第23話

そんなの嫌だ。



それなら聡介と一緒に行動していたい。



そんな思いが強くなり、あたしはそっと右手を上げた。



「あたしも行きます」



「恵美。無理しなくてもいいんだぞ?」



すかさぐ聡介が言う。



だけどあたしは左右に首を振った。



「無理なんてしてない。あたしは聡介と一緒にいたいの」



その言葉にうなづいたのは一だった。



「じゃあ、食料を調達するのはこの3人で行こう。なにかあったら、ここまで全力で走って逃げるんだ」



一の言葉にあたしはゴクリと唾を飲み込んだ。



行き先は1階。



ここは3階だ。



走って逃げ切れるかどうかわからない。



もしかしたら、ここで1度外へ出たらもう戻ってこられないかもしれない。



そこまで考えてあたしは左右に首を振った。



今は最悪の事態を考えるのはやめよう。



とにかく、人数分の食料を準備することだけ考えるんだ。



自分にそう言い聞かせ、大きくうなづいたのだった。


☆☆☆


3人で教室を出ると、内側から大志が鍵をかけた。



カチッというその音が、やけに大きく響くように聞こえてきてあたしは身を縮めた。



あちこちの教室から授業中の先生の声が聞こえてくる。



あたしたちがいた教室は3階の最も西側の教室で、出てすぐ横が階段になっている。



あたしたち3人は息を潜めて階段を折り始めた。



普段よりゆっくり、足音を立てないように降りて行く。



もしどこかで誰かと鉢合わせたら、その時は3人バラバラに逃げることになっていた。



まとまって逃げたら全員が捕まるかもしれないからだ。



今は授業中から誰かに見つかっても攻撃はされないかもしれない。



だけど、念には念を入れて警戒しておかないと、なにが起こるかわからなかった。



階段を一段下りるたびにシューズが床にこすれて微かな音を立てる。



それすらもうるさいと感じられる空間で、あたしたちはどうにか1階までやってきた。



そこまで来て一番前を歩いていた一が一旦立ち止まり、大きく深呼吸をした。



同じように空気を吸い込んでみると、自分が呼吸すら止めていたことに気が付いた。



一が振り返り、あたしたちの様子を伺う。



あたしと聡介はうなづいて見せた。



ここから先が難関だ。



食堂は1階の南側の端にある。



その間にあるのは保健室、化学質、美術室、木工教室など。



移動教室で利用する教室のほとんどがここにある。



そして今もあちこちの教室から授業を進める先生の声が聞こえてきているのだ。



一が大きく息を吸い込み、再び歩き出した。

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