第114話「帰れる場所が出来た」

厳しい訓練……否!

強力な無意識メンタル攻撃に何とか耐え、リオネルはモーリス達とともに、キャナール村の正門前に到着した。


ここで「はい!」とモーリスが手を挙げる。

何か言いたいことがありそうだ。


「ふむ、ここは村の門番へ、私が帰還の声掛けをしよう。構わないな、リオ君」


「ええ、OKです」


リオネルがあっさりOKすると、ミリアンとカミーユが騒ぎ出す。


「あ~! やっぱりぃ! いっつも目立って、美味しいところだけ、持って行こうとする師匠は最低!」

「隙あらば、お手柄主張ってスタンス、ホント感じ悪いっすよ」


リオネルよりメンタルが弱い?モーリスは、激高し、いきり立つ。


「うっさい! うっさいわ、お前らぁ!」


モーリスの大きな声に気付き、キャナール村の門番も驚き、声を張り上げる。

最初に会った時とは、えらく違う反応である。


「おお! 今お戻りですかっ! お待ちしておりましたあ! どうかなさいましたかっ! モーリス様」


「あ、い、いや! な、何でもない!」


「おお、皆様ご無事でっ! 良かったあ!」


「あ、ああ……コホン! 門番殿」


「何でしょう!」


「我が親友パトリス・アンクタンへ大急ぎで報せてくれたまえ! 私達が、待望たる大勝利の朗報を持ち帰ったと!」


「おおおおおおっっ!! だ、大勝利の朗報ですかっ! すぐ村長を呼びますっ!」


という事で既視感デジャヴュである。

リオネル達が初めてキャナール村を訪れた時と同じシーンが繰り返された。


ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!!


