第230話 またの出会いを約束して
「想像以上にボスはお金になるものなんですね」
「ボスの素材価値となればこんなものだと思うぞ? 強靭な皮はもちろん、巨大な魔石や角も、この手のボスなら骨や歯だって需要はあるだろう」
場所はハンターギルド近くの飲食店。
そこで先ほど提示されたヴァラガンの報酬と、分配金について話していた。
ギルドマスターアディラさんから言われた金額は5億1千万ビーケ。
本当はもう5千万くらい高い買取になる予定だったみたいだが、なぜか希少な原料薬や調合材料にもなる"ヴァラカンの目玉が2個とも無い"ということで、減額されたのがこの金額という話だった。
考えてみたら俺ってば、抉った後は怒りに任せてデカい目玉を握り潰しておりました。
5千万を無駄にするとか……何やってんだ馬鹿野郎と、勝手に動いてしまった自分の手に説教したのは言うまでもない。
でもまぁこれで遺族の人が見つかれば、一人当たり約3,500万ビーケほどの見舞金は渡せるだろう。
「ロキはこれからどうするんだ?」
まったり食後のコーヒーを味わっていると、ふいに放たれるグロムさんの言葉。
話の方向性が変わり、本題が来たかなと思いながらも素直に答える。
「僕は世界と狩場を巡る旅をしているので、とりあえずはここからヴァルツ王国の南部をぐるっと回って、ラグリースに一旦戻る予定ですね」
「となると、まだフレイビルのAランク狩場 《クオイツ竜葬山地》に足を運ぶ予定はないのか」
「もちろん追々は行きますよ。一度ラグリースに戻ってからヴァルツの中央を通ってフレイビルに入る予定ですから。それにしても竜葬山地……これまた凄い名前ですね」
「竜を狩り、竜に狩られる場所だからな。しかしそうか。追々、だな」
「……グロムさんは、なぜここに? Aランクならエントニア火岩洞は格下の狩場でしょう? 装備だってここにいるBランクの人達とは質が違う」
俺を含め、周りが着ているのはサラマンダーの赤色、もしくは使い古されて変色した赤黒いタイプが主だったのに、グロムさんは深緑の鱗を纏ったフルレザーアーマーを身に着けていた。
「もともとはクオイツが俺の狩場だからな。主装備じゃないが、コイツもフレイビルで作ったモノだ。今回はその装備絡みでどうしても種火魔石が必要と言われてしまったから、まぁしょうがなくってやつだな」
「あー……あのオーバーフレイムロックってやつですか。ギルド内の掲示板にいくつも1個2000万とかで買取りって募集が貼り出されてましたし、かなり需要はあるみたいですね」
「高位の鉱石で武器を作ろうとすると、どうしても加工に種火魔石が必要になる。Aランク連中なんかは早いとこ拠点に戻って武器を作りたいから、無理やり金で解決しようとするんだろう。俺もそれを狙っていたしな」
「なるほど。その種火魔石を入手できるような場所が色々あれば良いんでしょうけどね」
「あるにはあるぞ? ただ一番安全に採れるのがこの町だから、Aランク連中も強い装備が欲しければこの町を訪れることになる。他じゃあAランクでも相当キツい」
聞けば聞くほど、エントニア火岩洞が混む理由も分かってくるな。
Bランクは編成をしっかり組んで耐性防具さえ揃えば比較的安定な上に、即換金可能な高額ボーナス報酬を狙えるチャンスが常にある。
AランクはAランクで種火魔石の供給量が追いついていないから、即日手に入らなくて結局狩場に混ざってワンチャン狙いの資金稼ぎ。
そりゃ混むし、出入りだって激しくなるわなって環境だ。
レイドの近接募集にAランクハンターが何人か混ざっていたのもそういうことなんだろう。
「てっきりAランクの人達は、ヴァラカンを倒しに来ているものだと思ってましたよ」
「参加した連中も大半は騙されたんだろう。俺と顔を知っていたもう一人の奴は、一時的に参加していたパーティメンバーから、種火魔石の資金を稼ぎませんか? もう4回目で討伐は安定してますよって言われて騙されたからな」
