第44話 小悪党の結末
「こんな時間にいったい何の騒ぎだ?」
開口一番、そう言葉を発したギルドマスターのヤーゴフさんは俺に一瞥をくれると、そのまま馬鹿3人衆を睨みつけた。
(なんだ? どうもヤーゴフさんの3人に対する印象が悪いような気もするが……元から評判が良くないのか?)
「とりあえずここでは他のやつらに迷惑だ。ついてこい」
そう言ってヤーゴフさんは振り向きもせず奥へ歩いていくので俺がついていくと、さすがにギルドマスターの指示だからか3人衆も大人しくついていく。
その時なぜかアマンダさんも立ち上がりついてくるが……アマンダさんはアマンダカウンターだし、受付にいなくてもさほど業務に支障が無いのだろうと思うことにする。
一同は以前講習を受けた部屋の並びにある別の部屋へ。
そこは少し人数が多めの商談の場なのか、部屋の真ん中にはローテーブルと、その両脇にはそれぞれ3人掛け程度のソファー。
そして誕生日席のような場所に1脚の椅子が有る部屋で、ヤーゴフさんは誕生日席に座ったので俺もソファーへ腰を下ろす。
当然3人衆は向かいのソファーへ。
アマンダさんはてっきりヤーゴフさんの背後にでも立つのかと思ったら、なぜか俺の隣に座ったのでビビったが……
何か味方が増えた気がするので、何も言うことなく納得することにした。
「それで何をどう揉めているんだ? それぞれ事情を説明しろ。アデントのとこはリーダーが代表して話せ。説明している間は終わるまで誰も口を挟むなよ」
おぉ怖ぇ……
こりゃ嘘を一発で見抜きそうな眼だ。
自然と鳥肌が立ってしまうも、俺自身は嘘を吐く要素が何もないので、ただただ事実を淡々と話す。
そして3人衆は――気付いてないな。
そりゃ気付くわけも無いか。
嘘に塗れた自分達のご都合全開お花畑ストーリーを展開させ、アマンダさんは客観的に、受付嬢として俺からどういう相談を受けていたか。
そして今日の経緯をヤーゴフさんに説明していた。
「ふむ……まず前提として、ギルドはハンター同士の個人的な揉め事には基本関与しない。それは分かっているな?」
「はい。講習でそのように習いました」
「もちろん分かってるぜ?」
「だからギルドマスターとしてではなく、私の個人的な意見として言わせてもらうが――」
そう前置きをした上でヤーゴフさんは言葉を続ける。
「アデント。なぜロキに声を掛けた?」
「えっ? そりゃガキが一人でロッカー平原なんかにいるから、先輩として早いうちからパーティに入れてやろうって」
「それは先ほど聞いた。私が聞きたいのは建前ではなく本音だ」
「それは……まぁ一人にしちゃソコソコの素材集めてやがるし、うちのパーティに入れれば多少のプラスにはなるかなって……」
「おまえだってもう5年以上はハンターをやっているんだ。それが多少ではなく大幅な、ある意味不相応なほどの収入増になることも分かっていただろう?」
「ま、まぁ……」
「つまりロキの身の安全よりも自らの収入を目的にした。違うか?」
「ち、違う! 確かに収入も見越した勧誘だ。俺はパーティリーダーだからその辺りを考えるのも当然だと思っている! だが、ガキが死に急ぐことを防ごうとしたのは本当だ!」
「ならばなぜ、ロキが魔法で……石柱と言ったな? それで素材に触れられないと分かった時点で引き上げた? お前の言うお守りが本当なら、その場に残ってロキと一緒に魔物を狩るはずだろう?」
「そ、それは……一人でも倒せていたから良いかなって……こいつだって効率がどうのって言ってたし……」
「それではさっきと言っていることが違うだろう。死に急ぐことをまったく防ごうとしていない行動だ」
「……」
こりゃもうアデント君ダメだな……
ヤーゴフさんの簡単な理詰め攻撃でもう死にかけている。
そして次にヤーゴフさんは俺に向かって話しかけてきた。
「ロキが籠を石柱の上に置いて狩り始めたのはどうしてだ? 話せるならで構わないが」
「別に理由は問題ありませんよ。単純に素材の盗難防止と定点狩りがしたかったからです」
「定点狩り?」
「えーと……お伝えした通り僕は一人で狩っています。なので籠に素材を入れていけばどんどん重くなって動きにくくなるわけです。だから籠を置いて、手ぶらに近い形でその付近の魔物を狩っていくんですよ。それで素材が持てなくなれば籠の場所に戻って素材を籠の中にと……この繰り返しですね」
「ふむ……もしかしてパルメラの時も同じようなことをやっていたか?」
「そうですね。確か初日からやっていたと思いますよ」
「なるほどな。だから報告に上がってくる素材量が、常にロキの分だけズバ抜けていたわけか」
「まぁそれだけが理由でもないと思いますけどね。移動は可能な限り走っているので」
「そうか……で、アデントはその素材を奪おうとしたと」
