第25話
どうにか授業が終わる前に食料を持って3階の空き教室まで戻ってくることに成功した。
自分の商品番号を伝えて鍵を開けてもらったとき、また安堵感から大きな息を吐き出した。
教室に入れてもらって机の上に食べ物を並べて行くと、大志は目を丸くしていた。
「こんなに沢山?」
「たぶん、数日分入れてくれたんだ」
一が答える。
紙袋の中には30個近いおにぎりが入っていた。
もちろん全部手作りで、口に入れると優しい味がした。
食べられないかもしれないと思っていたけれど、さっきの女性の優しさを思い出すと大きなおにぎりをひとつペロリと食べてしまって自分でも驚いた。
教室の隅に座っている花子も1人で黙々とおにぎりを口に運んでいる。
そうして食べ終わった頃、廊下が騒がしくなり始めていた。
他の生徒たちも昼を終えて思い思いの時間を過ごしているのだ。
それはあたしたちにとって危険な時間でもあった。
興味本位でこの教室に入ってこようとする生徒だっているかもしれない。
あたしたちは花子の近くに移動して、6人で身を寄せ合い、静かな時間を過ごした。
前の休憩時間と同じように、このままやり過ごすことができればいいが……。
そう思ったときだった。
ずっと同じ体勢でいた花子が足を伸ばすために体を動かした。
伸ばした右足がさっきおにぎりを食べるために準備した机に当たる。
ガンッ!
と大きな音がして、あたしたちは同時に息を飲んだ。
花子は瞬間的に伸ばした足を引っ込めて元の体勢に戻る。
しかし、音は教室の外まで聞こえてしまっていたのだ。
「今の音なんだ?」
「この教室から聞こえてこなかったか?」
2人の男子生徒のそんな会話が聞こえてくる。
あたしはできるだけ聡介に身を寄せた。
全員、息をするのも忘れていたと思う。
ジッと教室のドアを見つめて、廊下にいる生徒にどこかへ行けと念じることしかできない。
緊張でさっき食べたおにぎりが戻ってきそうになり、グッと押し込める。
背中側にある窓へ視線を向けている。
ここから出ることができればいいけれど、ここは3階だ。
飛び降りてもただじゃ済まされないだろう。
この教室の出口は廊下側にしかないのだ。
「ドア、開けてみるか?」
「鍵がねぇじゃん」
「壊せばいいだろ?」
そんな会話が聞こえてきたかと思った次の瞬間、ドアが乱暴に蹴られる音が響いた。
あたしはビクリと体を震わせて聡介にすがりついた。
聡介はあたしの体をきつく抱きしめる。
トイレに逃げ込んだ時よりももっと重たく、鈍い音が響き続けている。
「このままじゃまずいな……」
大志が険しい表情で呟く。
いくら大志でも、大人数で襲ってこられたらひとたまりもなさそうだ。
外にいる生徒たちは大声で笑いながらドアを開けようとしている。
それに気が付いた他の生徒たちまでこぞってドアを壊そうとしている。
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