141 ロミオの提案
その頃、ウォーレッド第二帝国からはまだ数十キロ離れた海上で、一艘の船が、ひっそりとウォーレッド国へ向けてその足を進ませていた。
船の中では数名の旅人が神妙な面持ちで話している。
数日が経ち、ダンと合流をしたパティとロゼスは、ダンと共にいたロミオ、ジルも交え、ウォーレッド国に捕えられたアルを救う手立てを考えている。
「……問題はどうやって城の内部に潜入するかだな」
ダンは口に出してみたものの、それはほぼ不可能だと想像できた。
ウォーレッド国の城は、敵が簡単に侵入できない特殊な造りとなっており、加えて七大陸一の兵力と軍事力を持つ。
「こうして話していても埒が明かない。俺が潜入する」
ロゼスは自分が付いていながらみすみすアルを連れて行かれたことに責任を感じ、苛々と言った。
「ロゼス、あなたは怪我をしています。そんなこと、無理です」
パティが宥めるように言う。
「こんな怪我、ウォーレッド国に着く頃には治る」
「落ち着けよ、ロゼス。潜入なら俺に任せろよ。何度もやってるぜ」
「待ってくれ、二人とも。僕に作戦を練らせてくれ」
ダンの後に、今度はロミオが間に割って入るように言った。
「ロミオ、何か良い案があるのですか?」
「一つ、思いついたことがあるんだ。上空から降りて潜入するんだ」
「上空……?」
「パティに潜入させるのか?」
まさか、と思いつつ、ダンは眉を潜めて問う。
「違うよ。この杖を使って、人目につかない空高くまで飛び上がって、そこから一気に城のパレスか、側塔部分に降り立つんだ。上手くすれば兵士に見つからずに潜入できるだろう」
「そんなことできるのか……」
ロゼスが驚きの声をもらす。
「ああ、そういや、クルミの神具にも飛ぶ力があったな。同じようなものか。そんな便利なことができるなら、始めから飛んで合流すればいいだろ」
「残念ながら、人数制限があってね。アルを帰りに連れて帰るとすれば、連れて行けるのは、僕を抜かせて二人だな」
ダンの文句に、ロミオは冷静に対応した。
一同はロミオの次の言葉を待った。ロミオは仲間を見回し、少年ジルの前で目を止める。
「まず連れて行くのはジルだ。ジルは魔のものを臭いで察知できる。アルが魔族に連れて行かれたということは、彼の付近に高位魔族がいると考えられるし、魔族を探知できれば動き易い。それにジルなら、いざという時も頼りになるからね」
ジルはわかった、と言い、少し照れて、頷いた。
「えっと、もう一人は――」
「俺が行く、俺に行かせてくれ。王子を連れて行かれたのは俺の失態だ」
ロゼスが前のめりに言った。
「……ロゼス、君に石があるのは、なぜなんだい? 第二帝国で何があったんだ? その訳を教えて欲しい」
周囲の者は、ロミオの言葉に驚いた顔をしたが、パティは、ロゼスに石が移ったその意味を悟り、さっと顔色が蒼褪めた。
「ロ、ロゼス、まさか、メイリンに何かあったのですか……?」
パティは震える声で言った。
パティは、前に誰かが言った、〝石を持つ者は死んだり、戦えない状態になると、血縁者に移る〟という言葉を思い出したのだ。
「ああ。パティ、黙っていて悪かった。メイリンは……、死んだんだ。高位魔族と戦い、俺を庇って……」
「そんな――」
パティは口元を手で覆い、驚きと悲しみにその瞳は揺れていた。
ロゼスは突如浮き出た二の腕の石を布を巻いて隠していたが、ロミオはロゼスが石を持つ者だと見抜いていた。
ロミオは、試練を終えた頃から、自身の変化を感じていた。
元々ロミオは武術や剣術等はほとんどやったこともなかったが、今は、魔のものとも臆することなく戦えるだろうことは分かっていた。
石に関しても、石を光らせることは考えるよりも早くでき、今は一時間以上も石を光らせることが可能だった。神具を使い、どのようなことができるのかも、誰に教わるでもなく、自然と分かっていた。
メイリンが命を落としたと聞き、まだショックを受けているパティと、パティとの会話を理解できずにいる面々に向かい、
「…メイリンは、俺と血を分けた姉だった」
と、メイリンとの関係と事の成り行きをロゼスは告白した――。
ダンの船は休むことなく進み続け、僅か数日後に東大陸の海域に入り、ウォーレッド国付近まで辿り着いていた。
その頃には、ロゼスの怪我は完全ではないが大分良くなり、赤みは引き、動いたり戦ったりするのにほぼ支障がないくらいには回復していた。どうやら、石を持つ者は回復力も向上するようだ。
ロミオ、ジル、ロゼスは夜の闇に紛れ、上空から城へ忍び込むことにした。
パティはアルを助けに行くのについて行きたかったが、何もできない自分が行ったところで足手纏いにしかならないし、アルにきついことを言われたこともあって、今は、仲間を信じて待つと決めていた。
「ロミオ、ジル、ロゼス、気をつけてください」
準備が整った三人に、パティはぎゅっと両手を繋いで言った。
「ああ。パティのことは頼むよ、ダン」
ロミオの言葉にダンは、ああ、と頷く。
「パティ、王子は必ず連れて戻る」
パティは、待っています、とロゼスに言い、少し笑顔を見せた。
「それじゃ、僕の近くへ」
ウォーレッド国の海域――、城まではまだ数キロはある夜の船上で、ロミオはバンダナを取ると、ロゼスとジルに言った。
ロミオは杖を手に、瞳を閉じる。
ロミオが心で念じると、額の石が静かに発光し、凄まじい風が巻き起こる。その風はロミオと彼の周囲に集まった二人をも浮かせ、空高くへと運んだ。
ダンとパティは空中に浮かんだ三人を見上げ、感嘆の声を漏らす。
三人は次の瞬間、びゅお、と風音を立てながら、目的地のウォーレッドの城へ向かって飛んでいった。
パティは飛び立った三人が見えなくなるまで見送った。
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