第40話 魔法が使えなかった理由

 その日の夜。


 俺はモヤモヤした気持ちを抱えながらベッドに転がっていた。


 一応ロディさんの所に素材を卸した後、アマンダさんの所へも顔を出して、今日あったパーティ勧誘に関する内容を報告。


 向こうがギルドに報告するぞと言っている以上、一方的に悪い立場にされても困るので、今はパーティの必要性が無いから断ったこと。


 やたらと上から目線で誘われたのが気になったことを報告しておいた。


 アマンダさんは誰から誘われたのか確認してきたので、アデントという槍を持った3人パーティのリーダーであることを伝えると


「どう考えてもロキ君の戦力……というより報酬目的でしょうね。他のパーティに取られるより先に自分達がって、強引な勧誘に走ったんでしょ」


 と、一蹴してくれたのでとりあえずは安心できた。


 ただ今後もしつこく誘ってくる可能性があること。


 断り続けると、もしかしたら嫌がらせを受ける可能性があること。


 同様のことを考える他のパーティが出てくる可能性もあること。


 こんなことを示唆されてしまうとモヤモヤもするってもんである。


 アマンダさんは実力で分からせるという――古くからあるハンター達の習わしで理解させることも可能だけど、間違って殺めてしまうと大変なことになるので、相応の実力差が無いとお勧めはできない。


 つまり俺には向いていないとはっきり言われてしまったので、一応ギルドの方からアデントパーティには注意してくれるようだが……


 それで落ち着くものかどうか。


 最終的にはいつものだな、もう。


 目を付けられるのが嫌だからと、どこか適当なパーティに入って報酬その他を激減させるのも嫌だし、狩場をパルメラ大森林に戻すなんてこともしたくはない。


 大人の対応で我慢と妥協はするが、自身の成長という点では我慢や妥協をする気は欠片も無い。



 はぁ……何気なくステータス画面を開く。


 名前:ロキ(間宮 悠人) <営業マン>


 レベル:9


 魔力量:58/58(+6) +剣の魔力上昇で+50


 筋力:   32(+1)

 知力:   33(+7) 

 防御力:  31 (+21)

 魔法防御力:31(+6)

 敏捷:   31(+7) 

 技術:   30(+8)

 幸運:   36 (+1)


 加護:無し


 称号:無し


 取得スキル 【棒術】Lv1 【火魔法】Lv1  【土魔法】Lv3 【風魔法】Lv1 【気配察知】Lv3 【異言語理解】Lv3 【突進】Lv3 【採取】Lv1 【狩猟】Lv1 【解体】Lv1 【神託】Lv1 【神通】Lv1 【毒耐性】Lv5




(やっとレベル9か……)



