第29話
☆☆☆
それから15分ほど経過して、ようやく昼休憩は終わった。
廊下から聞こえてきていた喧騒は止み、周囲はとても静かだ。
あたしはそっとトイレの個室から出た。
ひとまず誰もいなくて安心するが、今度はまた警戒しながら廊下の様子を確認した。
そこにも誰の姿もない。
「聡介?」
小さな声をかけてみるが、返事は聞こえてこない。
もう1度スマホを確認しても、既読はついていなかった。
嫌な予感が胸をよぎる。
いったいどこに行ったんだろう。
トイレから出て周囲を確認してみるが、やはり聡介の姿は見つからなかった。
きっと、どこかへ逃げることができたんだ。
だからここにはいないんだ。
そう思うことにした。
とにかく一度3階の教室に戻ろう。
他のみんながどうなったのか気になるし、1人で校内に隠れているような勇気はなかった。
あたしは足音を殺して階段を上がっていく。
聞こえてくるのは授業をしている先生の声と、時々椅子や机が動く音だけ。
慎重に、一歩一歩進んで行く。
自分の呼吸音すらうるさく感じられる緊張感の中、どうにか3階までたどり着いた。
そして空き教室に入ろうとしたときだった。
3階の廊下に誰かが倒れているのが見えたのだ。
その人の周りには赤い血溜りができていて、鉄の臭いが充満している。
ハッと息を飲んで手で口を塞いだ。
その人物が誰であるのか、一瞬わからないくらいに顔が破損していた。
なにか道具を使って攻撃されたのだろう。
鼻はつぶれて頬は陥没し、目は真っ赤に染まっている。
だけどそれは間違いなく一だった。
右頬に残っている365とい数字。
それは一の番号だと覚えていたから。
「人を生贄にしても、結局やられたんだ……」
一のひどい遺体を目の前にして複雑な心境になった。
仲間はひとり失われてしまったことは悲しい。
だけど一はあたしを突き出した張本人だ。
聡介が助けに来てくれなければ、どうなっていたかわからない。
あたしは下唇をかみ締めて、教室へと戻ったのだった。
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