第24話
中腰になり、しっかりと足を踏み出して一歩ずつ前に進んで行く。
授業をしている教室の前に差し掛かると、あたしたちは腹ばいになり、ほふく前進をするようにして前に進んだ。
白い体操着はすぐに汚れてしまったが、仕方ない。
こんなときにスカートじゃなくてよかったと安堵したくらいだ。
どうにか移動教室の空間を抜け、最も南にある食堂に到着した。
一が食堂のドアを開けた瞬間、いい香りが鼻腔をくすぐる。
しかし、残念ながら今食欲はなかった。
学校へ来てからずっと続いている緊張状態のせいで、食欲なんてとっくに失われていた。
3人で入って行くと奥で調理中だった年配の女性が気が付いてこちらへ近づいてきた。
「ちょっと君たち、今はまだ授業中じゃないの?」
そう言いながら歩いてきたのだけれど、あたしたちの顔を見た瞬間表情が硬直したのがわかった。
3人とも頬には絆創膏を貼っているけれど、もう顔までバレてしまっているようだ。
女性の反応に一瞬身構えて立ち止まる。
しかし次の瞬間女性は肩の力を抜いて「なにが欲しいの?」と聞いてきた。
その声色は真剣だ。
「あの、人数分の食べ物と飲み物を」
聡介がおずおずと申し出ると、女性は「待ってて」と短く言うと奥へと引っ込んで行った。
食堂にある時計へ視線を向けるとあと15分で昼休憩が始まろうとしている。
ここで見つかってしまったら逃げ道はない。
それこそ一網打尽にされてしまうだろう。
落ち着かない気持ちで時計を見ていると、5分後さっきの女性が紙袋に沢山のおにぎりとペットボトルのお茶を入れて持ってきてくれた。
「あ、あの、お金は」
一が財布を出そうとしたが、女性は「いらない」と、言い切った。
「これは私たちからのサービス」
そう言われて食堂の奥へと視線を向けると、複数の男性女性がこちらを気にしているのがわかった。
「いい? がんばって逃げ切るんだよ。たった一週間だから、絶対に大丈夫だからね」
女性があたしの手を強く握り締めていた。
その言葉に胸がジワッと温かくなる。
学校に来てからこんな風に気にかけてもらえたのは初めてのことだった。
あたしは大きくうなづき返した。
悪い人ばかりじゃないんだ。
絶対に逃げ切って見せると信じて。
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