第34話 三姉妹の優雅な家出4


「ふふふ。もちもちぃ、ぷにぷにぃ、だいすきぃ……!」


 朝になってもなお、頬っぺたの快楽に酔いしれ続けているメイベル。


「メイベル……起きなさい……」

「く、苦しいよぉ……っ!」

「ううん……?」


 ソフィアとエリーの呼びかけによって少しだけ正気を取り戻した。


「うるさいわね……あんた達は黙ってわたしにぷにぷにされてればいいのよ……」


 メイベルはそう言いながら目を開ける。


 すると、自分の両腕がソフィアとエリーを抱き寄せていることに気付いた。


 どうやら、そのせいで二人とも起き上がれなかったらしい。


「――ああ、悪かったわね。ほら、もう大丈夫よ」

「逃げられないようにして…………いきなり告白するだなんて……あなたもしかして……そういう趣味だったの……?」

「は?」

「……えっと、その……ごめんなさい…………他の人にして……」


 目を細めながら呟くソフィア。その髪はぼさぼさである。


「な、なに言ってんのよ!」

「あ、あのねメイベル。その……女の子が好きでもいいけど……家族同士はいけないと思うの……」


 今度は、寝癖のついたエリーが恥ずかしそうに顔を赤らめながら言った。


 メイベルは、自分が寝ている間に何かやらかしていたことを悟る。


「そそそ、そんなわけないでしょ?! 変な勘違いしないでよねっ!」

「無理に隠さなくてもいい……私、応援してるわ……」

「きっと素敵な人が見つかるよ。頑張ってねメイベル!」

「だから違うって言ってるでしょっ! うわあああああああんっ!」


 こうして、メイベルに対する誤解は深まっていくのだった。



 ――それからベッドを這い出た三人は、仲良く身支度を整え始める。


 この国に伝わる伝説の魔獣『フェンリル』を模した、ゆるふわ犬耳きぐるみパジャマ(三人お揃い)(メイベルのお気に入り)(ソフィアとエリーは強制的に着用させられている)を脱ぎ、いつもの服に着替えた後、並んで洗面所へ向かう一行。


 顔を洗い、歯磨きをして、


「…………………………ふわぁ」


 大きなあくびをした後、その場から離れようとするソフィア。


「――ちょっとあんた。そんなぼさぼさの髪でどこに行くつもり? 髪くらいとかしなさいよ!」

「…………おやすみなさい」

「寝たら頬っぺたはたくわよ」

「ぼ……ぼうりょく反対……」


 ソフィアは震えながら戻ってくるのだった。


 *


 ――それからしばらくして。


「あれ……? うーん……上手くいかないなぁ……」


 エリーは、今だに寝癖と格闘していた。


「…………来なさい、エリー。たまにはわたしがやってあげるわ」

「え? ほんと?! メイベルありがとー!」


 そんな彼女のことを呼び寄せ、代わりに髪をとかしてあげるメイベル。


「…………………………」

「……ソフィア。言っておくけど、あんたは自分でやんなさいよ」

「酷いわ…………これから頼もうとしていたのに…………」

「どうせそんなことだろうと思ったわ」

「ああ……おにーさまがいてくれれば……」

「――あんたまさか、今までお兄ちゃんに髪とかしてもらってたの!?」


 ソフィアの口から飛び出した衝撃発言に驚愕するメイベル。


「……い、いつもじゃないわ……殊更ことさら面倒くさいときだけ……」

「あたし、やってもらったことないのにー! ソフィアずるーい!」

「やっぱり、あんたはお兄ちゃんに会いに行かずに一人で頑張った方が良いかもしれないわね……」


 メイベルは、呆れたように呟く。


「おにーちゃんといえば、この後どうするの? どうやっておにーちゃんのこと探す? ねえねえ――」

「じっとしてなさい。まだ終わってないんだから」

「あ、ごめん……」

「わたしに考えがあるわ。聞き込みに最適な場所を知ってるの。この町にもちゃんとあったから、あそこで聞けば間違いないわね!」

「ふーん。それってどこのこと?」


 エリーの問いかけに対し、メイベルは自信満々に答える。


「酒場よ!」

「さかばかぁ…………さかばってなに? ソフィア知ってる?」

「大人が……お酒を飲むところ……」

「ああ、大人の人がお酒を飲むところかー。あたしもその『酒場』なら知ってるよー。危ない人たちが沢山いるから近づくなって言われたなぁ…………ってえええええええええええええええええええええええええっ?!」


 かくして、三人で町の酒場へと乗り込むことになったのだった。


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