第17話 アニ、冒険者ギルドに訪れる


「おい見ろよ。あれは……」

「Sランク冒険者の……とうとう来たのか……!」


 僕たちが冒険者ギルドに足を踏み入れた途端に、ギルド内がざわつき始めた。


 どうやら皆、ぎんこさんとてんこのことを知っているらしい。


 もしかして二人とも結構有名な冒険者……?


 僕がそんな風に思っていると、受付嬢さんが小走りでこちらへ駆け寄って来た。


「お待ちしておりました、ぎんこ様、てんこ様」

「すみんせん。少し遅くなってしまったでありんす」

「いえ、お気になさらずに」


 ぎんこさん達、元々ギルドに用があったみたいだ。


「例の件、その後進展は……?」

「いえ、それが全くと言って良いほど何の情報も得られなくて……」

「そうでありんすか……」


 例の件って一体何だろう?


「……ところで、そちらの方は?」


 そんなことを考えていると、受付嬢さんにそう聞かれた。


「ええと――」

「冒険者志望の小童こわっぱじゃ。右も左もわからんようじゃから、優しーく手解きしてやっとくれ」

小童こわっぱって…………」


 馬鹿にされてるみたいで、ちょっとだけ不服である。


「かしこまりました。それでは、後ほど名簿に登録させていただきますね」

「は、はい。よろしくお願いします」


 意外とあっさりだな。もっと色々聞かれるのかと思ってた。


 ……だけど、これで僕も晴れて冒険者だ。


 解決しないといけない問題が山積みだし、これから頑張るぞ。


「……ですがすみません。今はこのギルドが総力を挙げてとある賞金首を追っているので、他の重要度が低い依頼はあまり紹介していないんです」

「え……?」


 つまり、その賞金首とやらが見つかるまでまともに依頼が受けられないってこと?


 いきなりそんなことを言われても困ってしまう。


「……そういえば、主さんにはわっちらがこの町に来た目的を話しておりんせんでしたね」

「わらわ達は、ここのギルドに協力を申し出て、あやつをとっ捕まえに来たのじゃ」


 そう言って、近くの掲示板を指さすてんこ。


 僕はそちらへ目をやる。


 ――するとそこには、不気味な似顔絵が描かれた手配書が貼り出されていた。


「この人は……」

「スケアクロウ……いわゆる人狩りじゃ。こやつの首には一億の賞金がかけられておる」

「一億?!」


 とんでもない額に、僕は思わず大きな声を上げてしまう。


「狙うのは決まってか弱い子供ばかり」

「庶民の子だろうと、王族の子だろうと、一度目をつけたらお構いなしじゃ」

「この男は……人の心を持たない腐れ外道でありんす。何としてでもとっ捕まえんといけんせん」

「……じゃが、唯一の手がかりが目撃証言を元に再現されたこの似顔絵だけ……実に厄介な相手じゃのう……」


 つまり、手口が悪質な上に情報が少なく、一筋縄ではいかない相手ということか。


「でも、それならどうしてこの町に居るって分かったの?」

「ふふん、良いことを聞いてくれたのう。それはもちろん、わらわの『千里眼』の力によるものじゃよ」

「せんりがん?」


 聞き慣れない言葉に、僕は首をかしげる。


「遠くのものを見通す眼。――てんこに生まれつき備わっている力でありんす」

「どんなに隠れようと、わらわの眼から逃れることは出来ないんじゃよ」


 てんこは自分の瞳を指差しながら得意げに言った。


「てんこって……すごい人だったんだね……!」

「ふふ、そうじゃろうそうじゃろう。たくさん褒めて良いぞ!」


 僕は、てんこのことを少しだけ尊敬した。そんな力があれば、色々な人の役に立つことが出来そうだ。


「とはいえ、てんこの千里眼では大まかな場所しか分かりんせんが……それに、てんで見当違いなこともありいした」

「あ、あねうえぇ……?」

「わっちは本当の言っただけでありんす。そんな顔で見ないでおくんなんし」


 …………少しだけ精度が低いみたいだけど。


「…………ところで、どうしてぎんこさん達はこの賞金首を追いかけてるんですか?」


 僕はぎんこさんに問いかける。


 だけど、答えたのはてんこだった。


「こういう輩を放っておくと、その分民が苦しむことになるじゃろう? わらわや姉上のように力を持つ者は、世の平穏の為に尽力する必要があるのじゃよ」

「………………あ」


 その時、僕はあることに気づく。


「あ、とは何じゃ! せっかくわらわが良いことを言ったのに! わらわの話をちゃんと聞け! そしてわらわの崇高な理念を褒め称えろ!」

「そういうところでありんすよ、てんこ」


 ――よくよく見たら、手配書の似顔絵、昨晩僕が消したあの男にそっくりじゃないか……?


 ……えっと、つまり……そういうこと?

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