第24話 ヴァレイユ家の崩壊1


 ヴァレイユ家当主、グレッグはデルフォス達の帰りを心待ちにしていた。


 神からの加護を受け、才能にあふれるヴァレイユ家の人間が、何一つとして魔法を授かれないことなどありえない。


 従って、メイベル、ソフィア、エリーの三人が魔法を授かれば、ヴァレイユ家の力は更に強大なものとなるだろう。


「クックック…………!」


 レスター家の才能を取り入れるために引き取ったアニが無能な厄介者であったことはこの上ない損失だったが、これで全て取り戻せる。


 グレッグは、デルフォスからの吉報を想像しただけで、笑いが止まらなかった。


 ――その時、部屋の扉が叩かれる。


 デルフォスが戻ってきたのだ。


「いいぞ。入れ」


 グレッグが扉に向かってそう言うと、青ざめた顔をしたデルフォスが中に入って来た。


「…………たた、ただいま……戻りました。……父さん」

「おお、帰ったかデルフォス。――それで、結果はどうだった? あいつらは一体どんな魔法を授かったんだ?」

「…………メイベルは火属性と強化の魔法、ソフィアは氷属性と幻惑の魔法、エリーは雷属性と治癒の魔法の適性を……それぞれ授かったよ」

「全員二つか。光属性の適性という素晴らしい力を持つお前には及ばないが……まあ、奴らにしては十分すぎる結果だ」

「……………………は、ははは。そうだね。あのクソ――あいつらにしてはよくやった方だと思う」


 引き攣った顔で笑うデルフォス。どうやら、このまま真実を隠し通すつもりらしい。


「ふん、たまには褒めてやるか。私の娘どもをここへ呼んで来い」

「い、いやぁ~……あいつらなら今日は疲れてるって言って、屋敷に帰ってきてすぐに全員寝ちゃったよ……。ま、まったく、父さんに挨拶しないなんてとんでもない不届き者だね!」


 デルフォスはかなり苦しい言い訳をして、どうにかその場をおさめようとする。


 なんとか誤魔化している間に、従者たちにこっそり妹たちを連れ戻させようと考えているのだ。


「ふん、そうか。…………まあいい、今日くらいは許してやろう。――お前も今日はご苦労だったな。もう休んでいいぞ……見たところ、随分と顔色が悪いようだからな」

「そっ、そうさせてもらうよ。それじゃあ」


 冷や汗を流しながら、そそくさと立ち去ろうとするデルフォス。


 刹那、彼のポケットからくしゃくしゃに握りつぶされた紙切れが転がり落ちた。


「…………何だ? 何か落ちたぞデルフォス?」

「――――ッ!」


 とっさに、床に落ちた紙切れに手を伸ばすグレッグ。


「と、父さんそれは――」


 デルフォスにとって、無限にも思える時間が流れる。


「……あいつらからお前宛ての手紙か? なるほど、兄としての役目をしっかり果たしているようだな。どれどれ……」


 やがて、紙切れを拾い上げたグレッグは、メイベル達による絶縁宣言を無言で読み始めた。


「ととととととと父さんっ!」

「…………な、なんだこれは……一体どういうことだ……?」


 いつになく弱弱しい声でそう問いかけるグレッグ。どうやら、あまりにも予想外の出来事に頭が理解するのを拒んでいるらしい。


「い、いやぁ……それは、その……そこに書いてある文章通り……だね。あのクソボケどもが、少し目を離した隙に家出したんだよ……」

「あ……? なんだと……?」


 ――メイベル達が家出した。


 ようやくその意味を理解したグレッグ顔が、次第に怒りで真っ赤に変わっていく。


「わ、私宛てには何も書いてないぞ……? つまりこれは無効だ……! あのクソガキどもめ……当主であるこの俺を無視するつもりか……!?」

「そこかよ!?」

「うるさいッ!」


 机を両手で思いきり叩きつけながら立ち上がるグレッグ。


「屋敷の人間全てにアイツらを探させろ! 見つけ出した者には報酬をやる! だが決して表沙汰にはするな! ヴァレイユの名に傷がつく!」

「わ、わかったよ父さん。皆にそう伝えて――」

「デルフォス、お前もだッ! みすみす奴らを逃がした責任をとれ!」

「ひ、ひぃぃ……!」

「ただで済むと思うなよあのクソガキどもがぁ……!」


 グレッグは唾を飛ばしながらそう叫ぶのだった。

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