第35話
まだ日も昇っていない午前4時前。
1年振りくらいに気持ちよく目覚められたなんて感じていた割に、睡眠時間は5時間程度と普段と大きく変わりないように感じた。
「……どこ行った、あいつ」
例年通りならばそろそろ勝手に姿を消してしまっている時期ではあるが、私の直感がいつものそれとは違うと言っている気がした。
「そのうち戻るか……」
戻って来なくともやることは変わらないので私はさっさと布団を片付けて、テレビをつけて優美も出場している大規模なスポーツ大会の中継映像をただただ流し見した。
「めっちゃ早起きじゃん、緋色」
「別に、ただ目が覚めただけ。そんなことより、どこに行っていたの?」
「散歩、ちょっとね」
「あんたって昔から猫みたいな気まぐれで生きているわよね」
「今は死んでいるけどね」
「うっざ……」
私は渚と向かい合い互いの瞳を見つめると昔……渚が生きていた頃。
私が渚を、渚が私を名前で呼び合っていたあの日のように笑い合った。
「そういえばさ。会ったよ、さっき。明の友達」
「寝ぼけすぎ。こんな所に明の友達が居るはずないでしょう。百歩譲ったとしてもこんな時間にはいるはずないでしょう」
「でも、喋ったよ、わたし。あの子と」
「やっぱり夢じゃない。あんた、私以外に見えないのだから」
確証がある訳ではないが、目の前に存在している天空渚は私の生み出した妄想でしかないはずだから。
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