第41話 追跡者
朝、ベッドに腰かけながら俺は首を捻る。
昨日の急な倦怠感と眠気はなんだったのか?
起きてすぐに、どこか調子が悪いところはないかと確認してみたものの、疲労による身体の怠さが多少残っているくらいで、この感覚はいつもと大して変わらないことが分かる。
ん~昨日は【神通】スキルを使ってリステ様と話した後に、手帳を取ろうとベッドから立ち上がって――
その時、ふとベッドの脇に転がっていたショートソードが目に入った。
(まさか、これのせいか?)
すぐステータス画面を起動させると、現在の魔力は58/58(+14)となっており最大値まで回復している。
そして落ちているショートソードを拾い上げると108/108(+14)となる。
ここまでは問題無い。
逆に付与による魔力上昇が最低値だけではなく、すぐ使用できる魔力も上昇するところは親切なくらいだろう。
ただし、昨日のようにショートソードで無理やり使える魔力を上げてその魔力も消費し、その上でショートソードを手放したらどうなるか。
つまり魔力が
その結果が昨日の急激な倦怠感と眠気なのではないだろうか?
(今試すと1日潰れそうだからやりたくはないが……狩場でやらかしたらいきなり寝込んで死ぬパターンだなこれ……)
超あぶねぇ。
ロッカー平原では死なないだろうと思ってたけど、死ぬパターンあるし!
ワープしたようにいつの間にか朝になっていたことからも、俺は昨夜から冬眠のように深く眠り込んでいたことが予想される。
こんな状態でネズミに齧られたって、最低限魔力がマイナスを脱出するまでは起きない可能性もあるよなぁ……
付与分の魔力50はよほどの緊急時以外使わないようにしよう。
そう心に決めた俺は、顔を洗って朝食を摂り、お弁当を受け取ったらすぐにハンターギルドへと向かった。
すると珍しい光景が。
「おっ! 初の緊急依頼だ!」
籠を受け取る前に依頼ボードを確認した俺は、初の緊急依頼が出ていることに少し興奮してしまう。
常時討伐依頼の下にもう一枚の木板が掛けられており、ハンターの討伐数が増加しているため、ポイズンマウスが増殖している可能性がある。
よって一体辺りの討伐報酬を1200ビーケから1500ビーケに引き上げること。
終了時期は未定で、突発的に終わらせる可能性があるという旨が記載されている。
一応初めてなのでアマンダさんに内容を確認すると、そのまま木板に書かれている通りで、ハンターが1日で狩ってくるポイズンマウスの討伐総量が通常よりも多いらしく、まだ農作物に被害が出始めているわけではないが、早めに総数を減らす対策が取られたということらしい。
まさか俺が乱獲しているせいじゃないよね?とは思いながらも、報酬が増えることにこれっぽっちも文句無いしね。
わざわざ自分から言うことでもないので、とりあえずは黙っておこうと思います!
そんなこんなでロディさんのところで籠を受け取り、ベザートの北門出口へ。
習慣になってきた小型フランクフルトを2本購入して、ジョギングしながらロッカー平原へと向かった。
なぜかギルドからついてきている
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
ロッカー平原に入ってから奥へ奥へと、視界に入るポイズンマウス、【気配察知】で動きを感じたエアマンティスを狩りながら進んでいく。
最初のうちは籠も軽いから背負ったままで問題無い。
ひたすら走りながらの移動だ。
後方をチラリと見れば、既に疲れが見える足取りながらもまだついてこようとする三人組――アデント達を確認することができる。
「はぁ……」
最初に道案内替わりにストーカーしていたのは俺なので、あまりどうのこうのは言えないが……
それでも勘弁してくれとは思ってしまう。
移動狩りする姿を見られるのは良いとしても、石柱を作っての定点狩りはあまり見られたいと思わない。
それでも見られるくらいなら止めるという選択肢は無いので、ついてこられないようペースを上げながら、他のパーティがまず入り込まないエリアまで進んでいく。
(ハァ……ハァ……ただ……現実的には……無理だよねぇ……)
こちらは狩りをしながらの移動なのでどんどん籠の重量が増していく。
おまけに狩る度に解体して魔石やら討伐部位、素材の回収を行っているので、何もせずただついてくるだけの三人組を撒くなんてことができるわけもない。
それなりに慣れて体力もついてきたかなというくらいで、向こうだって現役のハンター達なのだから。
籠が3分の1以上になり、既に周りで狩るハンターが見られない辺りまで入ったところで、俺は諦めて足を止める。
というかこの重量ではもう走りながらの移動狩りはかなり厳しい。
「ハァ……ハァ……いつまで、ついてくるつもりですか……?」
「ぜはぁ……ふはぁ……な、なに勘違い……してやがんだよ……」
「そ、そうだぜ……ふぅ……ふぅ……俺達は……ただ狩場に移動している……だけだぜ……?」
「そう……そう……ウェッ……」
「ふぅ……そうですか。その狩場はまだ先ですか? それともこの辺りですか?」
「はぁ……はぁ……なんでそんなこと……お前に教えなくちゃ……ならないんだよ……」
「効率が悪くなるのだから当然でしょう? あなた方がこの辺りで狩るなら僕は移動しますし、もっと先に行かれるなら僕はこの辺りで狩りますし。どうなんです?」
「そ、そんなの……ふはぁ……気分次第ってなぁ……」
はぁ……ダメだなこりゃ。
ただ子供の身を案じてということなら、今までの移動狩りで一人でもやれることは充分理解したはずだ。
それでもついてくる上、目的が俺の付近にいることとなれば……もう嫌がらせしかないか。
でもわざわざ自らの報酬を減らしてまでやることなのだろうか?
