第136話 弁解

 実に、嫌な記憶だ。


 俺は手足を大きく広げ、壁を背に立たされていた。


 前には数名の同級生と、俺からすれば見知らぬ数名の後輩。


 野球部員だった彼らはコントロールの練習だと、なぜか俺を的にして硬球のボールを投げる。


 恐怖で先に身体が動けば、寄ってたかって殴られ、蹴られた。


 だから俺は目を瞑り、必死に自分に当たらないことを祈った。


 だが彼らにとっては俺にボールを当てることが目的で、腐っても野球部員で――


 当たって痛みにうずくまれば、必ず言われたのは無情な『』という言葉だった。



 実に――嫌な記憶だ。


 山ほどある、忘れることのできない記憶の一つ。



 なぜ、異世界に飛ばされた今、こんなことを思い出すのだろうか?





 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽





 頭を撫でられる感触と、優しい花のような匂いに誘われ、俺の瞼はゆっくり開くも視界は遮られている。


(ここは……どこだろう?)


 そう思って僅かに身じろぐと、その動きに気付いたのか、上から声が降りかかってきた。


「気付きましたか~?」


「その声は、フィーリル?」


「そうですよぉ~」


 背中に回された手から、現在俺はフィーリルに抱き抱えられていることが分かる。


 そして、""を思い出し、思わず身体がビクッと震え上がってしまった。


 鼻先が目の前にあるフィーリルの胸を突いてしまうが、今はそれを喜ぶ余裕もない。


「ご、ごめん……なさい……」


「もう大丈夫ですよ~大丈夫ですからね~」


 優しい声で、優しい手つきで、抱えられながら頭を撫でられ、次第に俺の恐怖心は薄らいでいくのが分かる。


「あっ、そういえば傷……俺のお腹……」


 最後に何をされたのかはよく分かっていない。


 でもあの腕の血を見ると、俺のお腹は大変なことになっているんじゃないかと、今は痛みを感じない腹部を自ら摩る。


(鎧に穴開いてる……マジかよ……)


 その穴は指で刺したような可愛らしいものではなく、もっと大きな、それこそ腕で貫いたような大きさになっていた。


「傷、治してくれたの?」


「はい~身体はもう綺麗にしてありますよ~傷も残っていませんから安心してください~」


「そっか……ありがとね」


「問題はあの大馬鹿のせいですから~こちらこそ謝罪しなければなりません~」


 なんとものんびりした口調のため、謝罪とは言うもののそんな雰囲気になっておらず、思わずクスッときてしまった。


「フィーリルが悪いわけじゃなんだから気にしないでよ。それより状況を教えてもらえる?」


「もちろんです~」



 そこから聞いた話は、なんとも反応に困る内容だった。


 焦った様子でリガル様の本体が「やり過ぎてしまった」と騒ぎ出し、かと言って当人は治癒が苦手だったため、リガル様の【分体】をポイントに治癒の得意なフィーリルが降臨。


 とりあえずの応急処置をしたのち、様子を見るため留まっているのがこの状況らしい。


 そしてリガル様はというと、現在神界で他の女神様達からお説教を通り越し、ボコボコにされている真っ最中だという。


 特にフェリンと寝たきりなのに這ってでも殺しにかかるリステ、あとはなぜかアリシア様が猛威を振るっており、今は魂だけであっても近づかない方がいいとのこと。


 正直俺もリガル様に会いたいとは思わないので、それはそれで問題無いのだが―――



「ちゃんと謝罪をさせますので~お手数ですが今日の夕方頃にでも教会に行ってもらえませんか~?」



 この言葉に、俺はどうしたものかと頭を悩ませた。


 怖い、また会ったら殺されそうになるんじゃないか。


 こんな思いばかりが押し寄せてくる。


 できれば勘弁してほしい、それが俺の率直な気持ちだ。


 だがそれを察したのか、フィーリルが優しい口調で呟いた。



「もうリガルが暴走することはありません~それにどうやらロキ君のためを思って今回の行動に出たようですよ~? やり過ぎに違いはありませんけどね~」



 俺のためを思って?


 どこら辺が?


