第279話 様々な目標
翌日の拠点。
その離れにある解体場には、ロッジ、ゼオ、カルラの3人が集合していた。
何気に皆がボスの素材を楽しみにしていたらしい。
「ちなみに、ロッジは現物を見たことあるの?」
「昔一度だけな。ただバラされた後の皮だけだったし、その頃なんてまったく素材にも触らせてもらえなかった」
「そっか。じゃあ~早速、はいっ!」
脇の空き地にドドーンとデカい竜を取り出す。
まるで召喚したみたいになっているが、首はぶった斬られているし、その首も昨日輪切りにされてちょっと短くなっているのは秘密である。
「うぉおおお!? こいつはすげぇな!」
「おっきいねー!」
「うむ、我が知る中でもかなり大型な部類だな」
「お? ゼオはもっと大きい魔物も知ってるの?」
「これよりさらに大きいのは何体か戦ったことがある。あとは竜の中でも古代種は、この倍以上の大きさのモノもいたりするな」
「な、なるほろ……ちなみに、腐敗して身体が溶けた竜って聞いたことある?」
期待を込めてゼオと、そしてカルラにも目を向けるが、どちらもあっさり首を振った。
今の話しぶりから関連があるかもって思ったけど、どうも系統がまた違うっぽいな。
まぁ、あの竜――というかどうも大き過ぎてなんとなくドラゴンと呼んでしまうアレは、とても倍どころでは済まないくらい、もっと大きかったような気がするしね。
「お、おいおい、早速バラしてもいいか?」
「あ、ごめんごめん。どんどんやっちゃっていいよ! カルラもお願いね」
「やっほーっ!」
気付けばロッジは手をワキワキさせており、カルラは横でヨダレを垂らしていた。
このままじゃ全部『血』は飲まれるだろうけど、確保したところで具体的な使う用途が何も無いからなぁ。
必要になったら次の時に確保すればいいかと、今回は全部お任せすることに。
バラせるかな~? と少し見守っていれば、【身体強化】を使用しながらロッジも皮を切断しているので、これなら俺が横で手伝わなくても問題ないだろう。
ならば俺は俺でやるべきことをやっていこう。
「そんじゃ、俺はまた出かけてくるから、あとよろしくね!」
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
ロズベリアに飛んだ俺は、ひとまずハンターギルドへ。
ギルマスのオムリさんに、そろそろお金の引き出しをファルメンタへ移すことを伝え、残高が記載された書状を用意してもらうことになった。
少し時間をくれと言われたので、ただ待っているのもなんだし、【魂装】の高敏捷数値をゲットすべくクオイツへ。
ついでに解体場の隙間を埋めるように素材をせっせと運び、受付でいつも留守番しているお兄さんから『この人でなし!』と。
それはもう心地良い罵声を浴びながら再度オムリさんのところへ戻れば、書状に記載されている金額を見て「オホッ」と変な声が漏れる。
「け、桁が……えーと、軽く10億を超えていらっしゃいますね……」
「小型とは言え竜種なわけですし、毎日あれだけの素材を持ち込めば当然でしょう? それにこのくらいの資産があるからこそ、私達はロキさんに荷運びの依頼を出せるのですよ?」
「あー……、持ち逃げとか、そんなリスクだってありますもんね」
「ロキさんにはそんなつまらないことをする利点があまりにも薄い。依頼する側として、これほど安心なことはありません」
たしかにここの魔物素材とか、わざわざかっぱらってまで欲しいとはまったく思わない。
2億や3億程度の積み荷価値なら自分で頑張ればいいじゃんと、当たり前のように思ってしまうので、もう俺の金銭感覚は完全にぶっ壊れているんだろう。
まぁ「実はお金持ちじゃん?」って余裕ぶっこいてても、どうせどこかで大金使って、またド貧乏生活に戻りそうな気がするけど。
あとは、次の目標か。
フレイビルのマッピングを終わらせたら、一旦は南東にあるダンジョン『救宝のラビリンス』を目指すことになるが、その後の行動指針を決めるのはやはりコイツだろう。
「確認させてもらいたいことがありまして、Sランク狩場ってどこら辺にあります?」
「ロキさんなら当然そうなるでしょうね。今まともに開かれているSランク狩場は1ヵ所だけ。大陸の北東方面に位置する大国、アイオネスト王国に存在する狩場でしょう」
「ん?……今、ですか? 過去は違ったんです?」
「1ヵ所は近年ヴェルフレア帝国に飲み込まれて、一般開放されていないと聞いています。もう1ヵ所は、本当にあるかも分からない文献情報というやつです」
「あぁ、国が無理やり独占ってやつですか……ウザったいですね」
「ギルドとしても相手はあの帝国ですから、誰かが解放してくれることを願うくらいしかできずでして」
みんなのモノを何やってんだよバカって思うけど、文句を力で跳ねのけられる国なら、占有してしまうのが賢いやり方なのかもしれない。
明らかにハンターギルド全体を敵に回す行為だし、まず普通じゃ考えられないことだろうけど……
そういうことを平気でやっちゃうのが、調子こいてる転生者なんだろう。
まぁ、まったく人のことは言えませんが。
ちなみに"文献情報"に書かれていたというSランク狩場は、『北の海』を指しているらしい。
たぶん今は地図が無いからだと思うけど、そこまで広範囲は調べられず、大陸から多少離れた程度ではそれっぽい場所が見当たらないそうだ。
島があるのか、それともファンタジーらしい何かが広がっているのか――
妄想は尽きないが、まだまだ行けたとしても先の話だ。
今は目先の目標を一つ一つクリアしていこう。
あ、あとはついでに、コレも確認しておかないとな。
「オムリさんは、『ロッジ』というドワーフをご存じですか?」
「ロッジ? 元、"五頭工匠"の一人だったロッジさんでしょうか?」
「……Sランク装備まで手掛けられるという話なので、たぶんその人物で間違いないでしょう。約4年前まではこの街にいたとか」
「あぁ、であれば間違いないでしょうね。丁度その頃から"四頭工匠"に減ったはずですから」
ずっと気になっていたことだ。
ロッジは我を通し、その結果素材の仕入れがままならなくなった。
ここまではまだ分かるが、その時『店を燃やされた』ような話までしていた。
しかし本人はこのことについてあまり話したがらず、分かったのは約4年前の出来事ということくらい。
だから、最も中立的な立場であるハンターギルドに確認するしかなかったわけだ。
向こうが求める配達に俺も協力する――だからこそ、無下には断られないだろうという打算もあってのこと。
ロッジ本人が今どう思っているのかは分からないが……放火までされたとなれば、それは明らかに一線を越えている。
利益優先のためにそんなことをしでかしたやつらが、今ものうのうと生活しているのなら……
「それでは、ロッジさんを追い込んだ者達について、分かる範囲でお願いしますね」
「承知しました。ではまた、お会いできる日を楽しみしていますよ」
書状を受け取り、これで今日からはロズベリア専用の預け機能が働くようなので、移動する残高の方は当面の『本』購入代金に。
ロズベリアで今後得られる収入は可能な限り現金で受け取り、いざという場面で気兼ねなく使えるようにしていけばいいだろう。
ハンターギルドの用事が終わったら、お次はフレイビル王国にもある傭兵ギルドへ。
国単位の運営というだけでシステムは共通だと教わっていたので、一通り悪人リストを眺めたのち、かなり綺麗な受付のお姉さんに情報を確認していく。
国が変われば一部の特殊な傭兵を除いて信用もそのままリセットらしいけど、傭兵稼業に専念できるほど暇でもないわけだし、悪党情報と討伐報酬さえ貰えるならなんだっていい。
「ねぇ、本当にこの『バーナルド一家の殲滅』を狙うの?」
「え? 一番懸賞金が高かったんで持ってきたんですけど、何かマズかったです?」
「ううん。被害がかなり大きいから、潰してくれるならそれが一番なんだけど……ただ、頭目の兄弟はこの国の元ランカー傭兵よ?」
「へぇ……それはそれは、ぜひ詳しい内容をお聞きしたいですね」
「へ?」
お姉さんにとっては警告のつもりだったんだろう。
にもかかわらず、なぜか俺が乗り気になっているんだから、面食らうのは当然かもしれない。
「ちなみに、元の順位は何位くらいで?」
「たしか25位と38位だったはずだわ」
顔を上げれば、カウンターの奥には壁に掛けられた大きなランキングボードが。
ここもヴァルツ王国同様、4列に分かれ、40位までの順位が公表されていた。
「一応、特徴や特技、あとは活動地域とか分かることを一通り教えてもらえます? 狩れそうならやりますので」
「……え? え、えーっと――……」
あたふたしながらも資料を持参し、事細かに書かれている情報を読み上げてくれるお姉さん。
どうやらフレイビルの南西部を活動拠点にしているようで、それでも最北部であるロズベリアまで情報が出回るのは、それだけ被害が大きく国も重く受け止めているかららしいが……
(町を牛耳るか)
お姉さんからの説明を受け、そんなことが実現可能なのか、些か疑問を覚えてしまった。
末席ランカーと言えば思い出すのはストーカーの爆走獣人で、たしかに素早かったが、じゃああの時仕留められなかったかと言われれば、そんなことはなかったと思う。
そして今はあの時よりもだいぶ強くなっているわけで、そうなると38位は当然として、25位も脅威を感じるイメージがあまり湧いてこない。
んー……
考えを巡らせながらも礼を言い、俺は傭兵ギルドの外へ。
「どうせなら、南西方面から攻めちゃおっかな?」
あとはあってもCランクとDランク狩場くらいという話なので、どのルートでマッピングを進めるかは決めていなかったが、もう一つ向かう理由ができたのならば迷う必要もないだろう。
約2年ほど前から問題になりながらも放置されている、大徒党を組んだ悪党達。
それで懸賞金3000万ビーケというのは少々安過ぎる気がするけど、表面上では見えない『様々な戦果』に期待しつつ、俺は大きく成長させてくれた街、ロズベリアを後にした。
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