第三章 アニと妹
第31話 アニ、大金持ちになる
スケアクロウをギルドに引き渡して一通り手続きを済ませたあと、僕は大勢の冒険者の人に囲まれていた。
「一体どうやって奴を捕まえたんだ? お前のどこにそんな実力が?!」
鎧を着た大きな男の人が、僕に詰め寄ってくる。
「だ、だからぁ……僕が捕まえたんじゃなくて道端に落ちてたんです……!」
「そんな言い訳が通用すると思ってるのかっ!」
「ひ、ひぃぃ…………」
通用すると思ってました……ごめんなさい。
僕が心の中で謝っていると、他の冒険者の人達までどんどん近づいてくる。
「その歳で一億の賞金首を捕まえるなんて、すごいでやんすねぇ~。あっしを弟子にしてくだせえ!」
「そ、それよりもお姉さんと一緒にパーティを組まない? た、沢山お菓子とか食べさせてあげるよぉ〜! ジュースとかも作れるよぉ〜! お姉さん錬金術師だから……ふひっ、ふひひひひっ!」
「甘言に惑わされるな少年。君には優秀な冒険者になれる素質がある。……どうだ、少年。我輩と一緒にパーティを組んで、共に汗を流さないか……!」
「ぜ、全員お断りしますっ!」
「「「そこをなんとか!」」」
だめだ。誰一人として僕の話を聞いてくれない。
「まあ待て」
僕が困っていると、てんこが間に割って入ってきた。
「こんな弱っちそうな奴が、わらわ達でも苦戦しそうな相手をたった一人で捕まえられるはずがなかろう。本人の言う通り、スケアクロウは道端に落ちていたんじゃ」
どうやら、僕のことを庇ってくれているらしい。「弱っちそう」って言われるのは少し気に食わないけど、今はてんこに合わせておいた方がよさそうだ。
「……そう、その通りだよてんこ! いやあ……僕は運が良いな!」
「主さんは隠し事が下手でありんすなあ」
「どどど、どういう意味ですかぎんこさん?!」
てんこが味方についてくれて安心した矢先、思いがけない裏切りに遭い僕は動揺する。
「――二人とも黙っとってくれんか。話がややこしくなる」
「「……はい」」
それから僕とぎんこさんは、てんこが皆を説得し終わるまで縮こまって静かにしていたのだった。
*
――それから数時間後。
「ほぉー……これがこの町の食事処か。ハイカラじゃのぉ」
「はいから? ってなに?」
「なんじゃ知らんのか。ハイなカラーのことじゃよ」
「ぜんぜん説明になってないよ……」
スケアクロウを捕まえた賞金を受け取った後、僕たちは町のお店でひと息ついていた。
「ところで、本当に主さんの奢りで良いのでありんすか?」
「うん。だって、ぎんこさん達が冒険者ギルドまで案内してくれたおかげで賞金が貰えたわけだし……貰いすぎて正直使い道に困ってるし……」
僕はそう言いながら、ギルドで貰ったカードを眺める。
この国の通貨には特殊な魔力が込められていて、その魔力が価値の担保や偽造の防止に役立っている。
おまけに、魔力は別の物と紐づけることができるので、一億円分の魔力が込められたこのギルドカードさえ持っていれば、僕はいつでも自由にお金を使うことが出来るのだ。
でもそれはつまり、常に一億円を持ち歩いているということと同義だから、その分盗賊や悪い人に狙われる危険性も高まる。
……大金を持っている冒険者は、基本的にはかなりの実力者ってことになるから、自分の力で危険を退けろってことだろうけど。
「とりあえず……この町にとどまってるのは危ないよなぁ…………」
「お主ほどの力を持つ者が何を弱気なことを言っておる。一周回ってムカつくんじゃが?」
「な、何を言ってるのてんこ?! だ、だから僕がスケアクロウを捕まえられたのは偶々――」
「そんな見え透いた嘘でわらわを騙せると思っておるのか? わらわの『千里眼』もずいぶんと舐められたものじゃな」
「……………………」
どうやら、これ以上は何を言っても無駄なようだ。
「主さんにも何やら事情がおありのようでありんす。深入りはいたしんせん」
「え? どうしてじゃ姉上? こやつの弱味を握れば大金をせしめ――」
「何か言ったでありんすか?」
握り拳をつくって、てんこのことを威圧するぎんこさん。
「じょじょじょ、冗談じゃよお……あ、姉上には冗談が通じないのお……!」
「ありがとうございます、ぎんこさん。――とにかく、早く料理を注文しましょうか。てんこも好きなだけ食べて良いよ!」
「ふん、お主を破産させてやるわ!」
「それはやめてね」
僕はさりげなく話題を逸らすために、お店の給仕さんを呼ぶ。
「お待たせいたしました。ご注文は――ってえええ?!」
そこに現れたのは、オリヴィアさんだった。
「あ、オリヴィアさん!」
「どどどどどどうしてアニ様が?!」
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