第二章 後期 神具とその持ち主

91 南大陸へ、船の中の会話 前半

第四大陸・南大陸編


 アル、パティ、ネオ、ダンはレイズン家の所有する船に乗せてもらい、船を持つレイズン家の一人娘であるクルミも無論、船に乗り込み、皆で南大陸を目指していた。

 穏やかな気候の中、船は風を切って進んで行く。


 莫大な資産を保有するレイズン家の船だけあり、秀麗で立派な帆船だった。


「この船も勿論いいが、俺の船の方が早いぜ?」


 ダンはアルたちにそう言ったが、メイクール国の王子である自分が海賊船に乗っていたことがどこかから漏れたりすれば国の評判にも関わるので、アルは遠慮がちに断った。


 そう言ったダンは本来まだ動いて良い状態ではなかったが、炎の神ライザからの助言を聞き、じっとしていられず、

「船で治療する」

 と言い、話すこともまだあったので、ダンもレイズン家の船へと乗り込んだのだ。


 ダンは南大陸でも人手が必要になることを視野に入れ、自分の船に手下を何名か乗り込ませ、同じように南大陸に向かわせていた。


 ダンだけではなく、クルミもかなり重症だった。

 出発は一週間ほど遅らせた。

 クルミがアルたちと一緒に南大陸に行くと言い出したので、彼女の怪我が多少良くなるまで待つ必要があったのだ。

 アルもネオも怪我を負ったが、クルミとダンほどではなかった。


 先を急ぐ旅なので、一週間経ったところで、クルミは多少足を動かせるようになり、一行は出発した。

 そういえば、ネオといえば、家宝の腕輪をメイリンから取り返したのでムーンシー国の自分の屋敷に帰っても良かったが、自由な旅が面白いのか、炎の神の言葉に石を持つ者として自覚したのか、それともクルミに好意を持っているせいなのか、アルたちと共に旅を続けることにしたようだ。


 船に乗って少し落ち着いた頃、食堂の大きなテーブルの前に集まり、一行は話をしていた。


「メイリンが選ばれた者の中で戦いの能力が長けていたのは、魔の力を持っている以外に、石の力を上手く引き出していたからじゃないか?」

 アルは疑問を投げかけ、周囲を見回した。


 クルミ、ネオ、ダンがテーブルの周りにいたが、パティはいなかった。

 船には、船に慣れた召使いを数名乗せ、主に船の操縦をしてもらい、掃除や食事は自分たちでも支度をした。

 パティは食事を作るのや掃除をするのも初めてだったが、割と楽しく、特に料理は色々な調味料が珍しく、面白くもあった。今も、パティは話には加わらず、昼食の準備に勤しんでいた。


「ああ、そう言えば彼女は石を光らせていましたね。その後の戦い振りは通常よりも能力が上がっているようでした」

「それに石はあたしたちみたいに隠されてなく、見えていた。……もしかしたら、石を空気に晒すことが必要なのかも」

 ネオに続き、クルミも顎に手を置き答える。


「そうだ、ロミオが〝開放の剣〟を使った時、呪文のような言葉を言い、石を光らせていたな」

 アルは、カストラ国でロミオが神具の剣を使い、夢の入り口を開いた時のことを思い出す。


「ええ、そうでしたね。覚えていますよアル。あの時は確かこう言っていました。

〝我が名はロミオ・クルス。神の力を授かりし者。この者の夢の扉を開き賜え〟と」

 ネオは唇に人差し指を立て、記憶を手繰り、言う。


「開放の剣、それがカストラ国にある神具だね。ロミオが言ったことはその剣だけの呪文かも。他の神具と違って、その剣だけは特殊な力を宿しているみたいだし」

 クルミたちにも既にロミオのことは話している。ロミオが歴史学者であり、カストラ国で救われたことも。


「ちょっと一回整理しようぜ。俺も神具に関しては少しは情報を持っている」

 ダンはテーブルに世界地図を広げ、西大陸に一つ金貨を置いた。


「グリーンビュー国には〝神風の杖〟と呼ばれる神具。それは今手元にある。クルミたちは怪我をしているからまだ試してはいないが、その名からして、風の力を宿しているものと思われる」

「ムーンシー国のネオの実家にあった〝光明の腕輪〟、これも今手元にある。どんなものかはまだ不明……」

 今度はクルミが北東大陸に金貨を置いた。


「あと、分かっているのは北大陸の石を持つ者は歴史学者、ロミオ・クルスだ。カストラ国には神具、開放の剣がある。夢に現れる魔族を倒すため、その剣でパティの夢の中に入った」

 アルが北大陸に金貨を置いた。


「これから向かうリリア国にも神具があるって話だよ。どんなものかは分からないけどね」

「リリア国のマクーバ王とは何度も面識がある。父と仲が良く、気さくな人だ。神具のことはそれとなく聞いてみよう」

 アルは周囲を見回して言うと、皆は頷いた。


「各国を旅して、幾つか神具に関する伝承を聞いたことがあるぜ。一つは、ウォーレッド国が保持する神具は月の女神の力を宿した〝月光の指輪〟ってやつだと。もう一つは、ムーンシー国の〝光明の腕輪〟だが、光の力を宿し、七つの神具の中でも最も特別な力を宿してるって逸話だ」

 ダンはそう言い、頭の後ろをぽりぽりと掻き、

「大した情報じゃねえけどな」

 と付け加えた。


「あたしの知ってる情報は、それぞれの地にある神具は各国が大きな力を持つことがないよう、王たちの先祖は神具を本来の持ち主から離れた地に保管させたって話だよ。神具は王族の持ち物だったから今まで興味なかったけどね」

 クルミは口元に手をやり、大きな瞳を輝かせていた。

 今は見たことのない神具が手元にあり、一体どんなものなのかとわくわくしていた。


「ライザのあの言葉……、それぞれの真の持ち主である神具を探し、使いこなせって言ってた。つまりそれは、石を持つ者が持つべき神具があって、それはその者が生まれた地にあったものではなく、他の地で保管されていたものってことだよね?」

 クルミは確認するようにアルたちを見た。

「そうか、それなら、誰がどの神具を持つ者か、分からないな」


「一人、真の自分の神具を持つ者がいます。炎の神は、自分が選んだ者の末裔の人間ならば、高位魔族も倒せただろうと言っていました。その者は、真の神具を既に手にしている可能性が高いでしょう」

 ネオは、予想でしかないその意見を、しかし確信に近い自信を持って言った。


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