リアゼイターの真骨頂




「『探すな』ってどういう……!?」



 顔を硬らせる時緒と真理子に、モニターの中でゆきえのメッセンジャーと化した修二は時緒達に対する同情の苦笑を浮かべた。


 苦笑する修二も、可愛い。


 流石、郡山に遊びに出掛ければ高確率で芸能事務所のスカウトに逢う可愛いさだ。



『ゆきえちゃんがさ、ティセリアちゃんに……何か見せたい……らしいんだよね』



「何かって……何だよ?」真理子が修二に、訪ねた。



『それがゆきえちゃん……おいらにも教えてくれないんだ。後で教える…って言ってはいたんだけど……』

「う…ん、そう……。取り敢えず、ティセリアちゃんは元気なんだね?」



 時緒の問いに、修二は『大丈夫!』と笑顔で答えて、頷いてくれた。



『一応ゆきえちゃんは猪苗代の守護神だからね!頼りにして良いよ!ホラーゲームとか心霊番組とかてんでダメだけど!』



 元気ならば、取り敢えず今はそれで良い、と時緒は思うことにした。



「あ……」



 ふと、自分とティセリアが臨駆士リアゼイターであることを、時緒は思い出す。


 ルリアリウムの力を限界まで引き出す特殊能力なんて、日常ではおいそれ使うことが無いので、ついつい忘れてしまうのだ。


 確か臨駆士リアゼイター同士は、ルリアリウムを通じて意識の疎通が出来る……と、いつぞやラヴィーが言っていたが……。


 時緒は、ペンダントにしていた自分のルリアリウムを掌に乗せて……意識を集中してみる……。


 念じること、十数秒。


 ルリアリウムが淡い翡翠色の燐光を放ち……。


 光が、時緒の意識を……拡充させる。



「んん…………?」



 出来た……?視えた……?


 時緒はその燐光の中に……ティセリアの背姿を視た……気がした……。



(あ〜〜ぁ……リースン、絶対怒ってるゆ〜〜。気が重いゆ〜〜ん……)



 ティセリアは背中を丸めて……山道をとぼとぼと歩いている……。


 鮮明なその視像ヴィジョンは、手を伸ばせば届きそうで……声を掛ければ向こうに聞こえそうだった……。



「ティ…ティセ……」



 時緒がティセリアを呼ぼうとしたーー



(……!)



 突然、時緒の視像ヴィジョンいっぱいに、ゆきえの仏頂面が占領した。



「うぁっ!?」



 あかんべーをするゆきえに驚いた時緒は尻餅をついてしまい……。



 その拍子に、ティセリアの視像ヴィジョンも……ついでにルリアリウムの燐光も……綺麗さっぱり消えてしまったのだった……。




 ****





「うゆ?」



 ゆきえに手を引かれるティセリアは、ふと……背後を振り返る。



「あり?トキオに呼ばれた気がしたゆ〜ん。近くにいるのかな〜〜?」



 大きな瞳を瞬かせてティセリアは周囲を見回す。


 だが、何も無い。薄闇の山道には、ティセリアとゆきえ以外、誰もいない。


 やがて、何食わぬ顔のゆきえに促されて、ティセリアは再び歩き続ける。



【気のせい気のせい】

「気のせいゆ?そうかな?」

【そうそう。それよりも上手く匿えるヤツのトコ行こう】

「ドコ〜?シュージん家?」

【駄目。すぐ捕まる】

「じゃあトキオん家?」

【シーヴァンに見つかる】

「じゃあイオリん家?」

【ラヴィーとコーコに見つかる】

「リちゅん家……?」

【カウナに見つかる】

「カナミん家?」

【バカが感染ウツる】



 タブレットを使った会話に疲れてきたゆきえは、タブレットを袖に仕舞うと、両手で円を作り、それをティセリアの両目の前に掲げた。



「あ!なるほどゅ!」




 ****




「何やってんだよオメェは……」

『時緒兄ちゃん、大丈夫?』



 真理子と修二の呆れ笑いを一身に受けながら、時緒は強打した尻を摩りながら立ち上がる。



「……ゆきえちゃんめ、是が非でもティセリアちゃんを帰したくないみたい……」



 折角の臨駆士リアゼイターとしての能力を発揮したのに、どうにも格好付かなくて、時緒は寒々しい蛍光灯が点いた会議室で肩を落とした。


 特殊能力をビシッと決めて、仲間の窮地を救う!


 ……現実は、ロボットアニメやバトル漫画のようには、いかないものだ。



 エンジン音が聞こえる。


 嘉男の班が……つまり、芽依子が帰ってきたのだ。



「やい時緒、芽依にお姫ちゃんのこと、教えてやれ」

「がって〜〜ん……」



 ルリアリウムを仕舞い、重い足取りで会議室を出て行く時緒を、真理子は見送る。


 やがて、真理子はオホンと咳払いを一つして、修二に目を遣った。



「修二、ゆきえちゃんとを取りたいんだけど、仲介頼めるか?」

『良いけど?』

「悪いな。今度好きなお菓子買ってやる」

『やった!仮面サムライダーの食玩が欲しいな!』

「文子には内緒だぞ?」



 真理子はニヤリと笑う。


 悪戯心と遊び心が同居した、修二のクラスメイト……特に男子の笑顔と同類だった。






「ゆきえちゃん……多分私と同じこと考えてるな?」






 ****




 その夜。



「きゃ、きゃああああ〜〜〜〜!!!!」



 神宮寺邸に、真琴の叫びが木霊した。



「何じゃ真琴ォ!どうした!?とうとう時緒のヤツが色情に狂って夜這いを仕掛けて来たか!?」



 祖父の喜八郎が凄まじい速さで階段を駆け上がり、可愛い孫娘の部屋へと突入する。



「おのれ時緒!やっと巨乳デカ尻よりスレンダーな真琴が可愛いと……ってのぉぉぉぉぉ!?」



 暗闇の部屋の中、喜八郎が目撃したのは……。



「ま……まどに……おば……おば……」



 床の上で目を回している真琴と……。






 暗闇の窓の外から、二人の幼女が部屋を覗き込んでいた!


 まさに、怪奇現象!



「お、お、お化けじゃあああああああああ!!あ、悪霊退散んんんん!!エロイムエッサイムーー!!!!」



 孫娘と同じく悲鳴をあげ、喜八郎は一心不乱にお経を唱えながら十字を切る!





「うゆ〜〜ん、マコトのお爺ちゃま……中に入れて欲しいのョ〜〜……」

「…………」



 窓の向こうの幼女二人ティセリアとゆきえは、不満げに頬を膨らませた……。





 続く

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