 ロッカー平原に移動して、4日でレベル1の上昇。


 上がり幅と敵の弱さを考えても、適正は既に超えていることが予想できる。


 ロッカー平原で粘ってもレベル11か12。


 そのくらいでほとんど経験値バーが動かなくなるだろうと思われるので、そこまでにどれだけスキルレベルを伸ばせるかだな。


 あとは今日覚えた【風魔法】が敏捷ボーナス、いつの間にか経験値が貯まったっぽい【解体】が技術ボーナスということが分かった。


【風魔法】は詳細を見なくてもなんて書かれているか分かるからいいとして、【解体】の詳細はこのようになっている。



【解体】Lv1 解体技能が向上し、より素早く正確に解体を行うことができる 常時発動型 魔力消費0



 なんというか……もうこのタイプも、どんな内容なのかある程度予想ができてしまうな。


【採取】や【狩猟】のように好んで取ることはないけど、あったらあったでちょっと嬉しい程度の内容だ。


 そして数日前にスキルレベル5に上がった【毒耐性】のボーナス値が、期待通りで随分と突出してきている。


 手帳のメモと比較すればレベル5での上昇は能力値+10。


 予想していたよりも大きい上げ幅なので、明後日にはレベル6になるだろうし、ここからさらにどれくらい上がるのかを考えるとモヤモヤした気持ちも吹き飛んでくれる。


 明日は本格的に定点狩りができるだろうし、今の魔力量を考えれば3メートルの石柱を3本か、移動中の回復も考えれば4本は立てられる計算だ。


 3~4時間くらいで1本を目安にすれば、上手くいけば籠も満杯にできるかもしれないと思うと……ふふふっ。


 最近は地のスタミナも付いてきた気がするし、丸薬もまだまだ余裕はあるから当面はこのペースでの狩りを継続できるだろう。



 そんなモヤモヤを忘れるための幸せ妄想に浸かっていると、急に頭の中にノイズが走ったような感覚に陥り、思わず頭を左右に振ってしまう。


(ん!? なんだ……?)


『ロキよ……聞こえるか? 戦の女神リガルだ。こないだは見苦しい姿を見せた。皆下界の人種と直接話す機会なぞそうないものでな。我も我もと揉めているうちに【神通】の時間が終わってしまった。あの日から【神通】を使ってないようだが大丈夫か? 皆反省し、連絡が来ることを楽しみにしている。余裕があったらで構わないからいつでも連絡を寄越せ。待っているぞ』


 ……そういえばそんなスキルもあったなぁ。


 ここ数日すっかり忘れていたよ。


 というか【神託】って、与えてくれた死にかけアリシア様じゃなくてもできるんだね。


 いや~ビックリビックリ。



 ……さて、どうするか。


 魔力はベッドでショートソードを持つことになるが、それならとりあえず50以上は確保できる。


 だから使おうと思えば【神通】スキルは使える。


 が、前回の二の舞になるようなら、残っている魔力でマッチ程度の【火魔法】でも使って、スキルレベルを上げようかと思っていたのだ。


 その方が有意義な魔力の使い方だと思っていたが……うーむ。


 反省している? 本当だろうか?


 あの我が強過ぎる感のある女神様達に、『後悔』や『反省』なんて言葉は無さそうに思える。


 だが先ほどのリガル様の言葉は要点だけを纏めていて分かりやすく、かつたまたまかもしれないけど、こちらにとって都合の良い時間に連絡をくれているしなぁ。


 ……ならやってみるか。


 もう一度試してみて、それでも同じことの繰り返しなら再封印すれば良い。


 女神様達を信じてみることにしよう。



【神通】



「もしもし? ロキです。リガル様の【神託】を聞いたので【神通】を使いました。聞こえてますか?」


「聞こえていますよ。本日の担当を務める商売の女神リステと申します。連絡が来なかったので心配しておりました」


「これはこれはご丁寧に。ロキと申します宜しくお願いします。これは言葉を口に出した方が良いのでしょうか? それとも思うだけで良いのでしょうか?」


「【神通】は思うだけで結構ですよ。ただ慣れないとロキ君の思考が全て私達に伝わってしまうので、それまでは口に出してもらっても構いません」


「なるほど……ありがとうございます! リステ様はしっかり受け答えしてくれるので助かります!」



(リステ様。凄く良い)



「「「「えぇー!!(……ッ!!)」」」」



だなんて困りましたね……それで何か聞きたいこと、困っていることはありますか?」



(口に出しても思ったこと伝わっとるがな!!)



「そうですね……早速困ったことが起きましたがそれはまぁいいとして、今日初めて魔法が使えるようになったんですよ。でもなぜ前はできなかったのに、急にできるようになったのかが分からなくて……」


「スキルを取得していたのに以前はできなくて、今日はできたということですか?」


「そうです」


「となると原因はいくつか考えられますが……魔力量を満たしていなかった、所持スキルレベルに見合わない要求をした、あとは発現後のイメージを明確に持てていなかったということも考えられますね」


「ん~その辺りは問題なかったはずなんですよ」


「それ以外となれば……いえ、他にそのような現象が確認されない以上は、もしかしたらということもあり得ますね」


「んん?」


「魔法の行使はこの世界に広く漂う精霊が、魔力という餌と引き換えに補助や代行をしております。しかし精霊から、その……認識されていない、もしくは存在を認められていなかったのかもしれません」


