第四章 天才魔術師デルフォスの生き様
第44話 荒ぶるデルフォス1
今日、
「お、お願いします……どうか……どうか怒りをお鎮め下さい……!」
部屋の物を壊してまわっていると、ハウラが俺に縋りついてきた。
メイドの分際で生意気な奴だ。
「うるさい黙れッ! この俺に口答えする気かあぁぁぁッ!」
「きゃあっ?!」
俺は怒りに任せてハウラの顔を殴った。
それから、気の済むまで生意気なメイドに罰を与え続ける。
「クソがッ! どうして俺がこんな目に合わなければいけない! 答えろッ! 答えてみろよハウラッ!」
涙を流しながら、惨めに床を転がりまわるハウラ。普段は澄ましているメイドが無様な姿を晒すのは、この上なく滑稽で愉快だ。
「も、もうしわけ……」
「俺は質問に答えろって言ってんだよッ!」
「ひぃっ?! うぐッ!」
再びハウラの腹を蹴り上げたその時。
「うっ、うえええぇぇッ!」
そいつは生意気にも、俺の部屋で吐きやがった。
「――チッ。汚ねえな。少し蹴られたくらいで吐くなよ」
俺は不快な気持ちになり、ハウラの頭に足をのせる。
「うぐっ、も、もうしわけ……ありません……」
だが、優しいので吐瀉物に顔から突っ込ませるようなことはしない。
あまりやり過ぎると壊れて使い物にならなくなってしまうからな。
「もういい、興が削がれた。……俺はこれから数日、妹を探しに出かける。お前は部屋を片付けておけ。…………クソ」
俺はうずくまるハウラにそう告げ、部屋を後にした。
そして出かける準備を整え、屋敷の外に停めてある馬車に乗り込む。
「話は聞いているだろう。今すぐに馬車を出せ。この件について口外すれば貴様を殺す」
「はいでゲス」
「……………………」
俺は黙って馬車を降りた。
他に停まっている馬車がないか探してみたがどこにも見当たらない。
どうやら、これに乗ってあのクソガキどもを探さないといけないらしい。
仕方なく、俺は再び馬車に乗り込んだ。
「忘れモンでゲスかいデルフォスの旦那ぁ。まったく、おっちょこちょいでゲスねぇ!」
「……どうしてよりによってお前なんだ」
「へ……? あっしのこと覚えててくれたんでゲスかい? 今日の朝と昼に会っただけなのに……!」
「黙れッ! 質問に答えろッ!」
俺は忌々しい馭者を怒鳴りつける。
「なぜ貴様がここに居る!」
「どうしてって……連帯責任ってやつでゲしょう? あっしと旦那は、まんまとあのガキ――じゃなくて、嬢ちゃん達を逃しちまった大罪人でゲスからねぇ~」
「ふざけるなッ! 貴様の責任だろうがあぁッ!」
俺は魔力を込めた右手を馭者に突きつける。
「このカスがぁッ!」
「ひいぃぃぃっ! カスじゃなくてガスでゲスぅっ!」
「は?」
「……あっしの名前でゲスよ。惜しかったでゲスねぇ~」
その時、俺は理解した。
このカス相手にいちいち怒っていては身が保たない。
同じ言語を話してはいるが、こいつのようなカスと意思の疎通を図ることは不可能なのだ。
「………………」
「お、やっと席についたでゲスね。それじゃあ、出発するでゲスよ~」
そう言いながら、馬車を動かし始めるカス。
心底ムカつく奴だ。こいつを見ているとあのゴミ――アニのことを思い出す。
「それにしても、今日はいい天気でゲスね~」
ゴミが消えたと思ったら、今度はカスと行動を共にする羽目になるとは因果なものだ。
「旦那は、嬢ちゃん達の行き先に心当たりがありやすかい? ないでゲスよね~。乙女心とか分かる感じじゃなさそうでゲスし」
実に腹立たしい。一体、誇り高きヴァレイユ家の次期当主であるこの俺が何をしたというのか。
「……そう言うあっしはどうなのかって? いや~、嬢ちゃん達の行き先は分からないでゲスが、乙女心は理解してるつもりでゲスよ。何を隠そう、この馬達は――」
「おいカス」
「ガスでゲス」
「今すぐ口を閉ざすか、二度と口がきけないようになるか選べ」
「……なぞなぞでゲスか?」
刹那、俺は魔力を高め始める。髪の毛は逆立ち、魔力を感じとった馬どもが恐怖で
「あっし、そういうのは得意でゲス!」
「今すぐ黙るか、黙らずに死ぬか選べと言っている」
「………………」
「選べと言っているんだ!」
「だ、だから今すぐ黙る方を選んだんじゃないでゲスか。察しが悪いでゲスねぇ、まったく……」
カスが溜息をつく。
「ああああああああああああああああああああああッッ!」
俺は怒りで我を忘れ、全力で頭を掻きむしった。
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