「……え? い、いや違う、奪おうとはしていない! 俺達はこいつの籠に触れてもいないぞ!?」
急に話を振られたアデント君はテンパってるなぁ……
相手が俺に移ったと思って油断してただろコイツ。
「ロキは石柱に蹴られた跡が複数残っていたと言っているが? つまりロキが籠を置いて狩りに出ている間に、その石柱を倒そうとしたということだろう? 触れていないのではなく触れられなかった。違うか?」
「ち、違う違う!! 蹴った跡なんてこいつのデタラメだ!」
「ならばなぜ、先ほどは否定しなかった?」
「えっ?」
「私は先ほどおまえ達が
「……う……うぅ……」
ヤーゴフさんが怖いです……
このままじゃ宿屋のご飯が食べられなくなるので、早く宿に帰りたいです……
残りの二人も事態がマズい方向に流れていると気付いたのか。
顔面が真っ青になってきているが、もう時既に遅しだろうな。
「お、おかしいだろ!? さっきからなぜギルマスは調子に乗ったこんなガキの味方をする! そんなにこのガキが大事なのか!?」
「別に味方をしているわけではない。お前達の話、ロキの話、事前にロキから相談を受け、今日の事の成り行きも見ていたアマンダの話。それらを総合的に判断して話している」
「なんだよくそっ!!」
「それにな。人が死ぬ状況は極力作りたくない。うちのハンターだったやつらなら尚更だ」
「どういうことだよ……?」
「仮にだ。お前達がロキと敵対したらどうなると思う?」
「そりゃ……いざとなったらこっちは3人いるんだし、必要なら知り合いを集めて……」
「その結果、お前達は当然として、安易に巻き込まれたやつらも全員死ぬ。最悪のケースを想定すればだがな」
「冗談だろう? たかがガキ一人に……」
「だからお前達はFランク止まりなんだ。リスク回避がまるでなっていない。数倍ではきかない量の素材を一人で搔き集められるやつが、なぜ自分達より弱いと思える? その自信はどこから来る?」
「……」
「ロキが1日に持って帰る素材の量は異常だ。パーティならまだしも、一人でとなればこの町での新しい記録になることは間違いない。お前もハンターをやっているなら分かるだろう?」
「そりゃあ……」
「それだけの腕があるのか、機転の利く頭を持っているのか、特別な何かがあるのか――それはロキ本人にしか分からないし余計な詮索などご法度だ。だが、おまえ達はその
普通じゃないと言われるとグサッと来るけど、自分自身を普通ではないと思っているのでまったく否定もできない。
それにたぶん……ヤーゴフさんは俺が異世界人であることを警戒しているのだろう。
女神様が異世界人には特別にスキルを与えていると言っていたしね。
実際は異分子扱いでステータスが見られるだけなんて言ったら拍子抜けされそうだから、ここは黙って実は凄いかもしれないんだぞオーラを放っておこう。
ゴゴゴゴゴゴ……
「お、俺達は別に敵対しようとしているわけじゃ……」
「強引にパーティ勧誘し、失敗したとなればつけ狙って素材を奪おうとし、それも失敗すれば今度は無理やりな口実で1日の成果を奪おうとする。おまけに明日からも強制的にパーティに入れ、荷物持ちまでさせようとしたのだろう? これで敵対しないと思っているのはお前らくらいだろうな」
「……お、俺達はどうすれば……」
「そうっすよ……こんな大事になるなんて思ってなかったっす……」
「これからは真面目にやるからさ! 勘弁してくれねーか?」
俺はチラリとヤーゴフさんを見るも、彼は首を横に振った。
「残念だがお前達にこれからは無い。正確にはハンターとしてのこれからだな。人の素材を奪おうとしたんだ。ギルド規定によりお前達はハンターを永久除名となる」
「そ、そんなっ!! 実際に奪ったわけじゃないのにそりゃねーだろう!!」
「俺達は今回の件で一銭も得はしてねーぞ! 逆に無理してガキについていった分だけ損しているくらいだ!」
「今更他の仕事にはつけねーっすよ!?」
「実際に奪ったか奪っていないかではなく、奪おうとした行為そのものがハンターにとっては悪だ。そんな考えを持つ者をギルドに在籍させ続ける理由は無い」
「マジかよ……」
「奪えないままで済んだのはまだ幸いだったな。奪っていればハンターギルドの管轄から法の話に移るところだ。犯罪奴隷にならなかっただけマシだと思え」
「「「……」」」
「ロキ、これで良いか?」
そう聞いてくるヤーゴフさんを見て、心の底から思う。
敵にするとかなり面倒くさいだろうが、味方にすると心強過ぎる!
ありがとうヤーゴフさん。
そしてひたすらダンマリしているが、アマンダさんも横にいてもらえただけで心強かった……ありがとう!
だから俺の中でも今回の件、ちゃんと決着を付けよう。
「この程度じゃ全然ダメですね」
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