「……」
改めて、"執行"して良かったなと、心底思う。
そういった戦力になるAランクの近接ハンターを狙っていたんだろう。あのゴミ連中は。
しかし、MMOっぽい雰囲気だな。
高い買取募集を見て、警戒しておいて良かった。
何かしら重要な用途があると思っていたが、なるほど……強い武器を作るための前提アイテムか。
用途は、上位格の鉱石を溶かして加工するため――。
「……一応、僕1個持ってますけど。買います?」
賭けだ。
需要があるなら早急にこんな判断をする必要もないのだが、せっかく一緒に戦い、唯一生き残った戦友。
急ぎで欲しいなら、たぶん俺は必要ないはずだから譲ってもいい。
「ほ、ほんとか!?」
「えぇ、偶然奥をウロウロしていたら1匹倒せまして。綺麗な魔石ですよね、コレ」
魔宝石と一緒に入れていた革袋から取り出し、かなり赤みの強い――ただその中に白い線がいくつも混じった魔石を机の上に置く。
「たしかに、この白い線は鍛冶屋が言っていた通りだな……本当に売ってもらえるなら2000万――いや、ロキは命の恩人だ。今回の報酬も加えた5000万ビーケで買取らせてほしい」
「いえいえ、普通に相場の2000万ビーケでいいですよ。あの報酬は戦い抜いたグロムさんが得るべき戦果ですからね」
「しかし、それではお礼にもなっていない」
「その代わり、もし可能であれば一つお願いしてもいいですか?」
「ん?」
「《クオイツ竜葬山地》という狩場を含め、Aランクの先輩ハンターだからこそ知っている情報を教えていただけると凄く嬉しいです。僕もヴァルツを一通り回ったら、すぐに昇格試験を受けてAランクハンターになる予定なので」
「なるほど、そいつは楽しみだな。そうか……その程度でお礼になるのならば、よし分かった。俺が知っていることは余さず教えようか」
お互いコーヒーをお替わりし、じっくりと、聞き逃すことなく頭の中に叩き込む。
狩りをしていない時間――これを非効率と思う部分もまだどこかであったりはする。
でもゲームのように、狩りをしながら同時並行で情報収集なんて、そんな器用で都合の良い望みが叶うわけもない。
だから、このような時間も凄く重要なのだ。
Aランク狩場の場所はもちろん、その他の近隣にある高ランク狩場や、武器、防具の推奨素材、また作成にお勧めの町やそのお店の名前まで。
頭の中で描けていたヴァルツを抜けるまでのルートが、さらにその先――東の方へと大きく広がっていく。
『地図』というモノが消えてしまったこの世界でも、こうして今の俺と同じように、皆がそれぞれの『地図』を頭の中で思い描いているんだろうな。
「これで俺がこの町にいる理由もなくなったか。《クオイツ竜葬山地》の近くにある都市『ロズベリア』が拠点だから、もし寄ることがあったらぜひ声を掛けてくれ。狩場の案内くらい、いつでも務めさせてもらうぞ」
「えぇ。どうもその町の滞在は長そうな感じがしますから、いずれハンターギルド内でお会いすることもあるでしょう。その時は宜しくお願いしますね」
取引も終わり、お互い握手を交わしたら、またそれぞれの道がスタートする。
グロムさんは東へ、俺は南へ。
出会いと別れ、冒険なんてその繰り返しだ。
さてさて、次はどんな町で、どんな狩場が待っているのだろうか。
どうせ道中は地味修行の魔法無駄撃ちと、あとは悪党探しをするくらいしかやることがないのだ。
移動中に一度、爆上がりしたステータスやスキル関連も一通りチェックしておかないといけないな。
それにいくつかのスキルは、どこか人目の付かないところで実験もして――
こうして俺はローエンフォートでの滞在を約10日ほどで終え、ウキウキしながら次なる町へと向かって旅を再開した。
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