 そんな話を聞いても首を捻るばかりだ。


 特に最後の一撃なんて、完全に殺しにかかっているとしか思えない。


 だからか、あの行動にいったいどんな意味があるのか。


 あるなら聞いてみたい、そんな気持ちも湧き上がってくる。


「それ、例えば【神通】じゃダメなんだよね?」


「その程度の時間で事情説明と謝罪ができるとは思えませんし~かと言ってリガル一人をまた降ろしてもロキ君が不安でしょう~? 神界なら他の皆がいますから~」


「そっか……」


【神通】じゃたったの2分だ。


 たしかにそれで俺が納得できるとは思えないし、一人リガル様が目の前に現れても今は無理。


 話を聞くなんて状況にもなれず、他の女神様に助けを求めようとしてしまう。


 なら神界に行くのが一番早いか……このままってのもマズいだろうしなぁ。



「はぁ~分かったよ。それじゃ夕方、混んでそうだけど教会に行ってみる」



 こうして、リガル様がどのような言い訳を繰り広げるのか、その確認のため俺は再度神界へ行くこととなった。





 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽





 時刻は夕方。


 町の人達に場所を聞きながら、俺はマルタのやや南に位置する、リガル様とリアの神像が置かれた教会へ訪れた。


 先日足を運んだリステとフェリンの教会と同じ作り。


 それなら内部も一緒だろうと、やや重い足取りで中へ入る。


 そして案内されるまでもなく、左に位置するリガル様の像――


 それとは逆の、リアの像へと向かっていく。



(フィーリルが言っていた通りか。リガル様の方は並んでいるのに、リアの方はガラッガラ。なんとも可哀想に思えてくるな)



 罪の女神ということもあり、リアに祈りを捧げるのは罪の意識がある者。


 その懺悔の場として使われることが多いらしく、人も少なく祈りが長くても咎められない。


 魂を呼び出すのにうってつけなのが、リアの神像ということだった。


 言い換えれば俺が罪の意識を抱えている、懺悔しに来ているということになるわけだが、まぁそこまで町に長居するわけでもないし、今は他の人に迷惑を掛けなければそれでいいだろう。


 別々に分かれた円の中に入って跪き、この場合誰に声を掛ければいいんだ? と悩みながらも心の中で呟く。



(えーと、リアの神像の前にいるよ。誰かお願いします)



 すると毎度の流れのように、聞きなれた声を耳が拾う。


「度々になってしまいすみません」


「ロキ君! 本当にこの馬鹿がごめん!」


「ご……迷惑……を……」


 その言葉を聞きながら目を開ければ、そこにはなんというか。


 言葉では表しきれない、大変シュールな光景が広がっていた。



 まず今回の当事者であるリガル様は、中央で尻を高く上げ、地面に額を付けて跪いていた。


 両手は後手に縛られているし、もう罪人にしか見えない姿に成り果てている。


 そしてその横で、リガル様の肩の辺りを踏みつけ、起き上がれないようにしているフェリン。


 まずこの時点でビビるのに、あの可愛かったお顔は眉間に深く皺が寄り、まるで般若のような形相が一層恐怖をそそる。


 早く元の可愛いフェリンに戻ってほしい。



 そしてその反対側には、なぜか布団を敷いて寝ているリステがいた。


 具合が悪いのは分かるが、なぜそこにわざわざ布団を敷いているのだろうか。


 そしてその布団はどこから持ってきたのだろうか。


 非常に疑問が残る光景だ。



 最後に、リガル様の後ろで仁王立ちしているアリシア様。


 表情は普通だが、なぜかその手には鞭にしか見えないモノが握られていた。


 どう考えても、構図的にリガル様の尻をソレで叩いていたようにしか見えない。



(なんだこれ?)



 口にはしないものの、真っ先に出てきたのはこの言葉だった。



「え、えと……とりあえず来ました……」


「今回の件、本当にすみませんでした。まずは代表して私から謝罪させていただきます」


 そう言って深々と頭を下げるアリシア様に恐縮しつつも、いつもと違う状況に思わず確認してしまう。


「いえいえ、アリシア様が何かしたわけじゃありませんし。それより、ここに4人いますけど大丈夫なんですか?」


 いつもは3人がここに、残りの3人が結界やら遅延の魔法やらを唱えていたはずだ。


「今回は緊急事態ですし、リアとフィーリルが頑張ってくれていますから、ロキ君は気にされなくて大丈夫ですよ」


「そ、そですか……」


「リガル。まずは顔を上げなさい。その上でしっかりと謝罪するのです」



 この時、アリシア様が鞭らしきものを持っていることからも、フィーリルの言っていたボコボコとは、今見えているような女神様達の怒る雰囲気を表したものとばかり思っていた。


