52、宮村永遠の好きなもの
2回目。
「ウチ、秀頼と滑るの楽しみにしてたぞ」
「おー」
白と黒の色の着いたタンクトップビキニ、通称・タンキニの水着に身を包んだ咲夜は俺と手を繋いでウォータースライダーの上まで登る。
さっきの勢いの速さが脳裏を過る。
怖い以外の感想がない。
「秀頼、怖くなんかないぞ」
「咲夜……」
「怯えるな、お前は強い男だ。……でも、その弱さもまたお前の魅力だ」
「そう……か?」
「たまにはウチに甘えろ秀頼」
「咲夜さん……」
俺の手を握る小さな咲夜の手はいつもよりも強い手に思えた。
そして、目で安心しろと語っている。
「怖くないぞ、固定概念に負けるな秀頼」
「おう!怖くない!絶対負けない!」
「その調子でいくぞ秀頼!」
「おう!」
いざ、咲夜と一緒にウォータースライダーに乗り込んだ。
「こえええええええええええええええええ」
「ムリィ……、ウチも無理……」
「なんだお前ええええええええ!?」
グダグダだった。
―――――
3回目。
咲夜と若干形は似ているものの、オレンジ色のタンキニの水着に身を包む津軽が相手だ。
緑色の髪に合わせた色に思える。
咲夜と一緒に選んでいたし、ついでにとか言って買ってそうだ。
「てか、なんで俺はお前とも滑らんとあかんの?」
「ふっふっふー、明智君の不幸はステーキの味」
「良い趣味してるよなお前って……」
「……なんか最近ね、明智君のこと、私の前世の知ってる奴とちょっと似てるかなー……って思ったり思わなかったり……」
「はあ?」
からかうように笑う津軽。
俺も微かになんとなく、そういう感情を津軽に持っているような気がしないでもない。
複雑な心境のままウォータースライダーで滑る準備が終わる。
「とか言えば惚れる?」
「惚れるかああああああああああああああ!」
そういう奴だよなお前は……。
一瞬でも横文字が苦手なのが来栖さんと似ている気がするとか思ったとか言えねえ!
絶対前世はクズ女だわこいつ!
―――――
4回目。
胸の大きい理沙は、シンプルな藍色のビキニの水着を着ていた。
そこになんとなくタケルの趣味が見えて、嫌になった。
「本当にもう3回して疲れているだろうにこんなこと頼んでごめんね明智君」
「ううん、大丈夫だよ……」
「でも1回も2回も変わらないよ!ね、明智君」
「6回滑るんだよ、だいぶ違うだろ」
「そんな不機嫌にならないの。怖いならお姉さんに捕まって」
「お姉さんって、……お前はかなり誕生日遅いだろ」
理沙は3月後半の誕生日。
それより後の誕生日を見付ける方が大変である。
「そういうことじゃないって。ほら、私に身を委ねて」
「あ、ああ」
しっかり者の理沙の手に捕まる。
「本当、もう1人の兄さんみたい」
そのまま笑って一緒にウォータースライダーへ流されていく。
―――――
5回目。
特にオチのなかった真面目な理沙が終わり、あと2回かとようやく見えた終わりに安堵する。
待っていると絵美がやって来た。
「素敵だよ秀頼君」
「ああ、俺も絵美は素敵だと思う」
「どうせ発展途上の胸ですよー」
「あはは……、冗談だよ」
「いや、それは冗談じゃなくてガチでしょ。何、笑って誤魔化そうとしているんですか!騙されません」
早口でメッチャ否定された。
絵美は白いワンピース型の水着を着ていた。
とても清楚で、ちょっと絵美を異性として見れなくもないくらいに恥ずかしい。
「これは確かに怖いね、秀頼君」
「だ、だよね……」
「秀頼君……」
「ん?」
真面目な声をして絵美が手を握ってくる。
そして、上目遣いで俺を見てくる。
「絶対にわたしの手を離さないで……。置いて行かないでね……?」
「ああ、絶対に離さない!どこまでだってお前を連れて行くさ」
