関係ないけど急に『メンタルケア』とかいう単語が出て驚いた…………え?」

『じゃあ横文字NGだな。じゃーな!』

「ま、まっ……!?」


売り言葉に買い言葉で返事をしてしまっていたが、待って。

私、人生で『メンタルケアしろ』なんてアドバイス今まで1回しかされたことないのに。

なんで、明智君が簡単にそれを口にするのっ!


「ねぇ……、豊臣君なの……?どうして気付いてくれないの……。違う……明智君が豊臣君なわけない。…………彼は死んじゃったの……」


ねぇ?

前世の恋を引っ張って気持ち悪いって豊臣君は思うかもしれない。

でも、それくらい私は本気なんだよ。


君は、もう私を忘れた……?



なんて、明智君と豊臣君の違いがわからなくなってきている私が何言ってんだろって感じよね。

お願い、豊臣君……。


明智君から助けて……。

私の思い出、何から何まで全部上書きしてくるの……。


こんな辛い想いするなら、前世の来栖由美の記憶なんか要らなかった……。

ゲームみたいに賑やかし要員の津軽円として生きたかった……。


叶うはずのない恋心を引きずるのが痛い。


唯一無二だった恋心を上書きされるのが痛い。


嫌いなはずの相手なのに、女とイチャイチャされるのが痛い。


袋小路から抜け出せない気持ちはどうやって清算するべきなの……?






豊臣君ってどんな人だっけ?


剣道が誰より強くて、手品も誰より上手い人。

明智君も剣道と手品できるとか言ってたけど絶対豊臣君より弱いし下手でしょ!


ゲーム好きな人。

明智君もずっとギャルゲーして絵美に乱入されるとか言ってたな。


おっぱいより腋に注目しろって語っていたな。

明智君、私の腋に注目してるって断言したな。


横文字NGってすぐに気付いてくれた人。

明智君はずっとその言葉で私に突っ込むよね。


『円の言うことをなんでも聞く』





「だからぁ、なんで全部明智君に回帰するのよ……」




あぁ、本当にムカつく……。

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