第33話 てんこからの忠告


「しっかりしてっ! 目を覚ましてよオリヴィア!」

「どれどれ……わらわに見せてみい」


 てんこは僕のことを押しのけて、オリヴィアの容態を伺う。


「…………なるほど、おそらく過労じゃな。疲れておったところに大きなショックを受けたせいで倒れてしまったようじゃ。……しばらく安静にしておれば良くなる」

「千里眼って……そんなことまで分かるの……?」

「いや、単純にわらわに医術の心得があるだけじゃな」

「…………………………」


 何とも言えない沈黙の時間が流れる。


「オリヴィアがそんなにぼろぼろだったなんて……僕がもっと早く気づいていれば……!」

「主さんに余計な心配をかけないよう振る舞っていたのでありんしょう。気付けないのも無理はありんせん。あまり自分を責めなんすな」

「ぎんこさん……でも!」

「主さんが慌てたところでどうにもなりいせん。とにかく、オリヴィアさんを寝かせてあげられる場所まで運びんしょう」


 …………確かに、ぎんこさんの言う通りだ。


 *


 それから少し休むと、オリヴィアはすぐに目を覚ました。


「ご迷惑をかけてしまい申し訳ありませんアニ様……それからぎんこ様とてんこ様も、ありがとうございます」

「本当にもう大丈夫なの……?」

「はい。この通り、すっかり元気になりました!」


 オリヴィアはそう言ったけど、どう見てもやせ我慢しているようにしか見えなかった。


「それじゃあ、オリヴィアも元気になって、わらわも腹一杯になったことじゃし、そろそろおいとましようかのう」

「あの状況でよくたらふく食えんしたね……我が妹ながら、その神経の太さには尊敬するでありんす……」

「なんじゃ姉上、わらわのことを褒めても何も出んぞ!」

「本当に……尊敬するでありんす……」


 ぎんこさんはそう言いながら、小さくため息をつく。


「もともと僕がお礼をしたいって言ったんだ。てんこが喜んでくれて良かったよ」

「やっぱり主さんはよう出来た子でありんすなあ。……うぅっ……!」


 涙ぐみながら、僕に向かって拝むぎんこさん。


「あはは……」


 僕は苦笑いすることしか出来なかった。……ぎんこさんも過労で倒れちゃわないか少しだけ心配になる。


「なんじゃ姉上。わらわが医術を学んだのも、元はと言えばお主がオリヴィアのように無理をして倒れたからじゃろう? だからわらわも姉上想いのよくできた子じゃ!」

「そうでありんすね……」

「もっと褒めて良いぞ!」

「……はいはい、てんこは良い子でありんすよ」

「ふふん、そうじゃろう!」


 もう手遅れだった。


 …………僕もてんこに医術のことを教えてもらおうかな……オリヴィアが無理をしすぎないように。


「――さてとアニ。お主に一つだけ忠告がある」


 そんなことを考えていると、てんこが僕の方を見て言った。


「えっと……いきなりどうしたの? もしかしておかわり?」

「これに関しては真剣な話じゃぞ、聞け。……お主らはなるべく早くこの町を離れた方が良い」

「ど、どうして……?」

「近くからスケアクロウに匹敵するほどの悍ましい邪気を感じるのじゃ。お主か……お主に近しい者を探しておる。遭遇してもろくなことにならんじゃろうて」


 その言葉を聞いたオリヴィアが、血相を変えててんこに詰め寄る。


「な、何者かがアニ様を狙っているということですかっ?!」

「その可能性が高いのう……これに関しては、わらわの千里眼を通して見てやったんじゃから、素直に聞いておいた方が良いぞ」

「――ならこうしてはいられません! 一刻も早くこの町から出ましょう!」


 オリヴィアは、僕の手を取りながら言った。


「で、でも、オリヴィアの具合が……」

「そんなことを言っている場合ではありません! とにかく今はアニ様の身の安全を確保することが先決です!」

「僕は大丈夫だよ。それよりも、今はオリヴィアがしっかりと休まなきゃ」

「私は平気です! アニ様のお側にいれば元気になるので!」


 言ってることが滅茶苦茶だ……。


「じゃがアニ。どちらにせよ、この町にはお主が手にした大金を狙っている不届き者も大勢おるんじゃ。長居は良くないぞい」


 僕……狙われすぎじゃないか? どうしてこんなことに……。


「やはり、今すぐにでも町を出発するべきです!」

「オリヴィアが本当に大丈夫なら……それでもいいけど……」

「はい! 私は大丈夫です!」

「………………」


 ――結局、僕はオリヴィアに押し負けて町を出発することになるのだった。

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