村の正門が重い音を立て、大きく開いた。


すると……

開いた正門の向こう側には教会の法衣ローブをまとったひとりの司祭

――パトリスが立っていた。


前回は10年ぶりの再会であった。

しかし今のモーリスは、親友パトリスへキャナール村の希望を運ぶ平和の使者である。


「おおっ、モーリス! だ、だ、大勝利の朗報とは! ほ、本当か

っ?」


「ああ、私達4人が洞窟の最奥まで赴き、ゴブリンどもを! 敵の首魁以下、全てを討伐して来たぞっ!」


モーリスはきっぱりと言い放った。


……本当はリオネルが9割以上ゴブリンを倒した。

だが、感動的な今この時に、そんな事を言うのは野暮やぼである。


さすがに、ミリアンとカミーユも、『空気詠み人知らず』の突っ込みをしない。


「おお、ありがとう! ありがとう! 幼き少年の頃は切磋琢磨し、支え合った。そんな親友のお前に、人生の危機を救って貰う、こんな日が来るとは感無量だあっ!」


「おお! パトリスぅ!」


万感胸に迫り涙ぐむモーリスとパトリスは、互いに駆け寄ると、「がっし!」と抱き合った。


そのしばし後……

仕切り直したリオネル達は、パトリス達に対し、洞窟におけるゴブリン討伐の顛末を詳しく報告した。


パトリスは大いに喜んだ。

そして「約束を果たす」と言い、ゴブリンの討伐料として、

ポケットマネーの金貨100枚を支払ってくれたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


翌日朝早く……

リオネル達の姿は、パトリス達村民とともに、キャナール村郊外の農地にあった。


実は……窮乏するキャナール村の現状を考え、パトリスが支払った金貨100枚を返却しようと、モーリスが言い出し、リオネル達も全員一致で賛成したのである。


しかしパトリスは頑として、返金を認めなかった。


困ったのはモーリスである。


ここでリオネルが提案をした。

金貨100枚はとりあえず受け取る。

その代わりに、4人全員で「村の復興作業に協力をしよう」というアイディアである。


「名案だ」とモーリス達は了解した。

パトリス以下村民達と一丸になって大勝利を収めたものの……

ゴブリンどもに荒らされ放題となった農地の復興はキャナール村にとっては急務なのだ。


ここでパトリスが支払った金貨100枚の、分配の話となる。

今回の貢献度で言えば、ゴブリンの大部分を倒したリオネルがダントツである。

なのでパトリスから受け取った金貨100枚のうち、70枚をリオネルへ渡すとモーリスが告げた。

残りの30枚をモーリス達3人で分けると。


しかしリオネルは、

「冒険者ギルドから別途ゴブリンの討伐料を貰えるから」と固辞した。

そしてモーリスにはパトリスとの兼ね合いから半分以上の55枚を、

そして残りの45枚を自分達3人で均等に15枚ずつ分ける提案をし、説得してしまった。


モーリスは自分がリオネルの15枚よりも遥かに多い枚数の金貨を受け取り、微妙な表情であったが……

ミリアンとカミーユはリオネルに対し、「申し訳ありません」と謝りながら……

各自が15枚の金貨を受け取り、「大金だ」と素直に喜んだのである。


そんなこんなで……

全員の総意を託されたモーリスは、パトリスに対し、農地復興の手伝いを申し出た。


農地復興の手伝いをしたいというモーリスの申し出を聞き、

パトリスは、否、村民全員が歓喜した。

キャナール村経済の根幹ともいえる農地の復興に、

村を救ってくれた『英雄達』が手を貸してくれるからである。


まずは安全を確保する為……

リオネルの提案で、農地の周囲にモーリスが地の魔法『岩壁』を行使し、

頑丈な『防護柵』が造られた。

これで外敵だけでなく、作物を荒らす害獣の脅威も防ぐ事が出来る。


『防護柵』が完成した後……

リオネルは荒らされた農地の整地と、畑づくりに勤しむ。


ここで、アルエット村での農作業経験が大いに役立った。

更にリオネルは『猪』パワーが全開。

力仕事をガンガンこなしたのだ。


ミリアンも得意な水属性魔法で、灌漑づくりに協力した。


そして意外にも、ミリアンとカミーユは畑仕事を全く苦にしなかった。


実は……

ミリアンとカミーユは、孤児院において10年以上菜園の担当をしており、率先して働いたのである。


と、いう事で……

リオネルとカミーユは今、造ったうねに作物のなえを植えていた。


「リオさん、とっても気持良いっすね。太陽の下で働くのって。陽が射さない暗い洞窟に潜ったから、余計そう思うっすよ」


「だな!」


「以前からも話していたけれど、姉さんと、改めて昨夜いろいろ話したっす。冒険者は一生やれる仕事じゃないって」


「ああ、俺もそう思うよ」


「このキャナール村の人達は本当に良い人達っす。孤児でよそ者の俺や姉さんにも優しくしてくれるっす。まあ、パトリスさんの『とりなし』と、ゴブリンどもを倒したからでしょうけど……」


「まあ、そのふたつは大きいだろうな」


「リオさん、俺、考えたっす。ある程度稼いで、冒険者を引退したら、この村みたいな田舎で農民をやっても良いって思ったっす」


カミーユはそう言うと、少し離れた場所で、仲良く作業をするモーリスとパトリスを見た。


「モーリスさん、パトリスさんから、キャナール村へ、移住のお誘いを受けたと言っていたっす」


「ああ、俺も聞いたよ、その話」


「あはっ! リオさん、カミーユ、何の話ぃ?」


ここで、ミリアンが飛び込んで来た。

隣の畝で行っていた作業が終わったらしい。


「姉さん、この村へ移住する話っすよ」


「ああ、昨夜話した件ねっ♡」


「うん、パトリスさんから、移住はいつでも構わないよって、もしも、来てくれたら村民全員が、大歓迎だって言われたっすよね。俺、『帰れる場所』が出来て、凄く嬉しかったっすよ」


カミーユはそう言うと、晴れやかに笑ったのである。

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