彼らは今のところただついてくるだけで、1匹も魔物を倒した様子は無い。
それこそ彼らにとっては無駄過ぎる行動だ。
他に目的があるのかな……
まさか、散々倒した後に俺の籠を奪取……?
彼らを見れば背丈は170cm~180cmほど。
明らかに今の自分より頭一つ分以上は大きい。
無理やり奪おうと思えば3メートル近いところに籠を上げても、肩車なりして槍で突けば籠を落とせそうな気もしてしまうし、この中に【土魔法】取得者がいるだけで奪われる可能性が大きく上がる。
(もう1本追加で5メートル近くまでしたらなんとかなるか……?いやしかし、バランスが……)
不安は残るも、こんなどうしょうもないやつらに振り回されて効率を落とすのは御免だ。
その時ふと、先日の石柱作り。
そして昨夜のリステ様とのやり取りを思い出した。
俺は魔力消費『19』の石柱を2本重ねた。
ということはスキルレベル2の【土魔法】を2回行使して3メートルの石柱を作ったということだ。
しかし俺の【土魔法】は
つまりもう1段階上。
魔力消費『29』までの魔法が行使できるはずなのだ。
そしてリステ様が言っていた、スキルレベルに見合わない要求……
スキルレベル1が具現化するための重要なワードが2つ。
成功したのは『石柱を生成』
スキルレベル2が具現化するための重要なワードが3つ。
成功したのは『長い石柱を生成』
そして失敗したのが『長く太い石柱を一本生成』
しかしこの
ならば……
諦めた俺は、アデント達の前で魔法を行使する。
「長い、石柱を、生成」
「「「えっ?」」」
ズズズズズズッ……
昨日見た1.5メートルほどの石柱が1本出来上がるので、その上に籠を置く。
定点狩りには必須とも言える、大き目なサイズの革袋を籠から抜くことも忘れない。
そして問題はここからだ。
石柱が立つ地面を見ながら呟く。
「深く、長い、石柱を、生成」
ズズズズズズズズズズズッ……
「「「えええええっ!!?」」」
……こりゃ凄いな。
作ったのは自分なのに、それでも驚いてしまう。
新たに出来上がった石柱だけでも5メートル近くはありそうだ。
なのでその上の石柱に乗った俺の籠は、見上げるほどに高くなっている。
それこそ2階建ての家の屋根くらいありそうだなぁ……
おまけに『
こればかりはどこまで深く刺さっているのか掘ってみないと分からないが……
これ以上できることもないし、ここはスキルレベル3の力を信じるしかない。
まず先ほどの驚く反応からして、この3人がまともに石柱を作れるとは思えないのだ。
あとは最悪三人で穴掘りでもされたら、ギルドに素材を奪われたと報告してなんとかしてもらうしかないな。
そうでなくても嫌がらせを受けたって報告はするけど。
とりあえずの出来栄えに満足した俺は、アデント達に向かって声を掛ける。
「ではこれから狩りをしてきますので、皆さんも頑張ってくださいね」
そして走り出す。
右手にはショートソード、左手には大サイズの革袋。
この革袋が埋まれば籠の4分の1くらいの素材量になる。
さぁ――定点乱獲狩りの開始だ。
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