第30話
☆☆☆
空き教室に戻ると大志と花子がいた。
「舞は?」
聞くと、2人は顔を見合わせて左右に首を振った。
どこに行ったのかわからないみたいだ。
あたしはグッタリして壁に背中を預けて座り込んだ。
せっかく持ってきた食料は床に散らばり、おにぎりは踏みつけられている。
それを見ると胸が痛んだ。
あたしたちのために作ってくれたのに、こんなことになってしまうなんて、申し訳なくて仕方ない。
教室の鍵は壊されていないみたいだけれど、相手はすでに鍵を手に入れている。
ここに隠れていても、すぐに捕まってしまうだろう。
「聡介は?」
聞いてきたのは大志だった。
大志も随分格闘したのか、制服がところどころ破けている。
あたしは大志からの質問に左右に首を振った。
「舞も聡介も行方不明か……」
「お願い、聡介を探すのを手伝ってくれない?」
「今から?」
そう言ったのは花子だった。
花子は見たところ傷が増えているようには見えない。
うまく逃げることができたんだろう。
あたしは大きくうなづいた。
「次の休憩に入る前に見つけ出したいの」
「でも、もう死んでるかもしれない」
花子の言葉に心臓がグッと押されたような気分になった。
廊下で死んでいた一の姿を思い出す。
「でも、まだ生きてるかもしれない」
あたしは花子を見つめ返してそう言った。
どこにいるのかわからない。
メッセージに既読も付かない。
それでも生きているかもしれないから、探したいと願う。
あたしの考えは間違えていないはずだ。
「そうだな。仲間は多いほうが心強い」
ため息混じりに言って立ちあがったのは大志だった。
あたしは驚いて大志を見つめる。
「協力してくれるの?」
「あぁ。今の時間ならまだ安全だからな。でも、休憩時間になる前には必ずこの教室に戻ってくる。鍵は相手の手の中にあるけど、椅子や机でガードくらいはできるだろ」
大志の言葉に嬉しさがこみ上げてくる。
「ありがとう!」
「あまり大きな声を出さないで」
花子に注意されて慌てて口を閉じる。
「どうして危険な目をしてまで探す必要があるの」
文句を言いながらも花子も同じように立ち上がった。
「一緒に探してくれるの?」
「ここにひとりでいたら危険だから一緒に行くだけ」
花子は抑揚のない声でそう言ったのだった。
教室を出たあたしたち3人はま3階のトイレを探してみることにした。
中腰になり、足音を立てないよう細心の注意を払って移動する。
無理な体勢で動いているせいか、蹴られたわき腹がひどく痛んだ。
だけど気にして立ち止まっているような時間はない。
こうしている間にも授業時間はどんどん過ぎて行っているのだから。
「あたしは外で見張ってるから」
という花子を廊下に残してあたしは女子トイレ、大志が男子トイレを確認することになった。
女子トイレのドアはすべて開いていて、人はいない。
小さな窓から下をのぞいてみたけれど、そこにも人影はなかった。
廊下に戻るとちょうど大志も戻ってきたところだった。
「トイレにはいなかった。2階へ行ってみよう」
そう言われてうなづく。
3階の廊下の途中には一の遺体が残っていたが、みんなそれを見てみぬふりをして通り過ぎた。
可哀想だという気持ちもあるけれど、遺体を移動しているような時間はない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます