第97話 三度の土下座
「どうだった?」
「ダメ~入れた小石どっかいっちゃったよ」
「そっかーまぁしょうがないね」
俺達の試した収納実験は失敗に終わった。
何か消失しても問題無い物をと、宿屋の入り口にあった小石を拾い、それをフェリンの【分体】が【空間魔法】を使用して収納。
その小石を再度出すことは問題無かったものの、収納したまま【分体】を消したらその小石はどっかにいったという残念な報告を聞くことになった。
「たぶん一度【分体】を消しちゃうと、亜空間との接続が切れちゃうんだろうね!」
「現象だけ見ればそうなんだろうなぁ。その亜空間を後から探し出すことは無理なわけでしょ?」
「無理無理! 無限にあるような世界だもん。できるとしたらフェルザ様くらいじゃないかな? 分からないけど!」
フェルザ様ハンパ無さ過ぎるんだが……
マジでなんでもありかよって思うけど、よく考えたら下級神を生み出すくらいなんだから、本当になんでも実現可能な気がしてしまう。
「となるとしょうがないか。幸い私物の特大籠があるから、スーツにでも包んで他の荷物と一緒に運ぶことにするよ」
「ごめんねぇ」
「いやいや、フェリンが気にすることじゃないよ? それに――」
言いながら視線を向けた先には、リアとフィーリルのサンダルが仲良く鎮座しておられる。
「あっ……あれも、それに私が買ってもらった靴も運ぶんだ……」
「どうなるのかな。一応さ、他の女神様達が今後パルメラを重点的に調べるか確認してもらってもいい? もし必要なら、ここの部屋の代金を数年分先に払っておいて、女神様達の拠点にすることもできるし」
「数年分!? ロキ君そんなお金持ちなの!?」
「へっへー凄いだろ!」
金銭感覚の無いフェリンに自慢してもしょうがないが、1泊3000ビーケなら数年分くらい先に払う程度は問題無い。
というかそんな先々まで払うなら、空き屋でも借りるか買った方が良い気もする。
女神様達は全員超絶美形なんだから、おっさん達も泊まるような場所に滞在させるのは少し心配だ。
まぁおっさん達がだが。
「そっかそうだよね。私は世界を見て回ろうかと思ってたけど、今回見つけた場所周辺を探した方が転移者は見つけやすそうだし……分かった確認してみるよ!」
「うんうん。今思ったけど宿屋じゃ人目もあるし、もしここで活動するなら女神様達専用の一軒屋を借りるか買うかすることも考えるからさ」
「ひゃー! それなら急いだ方が良いよね! ちょっと待ってて今確認してみるから!」
そう言うと、フェリンの【分体】はベッドに座ったままピタッと動きが止まり、まるで人形のようになってしまった。
意識を完全に本体へもっていってるんだろうか?
これならイタズラし放題な気もするが――
いかん、ちょっとハァハァしてきてしまった。これはマズい。
まさに俺だけが動ける「時よ止まれ」状態、男なら奮い立たないやつの方が変人というくらいの状況である。
視点が定まってなさそうな顔の前で手をフリフリしても反応無いし……
となると、触ったらさすがに気付かれるよね?
でもでも。
せめて背後から匂いを嗅ぐくらいなら……フェリンの匂い落ち着くし……気を沈めるためにもなんかやっておいた方が良い気がするし……
フラフラと、自然とフェリンの背後に忍び寄る俺。
誰がどう見ても変態なんだが止まらない、止められない。
ショートカットだからこそ見える艶めかしく細い首筋に吸い寄せられてしまう。
(大変申し訳ございません)
そう心の中で呟きながら、大きく深呼吸。
「何してるの?」
「ふぁぶらぁあ!!?」
いきなり顔がグルンと後方へ振り返ったため、驚きのあまり吸い込んだ空気が全て勢いよく出ていってしまった!
ちょっと待て!
まだ全然味わってない!
って違うわ!
どう釈明すればいいんだ!?
