第152話「驚きの連続!」

リオネルが索敵でゴブリンどもの気配を捉え、歩き出すと……

付き従う、灰色狼風の巨犬『魔獣ケルベロス』が、話しかけて来た。

無論、心と心の会話、念話である。

他人には一切聞こえない。

ギルドの図書館で魔導書を読めば、術者の任意で他者と会話を共有する事も可能だという。

やり方は憶えたので、いつか修行した上で、いつか試してみたいとも思う。


さてさて……話を戻そう。


あるじよ……』


『ああ、ケル。以前から言おうと思っていたけど……主なんて堅苦しい、リオで良いよ、「戦友」』


『……ふっ、「戦友」だと? 我は主に異界より召喚された従士だ。対等ではなく、主に対し、忠実に付き従う存在だぞ』


『いや、主なんておそれ多いって。俺は全然世間知らずのガキだよ』


リオネルがそう言うと、返す言葉に困ったのだろう。

ケルベロスは無言でスルーした。


『……………』


リオネルは更に話を続ける。


『どのようなロジックか分からないけれど、俺如きが遥かに格上のお前を召喚出来た。共に旅をする事に感謝すると同時に、お前とは支え合う間柄でいたいんだ』


リオネルの言う通りである。

召喚魔法は術者のレベルにより、召喚対象が決まって来る。

基本、同じレベルか、格下の者しか召喚する事しか出来ない。

格上の対象が呼び出されたり、素直に従うなどありえない事なのだ。


ちなみにリオネルは『レベル16』付き従うケルベロスは『レベル62』、

『レベル差は』何と何と!! 46にもなる。

絶対にありえないレベル差なのだ。


『お互いに支え合う? ふっ、我が主を支えるのが道理。それが召喚された者の宿命だ』


『ははは、宿命か。じゃあ仕方がない、俺が勝手にお前を支える。ほんの微力だがな』


『分かった。命令とあらば従おう、リオ様』


『リオ様?』


『ああ、リオ様だ。リオ様を慕うあの人間3人が「リオさん」と呼んでいる。ならば従士の我は、主をリオ様と呼ぼう』


『……分かった。それでOKだ』


『……本当に不思議なお方だ、リオ様は……普通ならば、そこまで巨大な力を手に入れれば、驕り、たかぶる。更に必要以上に誇るだろう。なのにリオ様にはそういった振る舞いが皆無……何故なのだ?』


『ああ、答えははっきりしている』


『はっきりしている?』


『……俺は、運が良い。つくづくそう思うよ』


『運が?』


『ああ、そうさ。「運が良いだけだから」『素晴らしい邂逅』をし、『とんでもないスキル』も授かった。だから驕り、たかぶり、必要以上に誇る理由がない。ずっと運を逃がさないよう、「幸福の女神に嫌われないよう」地道に……頑張って行くだけなんだ』


『成る程……「運が良いだけだから」「幸福の女神に嫌われないよう」か……我は、リオ様が持つ才能の開花を、けして運だけとは思わないが、ひどく謙虚な方だと思っておこう』


『ああ、それで構わないよ』


リオネルがOKすると、ケルベロスは面白そうに笑う。

念話で話しているせいか、どんどん心と心が近付いているのが分かる。


『ははは! 面白いぞ、リオ様は。仕え甲斐がいがある』


『そうか、ありがとう。これから宜しく頼む』


『うむ、了解だ』


『よし! さあ、そろそろ現場だ。準備は良いか?』


歩いて来たふたりの目の前に、広い農地が広がっていた。

そして、ゴブリンどもは……居た。


約100体、キャナール村の時同様、農地をほじくり返し、転がりまわり、

泥だらけの遊び場にし、騒ぎまくって……

完全に『パーティーピーポー化』している。

早速、仕事の開始だ。


『ああ、いつでもOKだぞ』


同意した戦友ふたりは、抑えていた魔力と気配を解放したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リオネルとケルベロスが魔力と気配を抑えていたのは……

『パーティーピーポー化』したゴブリンどもが怯えて逃げ出さないようにする為である。


だから、解放した瞬間。


ぎゃあああああっっっ!!!

ひいいいいいいっっっ!!!

かああああああっっっ!!!


ゴブリンどもにとって……

レベルこそ『16』だが、ゴブリンハンタースキルを取得し、無双がお約束のリオネル。

そして冥界の恐るべき魔獣『レベル62』のケルベロスは完全に格上だ。


やはりというか、凄まじき気配をふたつも感じれば、ゴブリンどもは心身を恐怖に染め、逃げ出すしかない。


どんどん農地外へ逃亡するゴブリンども……

大慌てで、我先にと駆け出し、押し合いへし合い、すっ転ぶ者も出る始末。


「うむ! やはりか! 奴らめ、リオ君とケルの気配を察して逃げ出しおった」

「こうなると思った」

「リオさんとケルなら、当然っす!」


納得して、頷いているモーリス、ミリアン、カミーユ。

しかし、ブレーズの副官ゴーチェと助役達は驚き、呆然とするしかない。


「な、な、なにぃぃっっ!? ゴ、ゴ、ゴブリンどもがあっ!? に、に、逃げ出しやがったあ! 彼と犬を見ただけでかあっ!?」


「し、し、信じられないっ!!」

「わ、我々は! ま、まぼろしを見ているのでは!?」

「は、は、白昼夢だあっ!」


しかし夢などではない。

今、起きた事は全くの現実である。


『リオ様、どうする、ゴブリンどもを追うのか?』


『当然! 奴らの巣、本拠地を突き止める』


『うむ、了解だ、追跡しよう』


という会話をしたリオネルは、モーリスへ呼びかける。

当然、肉声である。


「モーリスさん!」


「おう! リオ君」


「俺はケルとふたりで、奴らを追撃し、本拠を突き止めます。モーリスさんは、ミリアンとカミーユを入れて事前打ち合わせの通りに、助役さん達と防護の岩壁設置前の下打ち合わせをお願いします。


「ああ、了解だ! ゴーチェ様立ち合いで、まずは助役さん達と下打ち合わせをやり、村長さんに上げて貰い、ブレーズ様に最終OKを貰って、明日にでも岩壁を設置しよう」


「はい、なので岩壁は助役さん達から位置、仕様の希望を聞き、とりあえず『おおよそ』で相談……というレベルで構わないと思います」


「おう! 分かった! 但し、無理はするなよ! リオ君!」


「はい! じゃあモーリスさん、後を頼みます。打ち合わせが終了したら先に村へ戻ってください! ケル、行くぞ!」


わおおん!


リオネルとケルベロスは、逃げるゴブリンどもの後を追いだした。


段取りがどんどん進み、またも驚いたのはゴーチェである。

多分、主のブレーズからは『リオネルから離れずのサポート』を命じられているに違いない。


「お、おいっ! リオネルよ、待ていっっ!!」


ゴーチェも慌てて、リオネルとケルベロスの後を追いだしたのである。

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