第80話 解放

 太古の昔まだ生物が意識を自分の存在を認識することなく、只食し細胞分裂を繰り返しエネルギーを循環していた時代。マグマが地底から吹き出し空には七色のオーロラが舞い充満するパワーに彩られた地球で流れるエネルギーのうねりが白と黒の勾玉が合わさった太陰大極図を描き出しそうして砕け散りまた発生する。その繰り返しの中人は集団をなし自己を認識し、意識を形成した。人と人とが和をなすため言葉が生まれ言葉に意味が刻まれ、共通の認識を求めた。和があるところ常に諍いを生じ数多(あまた)の暴力と破壊を繰り返しながら、人類は世代を紡いだ。その人の生き死にの様、時に侵され時に助け合いながら地球もまたその生死を繰り返し循環してきた。木はその力で火を生じ、生まれた火はその力で土を生じ、生まれた土はその力で金を生じ、生まれた金はその力で水を生じ、生まれた水はまたその力で木を生じた。輪廻転生陰と陽が互いにうねりエネルギーを生み出す中今この時に我らがここに五方陣を開き生きとし生けるもの全てをその中へ解き放つ。


 まだ明け切らぬ午前四時すぎ樹蒼はブラジル・リオデジャイロのホテルの一室から念を送り始めた。ゆっくりと陽紅のいるニュージランドの方へ向けて。夕方の七時をまわった位だった。陽紅はニュージーランドの宿泊所の一室で樹蒼の強い念を感じ取った。紫音から教わったように陽紅は自分の右手の人差し指と親指でVの字を作りその手を自分の胸元へかざした。目を閉じ地黄のいるイタリアの方へ向けて念じた。

「地黄さん聞こえる?私の念を受け取って。」

イタリアは朝の八時を過ぎた頃だった。地黄は頭にツンとくるような刺激を感じて目を閉じた。それは以前白虎たちと交わした念の輪よりもきつい感覚がした。次第に陽紅の声が聞こえてきた。

「チオウサン・・・きこえる?わたしの念を受け取って。」

次第にはっきりと聞き取れるようになった地黄もいつしか右手を胸に当て念じ始めていた。地黄の念は樹蒼と陽紅のパワーに押されるように白虎のいるスウェーデンの方向へ押しやられていった。

 スウェーデンの白虎はすぐに地黄の声を聞き取った。間髪入れずに白虎はアメリカのボストンにいる流黒へ向けて念じた。

「流黒。受け取ってくれ。」

白虎のところから加速したように念は光のように流黒へ入り込んできた。ボストンは深夜の二時を過ぎたあたりで流黒はホテルの一室で白虎の念を感じ取りそのまま樹蒼へ送り込んで繋がった。

念の五方陣はいったん繋がるととどまること知らぬように、それぞれの頂を通りだんだんと加速しやがて光の和ができあがるように世界全土を包み覆い込んだ。まだ眠っている人々、やがて起きて出社の準備を始める人々、深夜まで飲み明かしていた人々、まだしゃべることのできない赤ん坊、男も女も老人も子供も、全ての人々がその取り囲まれた和の中で新たな体験をし始めていた。

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