「あぁ、この世界の異物だから。ということは、女神様達に会って存在を認められたから使えるようになった、ってことですか?」


「その可能性は高いと思います。精霊は神の眷属ですから」


 となると、あの時3人に拉致されなければ、俺は一生魔法が使えなかったかもしれないのか……あぶねぇ。


 そして眷属にそんな指示すら出しておかない、あのどんぐり野郎ときたら……


「大丈夫ですか?」


「あ、すみません大丈夫です。例の言えないアレに文句を言っていたところでした」


「そ、そうでしたか」


「ありがとうございます、おかげでスッキリしました。なのでお礼と言いますか、今ふと思ったことですけど……」


「なんでしょう?」


「女神様達の上司、確かフェルザ様でしたでしょうか?」


「えぇ。フェルザ様は私達下位神を生み出し管理されているお方ですね」


「リガル様やアリシア様がその方に相談されるようなこと言っていましたけど、もしかしたらあまり信用しない方が良いかもしれませんよ? 可能性のお話ですけどね」


「――ッ!? ど、どういうことですか?」


「いえ、俺に謎のスキルを与えている時点で、例の言えないアレは上位神様の可能性があるわけですよね? フェルザ様がどんな容姿をされているのか分かりませんけど……例のアレは少年、いや『男』でしたよ」


「男……」


「まぁ女神様の上司というくらいですから、姿形ですら自由に変えられるのかもしれませんが」


「………………」



 あ、時間切れだなコレ。


 うーん、親切心で言ったつもりだったけど……もしかしたら余計なこと言っちゃったかもしれないな。


 まぁしかし、女神様達の上司であるフェルザ様というのがどんぐりで、どういう事情かは知らないけど俺をこの世界に呼び込んだ可能性だってあるのだ。


 なんか前にリア様がなんて言っていたから違うかもしれないし、それが原因ということも考えられる。


 そしてそんな大それた話は庶民の俺が首を突っ込むべきではないので、後は女神様達に判断を委ねれば問題無いだろう。


 俺は日々成長を楽しめる生活ができればそれで良い。



 それにしても、だいぶ早口でしゃべったとは言え、1分ってのはやっぱり短いなぁ。


 他の女神様達にも聞こえているっぽかったけど、1対1で話せば謎のまま終わりそうだった疑問があっさり解決したんだ。


 おまけに魔法の行使には精霊の力が必要なんてことまで教えてもらえた。


 となるとやはり、このスキルは超が付くほど重要ではないだろうか?


 対応する女神様次第ではまさしく神スキルだと思えてくる。



 ……上げるか。



 【神通】スキルの詳細を確認すると1/10になっていて、当然のようにスキルポイントでレベルを上げることができる。


 本来は神子しか所持できないスキル……


 ということは魔物が所持している可能性は無しと判断しても良いだろう。


 うん。なら尚更に上げる価値があるなコレ。


 よし、いっとこう。


(スキルポイントを4振って【神通】スキルをレベル2に……)



『【神通】Lv2を取得しました』



【神通】Lv2 職業<神子>専用加護スキル 女神達と意思の疎通を図ることができる 使用条件1日に1度のみ 使用制限時間2分 魔力消費60



 魔力消費が増えたのは痛いけど、レベル2で会話時間が2分か。


 残りスキルポイントは20ポイントだからあともう1つ上げようと思えば上げられるが……


 とりあえずここで止めて様子を見てみることにしよう。


 次は12ポイントで結構重いしね。


 そして魔力ボーナスは、と……おっ! いきなり(+14)になっている!


 ということは+8上昇か。


 ふむふむ……どうも【神託】と【神通】でボーナス値が違うような気もするけど、一応これもメモに残しておくとしよう。



 そう判断して手帳を取ろうとベッドを立ち上がった時、それは急に来た。


(ぐッ!?……なんだこの倦怠感……眠気……?……ダメだ立ってられ……な……い…………)


 こうして意識が混濁した俺は、そのままベッドの上で意識を失った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る