 表現の一つというかなんというか。


 だが、顔を上げたリガル様を見て、思わず「うっ」と言葉が漏れてしまう。



(これ、ガチのボコボコじゃん……昔の俺かよ……)



 腫れていないのは額だけ? というくらいに各所が赤く膨れ上がっており、ここまでくると視界が確保できているのかも怪しい。

 おまけに現在進行形で鼻や口から血を垂れ流していて、あの美貌の面影は欠片も無くなってしまっている。


「ほ、本当にずまなかっだ……ゆる……許じで、ほじい……」


 ゴツッ!


「許してくださいでしょ!」


(ヒーッ!!)


「ゆ、許じでぐだざい……ずびばぜんでじだ……」


「ちょ……」


「ロキ君、今回の件は私達なりにこのような形で制裁を加えました。加えて魔法での回復は許さず、自然回復に任せた上でこのまま下界の転移者探しをさせます。もちろん傷を隠すことも許しません。なので――なんとか収めていただけませんか?」


「は……はへ? えーとこれは――収める以前にちょっとやり過ぎでは……?」


「何言ってるの! ロキ君はお腹に穴開けられて殺されかけたんだよ!? フィーリルがいなきゃ死んじゃってたんだからね!?」


「えっ……まぁそうかもしれないんだけど、それでも見るに堪えないというかなんというか……」


「ロキ……君……ここ……で…やさし……さは…不要……ですよ……」


「えぇ……」


 やべぇ。


 みんな怖過ぎるんだが?


 リステなんて目が血走っていて、そのまま光線が飛んできそうな雰囲気だ。


 このままでは女神様達を見る目が変わってしまう……


 ――だが落ち着け、落ち着くんだ俺。


 これは俺が死にかけたから皆がやってくれたこと。


 つまり被害者である俺の意見が尊重されて然るべき、だよな?


 なんで俺がフォローしてやらなきゃならんとは思いながらも、それでもこの痛々しさは直視できないし、そもそもそんなことが目的でもないのだから、ここは無理やりにでも俺の言い分を通させてもらうとしよう。


「確認ですけど、リガル様のこの惨状は俺が殺されかけたから、だから皆さんがその制裁としてやってくれた。これで合ってますか?」


「間違いありません。何か悪事を働いたわけでもないのに、模擬戦と称してロキ君を殺しかけた。というよりそれは結果であって、リガルは一度ロキ君を殺しています。だからこその制裁です」


「え……あっ、と……分かりました。それについてはお礼を言わせてください。わざわざ俺のためにありがとうございます」


「そう言っていただけて良かったです。ではこのまま予定通り、治癒をせずにその傷を背負って下界の子達の前に姿を晒す。これでいいですか?」


「というかロキ君! 様なんてつける必要ないんだからね! こんなの『馬鹿』でいいよ! 『馬鹿』で!」


「フェリ…ンの……言う……とお……りで…す……」


「フェ、フェリンはとりあえず落ち着いて。あとリステはつらそうだし、無理にしゃべらなくていいからね?」


 あかん。


 どう見ても感情的になっている横の二人が会話に混ざると、話が余計にややこしくなる。


 今日だけは物凄いリーダー感を出しているアリシア様と会話をした方が良さそうだ。


 それにしても一度死んだって……マジで? まったく実感が無いんだが?


「えーと、大前提としてですね、俺がここに来た理由はリガル様の惨状を見るためではありません。なぜあのような行動を取ったのか、その理由が知りたくて来ています」


「それですが―――」


「アリシア様。それをできればリガル様本人の口から聞きたいんです。でないと、俺はリガル様をこの先ずっと許すこともできそうにありませんから」


「当然だよ! 殺そうとした相手を許すなんておかしいよ!」


「フェリン!……本当にそれで良いの? 許さなかった場合、俺は神界になんてまず来ないよ? 許さない相手がいるんだから。それに女神様達同士の関係はどうなるの?」


「うぅ……」


「理由次第なんだよ。ただ悪意があってということなら、いくら理由を聞こうが絶対許す気になんてなれない。でもフィーリルは結果的にやり過ぎたにしろ、俺のためを思ってと言っていた。だからそれがどんな理由なのか聞きたいんだ」