「……」
俺を見つめる冷ややかな視線が、自然と足を正座にさせ、そのまま淀みなく土下座へと移行する。
なぜか女神様全員に土下座している気がするけど、今回ばかりは俺が悪い。
「違うんです! フェリンの匂いが好きなので、ちょっと充電しておこうかとっ!!」
全然釈明になっていない。
全力で変態アピールしているだけだが、本音なんだからしょうがない。
「……」
「もうしません! 許してください!」
「べ、別に……とは……ないし……」
「……?」
聞き取れなくて思わず顔を上げると、フェリンに怒りの表情は見られなかった。
というか、真っ赤な顔して目が回遊魚並みに泳いでいた。
「別に! しちゃいけないとは言ってないしっ!!」
「と、ということは……していいんですかッ!?」
「ちょっとそんな興奮しないでよ! なんか敬語に戻ってるし!」
「あ、あぁごめんごめん。嬉しさが限界を超えてしまって……」
「そのうち。そのうちね!」
「そのうち!? でもありがとうございます! それを励みに僕は頑張る所存です!!」
そのうちでもなんでもいい。
いずれにしても、許可を頂けたことに意味がある。
ふふふふ……可愛いに極振りしたフェリンをスーハーできる許可、もとい権利なんて金で買えるもんじゃないんだぜ……?
「ちょっとロキ君! 現実世界に戻ってきて!」
「あっ、はい失礼しました」
「それでね、拠点なんだけどロキ君のお金勿体ないし大丈夫だってさ。痕跡が多く見つかれば、パルメラの中に自分達で拠点作るって」
「うわーさすが女神様達らしい発想だなぁ」
「拠点って言っても靴置き場みたいなものだしね!」
そう言われてみればそうである。
女神様達の私物なんて靴しかないので、宿を借りようが一軒家を借りようが、置かれる物は各人の靴だけ。
たしかにそれで数百万ビーケ払うのは勿体ない。
「だからロキ君が心配することはないかな? 私はなんで旅するんだって質問責めにあっちゃったけど……」
「あぁ……それでちょっと時間かかってたのね」
「うん。でも大丈夫だよ! 食糧調査って言っておいたからさ!」
正直に言えば、本当に大丈夫だったのか? と少し不安になる。
なんせフェリンだ。
説明があまり上手いとは思えない。
まぁリアにさえバレなければとりあえず問題無いし……
最悪バレたらバレたで、俺が全力で止めるしかないだろうな。
なんせ一度俺の身体に、関係無い人を巻き込んでまで神罰落とそうとしたくらいなんだ。
それで俺が暴走したんだから、多少は説得力もあるはず。
そしてそれでももし止まらなかったら、調子に乗った転生者はもう乙としか言えない。
おまけで俺の未来も乙――とまではいかないが、そうなるともう調子には乗れないので、ひたすらこの世界で定められている法とは別に、超健全な生活を余儀なくされる。
まぁリアから罪には相応の罰が許可されているので、自ら罪を振り撒かなければそこまで心配する必要は無いのかもしれないけどね。
となると今やるべきことは、とりあえずこれで終わりかな?
そう思って腕時計を見れば時刻は既に16時過ぎ。
なんとも中途半端な時間だ。
ならば――色々頑張ってくれたフェリンに俺が勇気を出す場面だろう。
深呼吸一つ、覚悟を決める。
「ねぇフェリン、もう16時過ぎてるし、今からパルメラ行っても中途半端でしょ?」
「そうだね~暗くなると【分体】じゃ何もできないからね」
「ならさ。もう雨上がってたし、ご褒美って話もあったし……今からデートする? ついでにどこかで夕飯食べるとか?」
他の女神様達には言えない、明らかな好意を感じるフェリンにだからこそできる提案。
内心断られたらどうしよう、勘違いだったらどうしようと心臓はバクバクだが――
「ほ、ほんとに!? やったーするするぅー!!」
目の前で喜んでくれているフェリンを見て、俺の口から安堵の溜め息が漏れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます