第211話 妄想を掻き立てる攻略本

 宿に戻り、受け取ったバングルを指で弄りながらボーッと眺める。



(普通の鉄素材っぽいよなぁ……ホントにこれで魔道具?)



 渡された時、ミルフィさんから傭兵の証明になるので、基本的には腕に付けておけと言われたこのバングル。


 表面に簡単な装飾が施されており、裏には俺の名前と、発行場所という意味でグリールモルグという町名が彫り込まれていた。


 そして、今は穴が開いている中心部の窪み。


 この窪みにギルドから認められた一部の傭兵のみ、共鳴石という名の石を支給されてはめておくらしい。


 割った共鳴石の片割れに【光魔法】で光を当てると、離れた場所にある別の片割れも光るという異世界らしい優れもの。


 そしてバングルは一度光ればそのまま一定時間維持させる簡易魔道具にもなっているようで、これを使って指名依頼が入ったことを知らせるため、視界に入りやすいバングルを傭兵の証明にしているという話だった。


 なので石を渡されないということは、指名依頼の可能性が無いということにも繋がるわけだな。


 お隣のフレイビルにある鉱山で採掘される希少鉱石らしく、欲しければ"実績を積んで実力を示せ"と言い切られてしまったが、まぁ俺が傭兵登録した目的を考えればこのままでも問題ないだろう。


 守銭奴ロキが顔を出したから、少しでも効率的に稼げる可能性を作っただけで、俺の本業はあくまでハンターだしね。



 もういいやとバングルを革袋にしまい、その代わりにゴソゴソと取り出したのは3冊の本。


 やっと落ち着いて読める日が訪れたのだ。


 ベッドに寝転び、とりあえずはどんなものかと、一番上から手に取り流し読みしていく。


 まぁ、早々に流し読みどころではなくなってしまったわけですが……


 しょっぱなから本の内容に凹まされた――そう言い換えてもいい。


 思わず本をひっくり返し、背表紙に書かれた『系統によるスキル特性の違い』というタイトルを見て、深く溜息を吐く。



 ◆戦闘・戦術系統スキル


 習熟速度:△


 上昇恩恵:〇


 事前知識:×


 即効性:◎


 反復行動により緩やかな速度で経験は積みあがっていき、自然スキル習得、レベル上昇へと至る。

 事前知識を必要としないものが多く、取得後すぐにその技能を活かせる場面は多い。



 ◆魔法系統スキル


 習熟速度:×


 上昇恩恵:〇


 事前知識:◎


 即効性:△


 自然スキル取得までの難易度が非常に高く、前提となる知識と多くの反復行動が必要不可欠になる。

 その分スキル取得、レベル上昇した時の恩恵はスキル系統の中でもトップクラスだが、すぐに活かせるかも術者の知識次第で扱いが難しい。



 ◆ジョブ系統スキル


 習熟速度:〇


 上昇恩恵:△


 事前知識:◎


 即効性:×


 仕事に結びつく専門技能の系統が多く、必然的に反復行動に繋がりやすいため、自然スキル取得までの道のりは最も手軽で身近。

 しかしスキル取得、レベル上昇による恩恵は大きいものではなく、今まで培った知識と経験をスキルが補助、増幅させる傾向が強い。



 ◆生活系統スキル


 習熟速度:△


 上昇恩恵:〇


 事前知識:×


 即効性:◎


 生活系統スキルも日々の生活の中でとる行動がそのまま経験に繋がるが、スキル取得に至るまでの速度はジョブ系統に比べると遅い。

 反面得られれば感覚で効果を得られるものが多く、かつ前提となる知識も大半が不要であるため、得られればすぐに活用できるものが多い。



 ◆純パッシブ系統スキル


 習熟速度:〇


 上昇恩恵:△


 事前知識:×


 即効性:◎


 生活系統スキルに近いが、スキル取得、レベル上昇の恩恵を肌身で感じることは難しい。

 また自然スキル取得までの道のりは早いものの、痛みや苦痛を伴って得られるものも多いため、習熟速度については賛否が分かれるだろう。



 ◆その他/特殊


 習熟速度:不可


 上昇恩恵:〇


 事前知識:〇


 即効性:◎


『天啓』による職業専用スキルになるため、そもそも自然取得は不可能。

 ただし得られればそこまでの知識を必要とすることなく、大きな能力をすぐに活用できる事例は多い。



 そしてこれら大枠となる傾向の他に、個々人の『顕在的才能』と『潜在的才能』が存在し、それぞれのスキル成長を促進、もしくは望まぬ抑制に働くこともあるという。


 ここでいう『顕在的才能』というのは、それこそ身近なところで言えばエニーや、小さいころから腕力は強かったというポッタ君のような存在だろう。


 幼い頃からスキルレベルという数値で才能が表面化しているタイプもいれば、成長速度という面で伸びが人よりも早い早熟型もいたりするらしい。


 そして才能とは逆――要は隠れた苦手要素があり、いくら努力を積み重ねても成長が著しく遅い。


 こんなパターンも珍しくないとこの本には記載されていた。


 まぁ地球にいた頃もよく耳にした話だし、自分自身に当てはめても【算術】は得意だけど【暗記】はちょっとなぁ……と想像できるので、さして難しい話ではない。


 しかしこれで少々厄介というか、秘密基地計画の障害になるであろう問題点がはっきりしてしまった。



(ジョブ系統スキルがキツいなぁ……)