「絶対に!絶対ですよ!」
「絶対そうするさ!」
絵美がそう言うなら離すもんか。
どこまでだって俺が絵美から手を離さない。
「あ。ちょっと!?秀頼君が台から飛ぶタイミング早い」
「え?」
「あああああああああああああ」
すぐに絵美と離れ離れになった。
―――――
6回目。
いい加減に慣れてきた頃に最後だもんな……。
ぶっちゃけ、もう俺これ終わったら帰って寝たいぐらいの勢いだ。
「お待たせ、秀頼さん」
「え、エイエンちゃん……」
青いビスチェ水着が、永遠ちゃんのラインをよく引き出していた。
流石俺の憧れのヒロイン様だ。
幸せ……、感無量……。
こんな子とくっつきながらウォータースライダーに乗れるなら、もう怖いのなんか我慢できる。
「俺、……ハッピーっす」
「ふふっ、秀頼さんって面白いよね」
めっちゃ拝みまくった。
「秀頼さん……」
「どうかしたエイエンちゃん?」
「私、ようやく報われました……。この景色が見たかったんです。本当に……、本当に……、ずっと全員でプールに行く約束を果たしたい。心の中にはそれがずっと心残りのようにあったんです。ようやく叶っちゃいました!はは……、凄い……、本当に、こんな日が来るのはあり得ないと思っていたんです」
ゲーム中でも見たことないような、1番眩しい笑顔で美しく微笑む永遠ちゃん。
ああ、ようやく永遠ちゃんの夢が叶ったんだ。
原作のタケルでも叶えることができなかった夢。
永遠ちゃんが、秀頼と絵美と理沙と津軽とタケルに混ざって行くはずだったプールの約束。
咲夜とマスターは原作には登場しないけど、ようやくその約束が叶ったのかと永遠ちゃんルートの出来事を思い出す。
「これで満足しちゃあダメだぜエイエンちゃん」
「え?」
「まだこんなのはゴールじゃない。スタートに過ぎないんだ」
「秀頼さん……」
「もっともっと欲を見せていかないと、死んでも死にきれねえ思いだけが残ってしまうぞ!冬には全員で鍋パでもするか?」
「やりたーい!」
「じゃあまだまだ満足するんじゃねーぞ!」
「はい、秀頼さん!」
まだ原作は始まってすらいないんだ。
これから、タケルは様々な事件に巻き込まれることになる。
俺はゲームのエンディングには消えているかもしれないけど、永遠ちゃん、君はずっと笑顔でタケルの側で幸せになるんだ。
「好きいいいいいいいいいいいいい」
永遠ちゃんが叫びながらウォータースライダーに乗り込む。
好きと叫び続けているので思わずなんのことかと聞き返す。
「なにがあああああああ?」
「それはああああああああああああああああ」
「きみ」
バシャーンと俺と永遠ちゃんはプールの地面に辿り着く。
「……」
終わった……。
俺は6回のこの地獄を耐え抜いた。
「おーい大丈夫か秀頼?」
タケルの声がして、プールで死んでいた俺の身体を無理矢理起こしてきた。
「チーン、死んでます……」
「よし、大丈夫だな」
冷たい声でタケルが手を離すので、そのまま倒れないように足に力を入れる。
そういえばウォータースライダーで滑っていた時の会話が気になってしまい、直接聞いてみる。
「それで?何が好きなのエイエンちゃん?」
「あ、あわわ……、えっとですね……」
慌てた声の永遠ちゃん。
さっきまで何が好きかと叫んでいた記憶がまだ残っている。
その答えを聞く前に、ウォータースライダーが終わってしまったのだ。
「ゴミクズが好きです」
「は?」
顔を赤くした永遠ちゃんの残した言葉に素で返事をしてしまうのであった。
†
鳥籠の少女編、完結です!
本編始まって、半分以上が鳥籠の少女編で尺を使ってかなりビビりました。
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