緋色琴音十九の夏

第33話

7月末日


緋色ひいろってば、相変わらず友達少ないよね」

何もないの場所から当たり前のように発せられたその言葉を聞いて私は溜息ためいきを吐かずにはいられなかった。

「別に少なくなんてない」

「ダウト! 優美ゆみ奈々子ななこ小崎こさき姉の3人だけでしょ?」

めいもいるから」

「いや、妹じゃん。明はさ。わたしらの」

「そういう事なら、3人だけか……」

「まっ! わたしを入れたら4人だけどね」

「あんたは別だから」

明が私にとって妹の様なものなのであれば、その実姉のこいつは私にとって姉妹同然であり、パートナーのようなもので……。この世に存在しない存在なのだから。

「ところで、あんたはどうして化けて出てきた訳?」

「さあ? ずっとそうだったじゃん。去年も、一昨年も……わたしが死んだ時からずっと」

「確かに」

そう簡単に納得してしまって良いものとは思えないが、四年目ともなると夏の風物詩のようにも感じた。

「そういえばさ、伸びた? 身長」

「伸びてない。測ってないから無いから知らんけど」

「あぁ……。じゃあ、あれだ。髪」

「髪が伸びたくらいで身長が伸びたようには見えないでしょう。まあ、伸びた……というか伸ばしているけど」

「似合っているよ。大人っぽい、めっちゃ」

「子供みたいな感想をありがとう」

「子供だもん。わたしはさ……」

2年前の夏から気が付いてはいた事だが、渚の姿はのまま変わっていない。衣服は替えることは出来るようだけれど、当時着ていた服だけという制限があるらしい。

髪が伸びる事は無く、あの時の姿から老いることもない。

私にとっての夏の風物詩と化した天空渚てんくうなぎさという幻影は私と同じ時間を進みながらあの時で止まっていた。

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