「分かりました。ではリガル。私達に話した断片的なものではなく、詳しい内容をロキ君に説明してください」


「あーその前に、できればリガル様の口回りだけでもいいんで治してあげてくれませんか? 正直言葉が聞き取りづらいんですよ」


「……たしかにそうですね。では止むを得ません。ロキ君が納得されなかったならば、また新たに傷を作るとしましょう」



(マジで怖ぇ……)



 その後、アリシア様が部分的な治癒を施した上でリガル様が語り始めた。


「ロキ……本当に済まなかった。当初はこんなことをするつもりでは無かったのだ……」


「雰囲気が変わったのは、リガル様が攻撃に入るタイミングになってから。そうですよね?」


 それまでは俺がイメージする模擬戦そのもので、技を披露し、その経過や結果について語って――


 リガル様のテンションが高かったなと感じたくらいで、至って普通の状態だったように思える。


「その通りだ。私は――戦の女神とは言うも、実際に戦ったことは無い。だから、ロキとの闘いが楽しくてしょうがなかった。今までハンター達の記憶から戦いを想像していただけの私にとって、懐かしい詠唱の仕方、見慣れぬ魔力の使い方、それらを駆使して……その小さいなりで果敢に私へ挑んでくれることに、今までにない喜びを感じてしまった……」


「……」


 戦ったことのない『』、か……


 まぁその事情はなんとなく分かる。


 神界から出られない生活を送っていたなら、戦いたくてもその相手がいなかったということだろう。


 話の内容からすれば、規則なのかやる気の問題なのか、他の女神様達とも戦うことが無かったということになる。


 それで下界への接触も禁止されていたとなれば、今まで覗いてきただけの想像、妄想が実現した俺との模擬戦は、リガル様にとって新鮮で楽しかったというのも頷ける。


「だから、私は思ったのだ。やっと戦える相手を、僅か数ヵ月でここまで成長したロキを失いたくない、と」


 ……ならば、どうして俺を殺すことになる?


 結局は首を傾げてしまうけど、ヘタに話の腰を折るよりは、このままリガル様に話してもらった方が内容を掴めそうな気がして聞くことに徹する。


「この世界はロキが思っている以上に非情だ……ハンターにしても、魔物に殺されたとなればまだ納得もできるだろう。だが実際は理不尽な力や権力によって殺される者は多い。記憶を探ればそのような者など掃いて捨てるほど出てくる。そして、ロキは人が良過ぎるのだ……だからこのままではいずれ、そのような力に巻き込まれて死んでしまうと私は思ってしまった」


 ここでやっと、「なるほど」と思った。


 話の筋が少し見えてきたと言ってもいい。


 リガル様がおかしくなってから、まるで俺に何かをするように語りかけていた。


 恐怖でそれどころではなかったが、思い返せば自らの身を守るための精神論を説いていたような気がする。


「魔物からスキルを得られる能力のせいなのか、それともただの好みなのかは分からない。だが、ずっと一人で行動していることは私だって聞いている。それは何かあった時、誰も守ってくれる者がいないということだろう……? 私が常にロキと行動を共にできるならそれが一番だが、それだって現状の転移者問題を抱えている中では難しいし――」


 ここでチラリと、リガル様はやや般若の顔が崩れて困惑しているフェリンの顔を見上げた。


 まぁ、俺の分かる範囲の神界ルールに照らし合わせれば難しいだろうな。


 先ほどは緊急事態ということもあって、一時的に二人が下界にいたっぽいけど……基本は俺の監視という名目で一人だけ。


 皆が下界に降りられるなら降りたいのだろうし、その中でリガル様だけという案を他の女神様達が許すとは思えない。


 下界を巡る旅に出たいと言ったフェリンの案だって、通っていないっぽいしね。


 リステなんて、「そんなこと許さねぇよ」と言わんばかりに、また目が血走っている。


「だから……私なりに教えたかったのだ。いくら多少強くなったとは言え、ハンター達の取得スキルやそのレベルから、ロキより明らかに強い者なぞこの世界にはごまんといるだろう。武力でなくても、権力で法を捻じ曲げるやつだっているはずだ。簡単に屈しないように、少しでも心が強くなるように、最後の最後まで足掻いて好転の目を掴めるように――私は、そう思って……」