 これを俺が使いこなすのはかなり厳しいだろう。


 なんせ俺には農耕やら畜産など、専門技能と呼べるような知識がほぼと言っていいほど無い。


 まだ多少あると言えるのは、【話術】や【交渉】といった営業時代に培った知識や経験くらいで、この本の通り元からある知識を広げて現実に反映させていくのがジョブ系統スキルであるならば、知識0になんぼ掛け算したって0のまま。


 結局使えませんってことで終わってしまう。


 現に元々農業やってた人が多かったんだろうな。


 山賊連中を壊滅させたことで、俺は【農耕】がスキルレベル6になっているが、想像しても農耕に関する知識が湧き上がることは何もない。


【建築】のスキル持ってたら自然と家が建つとか、【酒造】を覚えたらなんとなくお酒ができてしまうとか――そんな甘いことを考えていたけど、どうやらこの異世界はそんな温い仕様にはなっていないようでかなり残念な結果である。


 まぁスキル別に細分化された評価もそれなりの数が載っていたので、この本から得られた知識はかなり多かったと思うけどね。




 そして次に手に取ったのは、表表紙に『知られざる魔法技能』と書かれた一番薄い本。


 これも勉強になるというか、こちらは単純に読んでいて面白かった。



 スキル名:【発動待機】



 敢えてスキル発動可能状態から我慢することで取得できるスキル。


 期待できる効果は対人でのタイミングずらしが主で、本命の攻撃を当てるために防御系統魔法を空振りさせる。


 あとは『旧型詠唱』と『新型詠唱』のズレを無くすために使用することもあるらしい。


 ここで一旦俺は「は?」となったが、落ち着いて読めば十分中身を理解できる内容だった。


 旧型詠唱とは今俺が実践しているような詠唱法で、独自に言葉を紡ぎ、精霊に魔力という餌を渡して発動させる"独自魔法"。


 こちらは魔力の操作や使用魔力、そして一番大事らしい"発現イメージ"が人によってブレるため、個々が放つ強い魔法には適しているも、集団戦闘の場面では不向きという歴史があった。


 そこで新しく登場したのが新型詠唱というもので、全員がまったく同じ詠唱を唱え、発動後のイメージを強くもてなくても、同じ事象を同等レベルの魔力消費で行うというもの。


 これによって集団戦――それこそばあさんのような宮廷魔導士とかが、団体で足並み揃えながら一斉に魔法を放てば、大きな相乗効果を生み出すことができると記載されていた。


 難点は誰でも同じような発現結果にもっていくため、どうしても詠唱文言が長くなることらしいが、現代では誰でも使えるという意味でこちらがメジャー。


 B級昇格試験で戦った派手なパンツのラランさんがやたら詠唱が長かったのも、前にメイちゃんが俺の詠唱変とか言っていたのも、こういう理由だったのねってことがようやく理解できたわけだ。


 逆の立場――要は俺だけ詠唱長くて困ってるなら早めに問題解決しようと動いたんだろうが、別に短く使えてるならいいじゃんねっていう、そんな結論になってすっかりこのことを忘れてたわ。



 そしてそして。


【発動待機】が相応のレベルまで到達すると、【多重発動】という境地に達することもできるらしい。


 相応のレベルってなんぼやって疑問はあるけど、まぁそこは具体的な数字が書かれていないのでしょうがない。


 そんなことよりも【多重発動】だ。


 なんてロマンのある言葉――何個同時に発動できるのか知らんが、たぶんこれもスキルレベルによって変わってくるのだろう。


 おまけに。


 ここで終わらず、さらに上のスキルもあるらしい。



 スキル名:【合成魔法】



【多重発動】使用者は実際にいたらしいが、【合成魔法】使用者はこの本の情報元となった金板書『リグラム』が作られた古代でもいなかったらしく、じゃあ当時どのようにしてこのスキルの存在を知り得たのかって疑問は残るが……


 もうワクワクしすぎて、分厚く一番どうでもよさそうな本。


『ラグリース王国の歴史と展望』なんて読む気が無くなるレベルである。



(はぁはぁはぁ……ワイ、いつか【多重発動】しまくって、それ全部【合成魔法】にして「あれれ、もうその魔法って実は宇宙コスモじゃない?」みたいな凄いヤツ撃っちゃうんだから……)



 そんな妄想をモクモクと頭の中で湧き立たせながら、攻略本を枕元に俺は心地良い眠りにつくのだった。

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