第27話

「ど、どうするんですか!?」



一に聞いたって仕方がないとわかっていながら焦る気持ちで怒鳴ってしまう。



その瞬間だった。



一がこちらを見て笑ったのだ。



え……?



その笑顔の意味がわからなくてあたしは動きを止めてしまった。



どこでもいい、走って逃げないといけないのに。



「このときのために、君が必要だったんだよ」



次の瞬間あたしの体は一によって突き飛ばされていた。



バランスを崩して床に横倒しに倒れる。



あたしの目の前で一が逃げ出したのが見えた。



手を伸ばすがすでに届かない。



生徒たちは逃げる一に目もくれずにこちらへ向かってくる。



「先輩!?」



声をかけても一は振り向くことがなかった。



やがて一の姿は他の生徒たちにまぎれて見えなくなった。



目の前に見知らぬ女子生徒が立っていた。



視線が合う前に殴られた。



「あんたが北上恵美? 調子乗ってるみたいじゃん?」



「商品になって顔晒して、あんたを自由にできるんだってことで男子たち大喜びだよ。そんなことまでして注目されたい?」



「まじでキモイんだけど。死んで?」



言われのない言葉が飛び交い、そのたびに体のどこかが激しい痛みを感じた。



殴られ、蹴られているのだと気が付いても抵抗できなかった。



何人、何十人という生徒たちがあたしを取りかこんで見下ろしている。



そのほとんどが傍観者だ。



どれだけ人が傷ついていても知らん顔をして、その様子を眺めて笑っているだけ



「なにしてんだよお前ら! そういうことすんなよ!」



そんな声がして一瞬希望が見えた気がした。



誰だろう。



そんな風にあたしを守ろうとしてくれている人は。



食堂のみんなと同じように、まだあたしたちのことを思ってくれている人がいる。



そう思って顔を上げたそのときだった。



見知らぬ男子生徒の顔が近くにあって悲鳴を上げた。



「こんなボロボロになって。あ~あ、せっかくなら綺麗なままやりたかったのになぁ」



その顔はニヤけていて、あたしを助けようとしたのではないと即座に理解した。



同時に立ち上がって逃げ出そうとしたけれど、蹴られた痛みが残っていてうまくいかない。



伸びてくる手を振り払うのが精一杯だ。



「威勢がよくていいよね。俺そういう子すげー好き」



男子の呼吸がどんどん荒くなって行くのがわかった。



「誰か、助けて!」



声を上げてみても誰も反応しない。



ただ好奇心をむき出しにして眺めている者ばかりだ。



「近くで見ると本当に可愛いね」



男子の顔が近づいて来てギュッと目を閉じる。



一は元々自分が逃げ延びるためにあたしを連れて逃げたんだ。



あたしを助けるためなんかじゃない。



こうして生贄にするためだったんだ……!



いまさら理解してももう遅い。



一のことを信用してしまった自分もバカだったのだ。



でも、はじめての相手は聡介がよかったよ……。



「手ぇ出してんじゃねぇよ!!」



そんな怒号が聞こえてきたかと思った次の瞬間、目を開けると男子生徒が横倒しに倒れていた。



その横には聡介の姿。



「聡介?」



驚いて体を起こすとすぐに支えてくれた。



「大丈夫か恵美。なにもされてないか?」



「う、うん」



瞬きをして事態を整理してみると、寸前のところで聡介が駆けつけてくれて、相手の男子を横から蹴り上げたのだとわかった。



「一のやつ、恵美を連れて逃げるから怪しいと思って慌てて追いかけてきたんだ」



そうだったんだ……。



あの教室でもみくちゃにされていたわけではなかったのだと知り、ホッと息を吐き出した。



だけどまだ危険が去ったわけじゃない。



今はまだ休憩時間中で、周は生徒たちに囲まれたままだ。



聡介は立ち上がると生徒たちをにらみ付けた。



数人の生徒たちがジリジリと近づいてくる。

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