 

 ふぅ――……



 思わず俺は、神界に広がる白い空を見上げた。


 ある程度のことは理解できた。


 俺のためにしてくれたこと、それは間違っていないだろう。


 まるで軍隊、鬼軍曹といった様相だったが、この世界で温く活動してきた俺にとっては、今の話を聞けば確かにプラスだったのかなと思える部分もある。


 簡単に屈する、謝罪の言葉を口にしたところで、相手によってはそこから一方的な蹂躙に変わるだけ。


 それは地球でも、山ほど味わってきたことだ。


 ただ思い出したくないからその反省を活かそうとすることもなかったし、何かあればとりあえず「すみません」「ごめんなさい」と。


 まるで口癖のように謝る日本人的な性質が、社会人になってからは何かと都合が良くもあった。


 それが自然と身体に染みついてしまっていた。


 別に悪いことではないと思うけど、そこは相手に合わせて、か……



「最後の……アレはどんな意味があったんですか?」



 ここまでのことは分かった。


 理解もできた。


 だが、今だに謎なのは最後の最後。


 俺の腹に穴を開けたあの行動だ。


 実際にあれで俺は死んだのか? 死にかけたのか?


 そこはよく分からないが、危うく天に召されるところだったわけだし、あとはここにどんな理由があったのか。


 ある程度納得できただけに、その答えが聞きたくてしょうがない。



「あ、あれは……あれは――……」



 だが、俺のこの質問に、明らかにリガル様は狼狽えた。


 その表情で、おおよそ答えも分かってしまった。



 ――ピシッ!!



「リガル。答えなさい」


「うぐぅ……」



(アリシア様、あなた、そんなキャラだったんですか……)



 人生初めて見る鞭使いの女王様に戦慄してしまうも、効果はあったようでリガル様の口が開く。


「あれだけは、弁明のしようもない……もう何も無いだろうと思った上での予想外の反撃。油断していたとはいえ私の指が折れた時、余りの興奮に我を忘れてしまった……【手加減】があれば大丈夫だろうと、勢いのままに全力を振るってしまっていた……」


「……」


 どうすんだよコレ。


 ここまでが理解できていただけに、物凄く返答に困る内容だ。


 頭をポリポリと掻きながら、アリシア女王様に答えを求める。


「あの、【手加減】ってスキルは、文字通り手加減してスキルなんですよね?」


「一応はそうなります。ただ致命傷となる攻撃を加えれば瀕死になるわけですから、そのまま治療も施さずに放置すれば結局死んでしまうでしょう」


「つまり攻撃を加えたその時だけは、とりあえず死なないスキルってことですか?」


「その表現が一番合っていると思います。そしてリガルは馬鹿なことに放置しました」


「違っ……私だって治療を施そうとしたのだ! ただ【分体】であることを忘れていて、いくらやっても魔法が発動しなくて……すぐ神界に戻って【回復魔法】を持ち込んだ時には、もう……」


「だから『鹿』なんだよ! そんなお腹を貫通しているような傷、【回復魔法】で治るわけないじゃん! せめてそこは【神聖魔法】でしょ!」



 ボゴッ!



「ひぎっ!」


「そもそもとして、本来祈祷用などに残すべき【分体】を全て消し、なぜロキ君の力を見るための模擬戦に、本体の半分の能力を有する【分体】で挑んだのかも疑問ですしね」



 ピシャッ!!



「はぐっ!」


「ロキ…君…が……亡くな…った……ことを……最初……隠し…ましたね……フィー…リル……が死ん……でます…と……泣い……てま…したか…ら」



 ボギッ!!


「うがぁあああ!」



 色々と……酷い……


 これがボコボコということだな、と。


 一目で分かるほど容赦のない攻撃が浴びせられている。


 特にリステは、その金属製の棒をどこから出したのだ……



「ふぅ……ふぅ……とりあえずこんなものでいいでしょう。―――それでロキ君、リガルの処罰はどうしますか?」



 そう問いかけられると困ってしまうも、今の状況を鑑みるに、こう答えとくのが正解かな? と。


 なんとなくそう思った。


 だから軽い気持ちで答えておいた。




「ギルティで」 

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