素敵な地獄
ティセリアが遠隔操作したイカロス・ユニットが、レガーラへと体当たり攻撃を敢行する、その三分ほど前ーー。
会津聖鐘高校生徒会長兼、特撮研究会部長の
観光ではない。映画の
桧原湖の風景写真を拡大、プールサイドに立てて、怪獣の出現シーンを撮影するのだ。
「
「だから来たんだよ、
今、猪苗代湖で何が起きているかつゆ知らず、主水は春清に笑いかけながら、湖面に向かって愛用の一眼レフカメラを構えーー
突如、轟音と共に巨大な水柱が湖面に立つ!
「おァーーッ!?!?」
生徒会の長としてこれまで幾多もの修羅場を潜り抜けて来た主水もこれにはビックリ仰天!恐怖に顔を引きつらせ、間抜けな悲鳴わをあげながら春清へと抱きついた!
「坊っちゃま!?い、今のは!?」
「ま、まさか……桧原湖に棲んでいるという伝説の怪獣……ヒバラッシー……!?」
「若干語呂が悪いですな!」
春清にお姫様抱っこされながら、主水は戦慄に震えた。こんな姿、生徒会や学園の者たちには見せられない。
巻き上げられた湖水がごく一時的な雨となって、周辺の土産物屋や食堂に降り注ぐ。
「んん…………!?」
びしょ濡れになりながら主水はふと、一眼レフカメラ(防水仕様)の液晶画面に目を遣った。
どうやら慌てふためいた拍子にシャッターを切っていたらしい……。
画面には、白くそびえ立つ水柱。そして……。
桧原湖から飛び立つ、白鳥めいたフォルムの
****
レガーラが燃えていた……。
メイアリアに銘付けられた、気高き専用騎が……その巨躯が……。
無惨に……燃えていた……!
「遂に……捕まえたぞ……!エクスレイガァァァ……!」
身体を引き裂かれるような衝撃を、燃え盛る怒りで持ち堪えて……!
シェーレは狂気をはらんだ瞳で、レガーラの
「よくも……よくも……!私とメイの……レガーラをォォ……!!」
最早、今のシェーレにルーリアの騎士道は一片も存在していなかった。
戦いの中での相互理解……?
「そんなもの……知ったことかァァ!!」
憎い……憎い!シェーレは心底エクスレイガを憎んだ!
レガーラを汚したエクスレイガ!
私からメイアリアを遠ざけたエクスレイガ!
太陽の光に隠れ目を眩ましたかと思えば、翅を外し、それを体当たりさせるという奇抜な戦法で……一瞬だけシェーレを興奮させたエクスレイガ!
その存在……全てが許せない!
……しかし、そんな地獄の時間も直ぐに終わるだろう。
レガーラの
レガーラも中破状態だが、それでもエクスレイガを……あの忌々しい蚊トンボを破壊しきるだけの力は……憎しみの
勝った……!
あとは操縦桿に力を入れただけで……エクスレイガは虫のように潰れる。
地球の被属は速やかに終わり、メイアリアは帰ってくる!
興奮に乾く唇を舐めて潤しながら、勝機を確信したシェーレは歓喜に
「サヨナラだ
エクスレイガにとどめを刺そうと、シェーレが操縦桿に力を込めようとした……。
その時だったーー。
一条の、桜色の粒子光が天空から奔り、レガーラの
「なーーーー?」
何が起きたのか分からなかったシェーレはしばらくの間、拘束から解放され、眼下の森へと力無く落ちていく満身創痍のエクスレイガを見つめた。
やがてーー。
「だ、誰だァッ!?」
我に返ったシェーレは憎悪の眼差しで天を睨む。
誰が邪魔をした!?エクスレイガを助けたのだ。きっと下賤な地球の仲間ーーーー
『誰……ですって?』
「………………ぇ?」
シェーレの思考が停止した。
通信機から聞こえるのは、淑やかさと力強さを併せ持った、凛と澄んだ声。
ずっと、シェーレが聞きたかった、声。
シェーレの視線の先、猪苗代の蒼穹に在ったのは……。
純白の装甲に金色の装飾が施された、鳥型の
『私のこと……忘れてしまったのかしら?シェーレ・ラ・ヴィース?』
忘れる筈が無い。忘れる筈が無い!
あれはーー!
ルーリア神話に伝わる
ルーリア皇家第一皇女、メイアリア・コゥン・ルーリア専用騎……
「メ……メイ……なのか?」
『…………』
不意に、スファルツァンドのシルエットが変わる。
羽が折り畳まれ、脚が伸びる。鳥の胸板が左右に展開して両肩、両腕を形成。長い機首が折れて胸へと格納され、狐めいた頭部が現れーー。
瞬く間にスファルツァンドは美麗なフォルムのヒト型へと変形を終え、レガーラの傍らへと音無く降下する。
「メイ……!私のメイ……!」
『シェーレ……』
メイアリアとの予期しなかった再会にシェーレは涙を浮かべ、操縦席の中で懸命に、スクリーンに映るスファルツァンドに向かって手を伸ばす。
やっと会えた。会いに来てくれた。
メイアリア自らが……私に会いにーー
『シェーレ……貴女を……』
「メイ…………?」
スファルツァンドの掌から、桜色の光刃が伸びてーー。
レガーラの残存していた左腕部を斬り落とした。
「メーーーー?」
メイアリアに……斬られた?
何故……?何故……!?
もしかして……先刻の砲撃も……!?
信じられない出来事に混乱し、硬直したシェーレの目の前で、通信立体ウインドーが投影される。
『…………』
やはり、メイアリアだ。
白い肌、美しく長い銀髪、片側だけ欠けた耳、吸い込まれるような琥珀色の瞳。
ウインドーの中に映っていたのは、紛れもないメイアリアだったが……。
シェーレが幼い頃から敬い、愛したメイアリアだったが……。
『シェーレ……今日ほど貴女を不快に思ったことは……ないわ……!』
その瞳は、凍て果てるような怒気に満ちていたーー。
続く
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