第309話「おい! 早く寝ようぜ! リオネル!」

リオネルと村長と打合せする『農地復興作業』の話は、助役、自警団団長、副団長も加わり、大いに盛り上がっていた。


村長曰はく、噂話では業績を聞いていたが、

リオネル自身がここまで、農業知識を有していると思っていなかったらしい。


実際、農民でしか知りえない専門知識をリオネルは持ち得ており、

加えて、様々な問題解決に関しても、対応し、実践もしていたのだ。


こうなると、村長は『農地復興作業』以外にも相談したいと言い出し、

助役、自警団団長、副団長も即座に賛同した。


リオネルは、以前モーリス達と『町村支援施策』を行っていた時のメニュー表を取り出して、村長達へ見せた。


村長達がメニュー表を読んで行くのと同時に、リオネルも読み上げる。


「ええっと……魔物の排除、討伐、農地を外敵から防ぐ防護用の岩壁の建設と整備、荒らされた農地の開墾、畝づくり、作物の種付け、植え付けの各手伝い、灌漑設備建設の協力、町村の外壁建設、ワレバッドの街からの救援資材の輸送と搬入、または依頼地からワレバットへの荷物送付、自警団への武技の指導、昼夜の警備方法の指導、及び周囲のパトロール方法の指導、墓地の除霊、浄化他……って感じでしょうか」


メニュー表を読み終わり、リオネルの口からも直に聞き、驚いた村長以下4人。


「おお! す、凄い数ですね! な、何でもありですよ! す、素晴らしい!」


感嘆する村長に対し、リオネルは微笑む。


「このメニュー表以外の案件でもご相談して頂ければ、実行可能なものは対応させて頂きます。もしも俺達の都合や実施可能な内容が折り合わない場合、ギルドに相談してください。クランモーリスか、モーリス商会とおっしゃって頂ければ、経験豊富な者が対応可能かと思います」


最後にしっかりと師モーリスチームの宣伝もしたリオネル。


対して、村長達は4人で相談。


しばらくして、話はまとまり……


結局、農地の整地、開墾、畝づくりに加え、

作物の種付け、植え付けの各手伝い、灌漑設備建設の協力、農地を外敵から防ぐ防護用の岩壁の建設と整備という大量発注をしてくれた。

また、作業料金も、相場に比べて数割も安いと大喜びしてくれたのだ。


但し、表向きリオネルは風の魔法使いという事となっている。


なので、灌漑設備建設の協力における水属性魔法、農地を外敵から防ぐ防護用の岩壁の建設と整備等の為に行使する地属性魔法は……

「属性魔法を込めた、魔法杖で行う」と告げておく。


実際は、リオネル自身が魔法杖を発動体にして各属性魔法を行使するのだが。


一方、段取り、作業内容、流れ、勝手が分からない事もあり、

ジェロームは、リオネルの傍らで聞き役に徹していた。


しかし、村長達が何度も何度もお礼を言うのを聞き、

晴れやかな笑顔となっていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


村長達が持参した料理と飲み物は美味しかった。


オーク討伐も無事完遂。


打合せも上手く行った事もあり、会食は大いに盛り上がり、

リオネルとジェロームは、満足感に満ちあふれた。


一方、村長達4人も上機嫌となり、帰って行った。


さてさて!

明日も早くから行動開始。

予定もびっしりで大忙しだ。


夜明け前に起床。

朝一番で村長達と砦へ行き、完遂確認。

砦から農地へ行き、村民達と合流し、農作業を行う。


作業は多岐にわたり、明日中には終わらないかもしれない。


「今日はもう寝よう」と、早めに就寝を決めたリオネルとジェローム。


ふたりは寝袋を準備し、並べて、潜り込む。


魔導灯の照度を落とし、リオネルが眠りに入ろうとした時。


ジェロームが話しかけて来る。


「リオネル」


「ん?」


「……悪い、リオネル。寝る前に……少しだけ、話しても良いか?」


「ああ、構わないよ、何だい?」


「あのさ、リオネル。冒険者って、魔物討伐以外にもいろいろな事をやる、いや、やらされると思っていて、実際に討伐以外の仕事をやる事になったけれど……」


「ああ、そうだな」


「無理やり命令されて、やらされるんじゃなく、われてやる! 君達だから、ぜひ頼みたい! と言われ、必要とされるって……本当に良いよなあ! 素敵だなあ!」


「うん、ジェローム。俺も全く同じだ。そう思うよ」


「そ、そうか!」


「ああ、それに今日は命を奪う討伐だったけれど、明日は農作業。大地を耕し、命をはぐくむ作業なんだ」


「おお、リオネル! 良い言葉だな! 命を奪うのではなく! 大地を耕し、命を育む作業かあ! 俺さ、生まれて初めてやるよ、農作業! いろいろと教えてくれよな、リオネル!」


「ああ、任せろ! それに作業するのは俺達だけじゃないぞ」


「作業するのは俺達だけじゃないぞ……か、そうだな! 村長さん以下村民達も一緒に働くんだよな!」


「ああ、そうさ! 多くの村民達とともに、俺達は汗を流す。そうだ! 俺だけじゃなく、村長さん達にもいろいろ、農作業を教えて貰えば良いさ」


「ああ、リオネル。俺、さっきの食事会で村長さん達と更に仲良くなったし、大丈夫さ! ガンガン教えて貰うよ!」


「だな! ジェローム、それにさ。農作業中、もしくは農作業後……また、たくさんの笑顔が見られるぜ」


「おお! 分かるよ! 村民達の笑顔か! すっげえ楽しみだ! おい! 早く寝ようぜ! リオネル!」


……自分から話しかけておいて、おい! 早く寝ようぜか?

仕方のない奴だ。


苦笑したリオネルであったが、ジェロームは疲れもあってか、

すぐに寝入ってしまった。


元騎士のジェロームが、村民とともに働く農作業を楽しみにしていると分かり、

リオネルは、とても嬉しくなり、自分もすぐ眠りへ入ったのである。

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