第38話 まさかの発動条件
ロッカー平原で狩り始めてから4日目の昼時。
背中を守れるよう小岩にもたれ掛かり、前方を広く見渡しながら、俺は宿屋の女将さんに作ってもらったサンドイッチを頬張っていた。
初日が終わってから早速交渉した
もちろん携帯食よりは高いものの、あんな食事ではモチベーションを保つに厳し過ぎたので、1000ビーケで用意してもらえるなら安いものである。
コッペパンよりもやや大きい丸いパンの間に、レタスっぽいものとスクランブルエッグとハムを挟んだものが2つ。
どう考えても朝の朝食セットがそのまま一つに纏まっただけなので、おばちゃんにしても労せずお金になって内心喜んでいるはずだ。
(あぁ~コーヒー飲みたいなぁ……この世界にはコーヒー豆なんてあるのかな?)
そんなことを考えながらもチラリと横目で籠を見る。
昨日も今日も、おおよそ腕時計時間で11時~12時には、籠の半分くらいまで魔物の素材で埋まっていた。
そして今日は他のパーティが視界に入ることのないくらい奥まで進んでみたが、それでも景色は変わることなく高い木を見かけることは無かった。
ここまでいくと、もう狩場を走っての移動はいくら疲労回復の丸薬を飲んでいても重量の問題から厳しく、籠を背負ったままの狩りも身体の軸がブレてかなりリスクがある。
かと言って一度ベザートの町に戻れば往復2時間コース。
再度戻ってくる時は走って多少時間短縮できたとしても、午後1時~6時くらいまで無理をしての第二便はさすがにハード過ぎるだろう。
何より担ぐだけなら問題無いのに、籠が半分の状態で町へ帰るというのが、どうにも効率厨としては釈然としない。
(ここら辺まで奥に入れば人に奪われることはないだろうけど……魔物って共食いするんだもんなぁ……)
昨日気付いた事実。
帰り際に通った道をひき返していたら、ポイズンマウスが狩られて死体となった同族を食べている光景が目についた。
その時はラッキーとばかりにもう1匹追加で狩らせてもらったが、同族でも食うというのが分かった時点で、小岩の上に籠を置いての定点狩りというのも現実的ではなくなってしまった。
戻ってきて素材を食われていたら、怒りでそのネズミ野郎を20回は刺してしまいそうである。
(人も魔物も届かなそうな場所……自分で土をガッツリ盛るか? 一度作っちゃえば再利用できたりなんかしちゃったりして)
スコップなんて売ってたかな?
ネズミも登れないような急斜面の山を作るなんてそう簡単じゃないよなぁ。
そう思いながら、なんとなく足の先を地面にトントンしながら願望を呟いてしまった。
「土よ盛れ~……なんつって」
モコッ
「…………」
思わず食べかけのサンドイッチを落としそうになる俺。
見れば足先で叩いた地面は約30センチほど
決して元からあったわけではない。
足先でトントンしたら、僅かに青紫色の霧がかかり、地面が盛り上がっていく様を俺は見ていた。
……ソッとステータス画面を開き、魔力量を確認する。
魔力量:106/108(+6)
「魔力、減ってるがな……」
しかし昼食前には【突進】スキルも2回ほど使っている。
なので念のため……
トントン
「土よ盛れ~……」
モコッ
「……………………マジかよッ!!」
もう一度システム画面を開けば、104/108(+6)となっており、明らかに魔力が減っている。
つまり
そして忘れたい記憶。
【火魔法】を取得した後の嫌な光景が思い浮かぶ。
あの時は散々試してダメだったのに何故……
あの時やっていなくて今やったことは……ま、まさか!?
「きっかけは『手』じゃなくて『足』だと!?」
そんな馬鹿なとは思うものの、事実魔法が発動しているのだから否定もできない。
この世界はなんて不格好な方法で魔法を放つんだとボヤきたくなるが、それでも飯なんか食ってる場合じゃねぇとばかりに、サンドイッチを口の中に頬張り水筒の水で流し込む。
(大変だ大変だ大変だ……なんだ? どうする? 何から試す? まずは……)
色々な思考が頭を駆け巡る中、まず試したのは魔力量を増やすという選択。
トントントン!
「土よ……いっぱい盛れっ!!」
ズゴゴゴゴッ……
「…………なんてこったい!!」
目の前には見上げるほどの、自分の倍くらいの高さはありそうな小山が出来上がっていた。
「消費魔力は……これで『19』か。というか『19』でこれか……」
思いがけないタイミングで発動してしまった人生初の魔法に打ち震える。
「凄い……凄い凄い凄いっ! 凄いぞ魔法ッ!!」
軽く触ってみるとただ土を盛っただけという感じだが、山なりにはなっているので、正面の攻撃をとりあえず防ぐだけなら問題無さそうだ。
ただこれだとポイズンマウスも上がってくるかもしれない。
そう考えた俺は次の手を試す。
イメージするのは神殿とかにありそうな石柱だ。
トントントン
「石柱を生成!」
ズズズッ……
「あら……これだと思っていたよりショボい……硬くしたことが原因か?」
足元には確かに石柱が出来上がっているものの、高さ50cm、直径30cmほどと、大きさがなんとも微妙なところである。
「これで消費魔力が『9』……ということはレベル1でできる範疇の魔法行使をしたってこと。そしてさっきの『19』がレベル2の範疇で行使したってことか」
魔力消費から行使した魔法の度合いは分かるものの、その振り分け。どうすればレベル2やレベル3の魔法を行使できるのかがよく分からない。
(違いは……「いっぱい」って言ったことだろうか? そんな単純な話?)
疑問ばかりだけどまだ魔力はある。
ここに来てショートソードの『魔力上昇』が光り輝いている。
ならば。
トントントン!
「石柱をいっぱい生成!」
ボコボコボコッ!
(ですよねー……)
魔力消費「19」で出来上がったのは、
つまり目の前には、先ほどの大きさの石柱が3個追加で出来ただけであった。
これじゃない感が凄まじい。
(ということは、こんなのが正解か……?)
トントントン
「長く太い石柱を一本生成!」
うーん……
何も反応が無いし、魔力すら消費されていない。
(駄目か。それなら……)
トントントン
「長い石柱を生成!」
ズズズズズズッ……
「おぉ!!」
これでやっと魔力消費『19』。
自分の背丈より気持ち高いくらいの石柱が1本生成される。
そして感覚的なものとして、魔法詠唱のポイントがなんとなく分かってくる。
それはキーとなるワードをいくつ使うか。
「石柱」を「生成」であれば、具現化したい現象の元となる2つのワードを使っていることになり、このパターンだとレベル1。
つまり最大でも魔力消費9止まりのショボい魔法が発動するような気がする。
そしてここから更に、「長い」「太い」「いっぱい」など、追加の要素を加えることによって3つのワードを使ったことになり、それがレベル2の魔法行使にランクアップしているような気がするのだ。
となると、とりあえず試せるのはこれで最後。
目の前にある1.5メートルほどの石柱の上に籠を置く。
そしてその石柱の根元を見ながら発動。
トントントン
「長い石柱を生成!」
ズズズズズズズッ……
「おぉぉおおおおおお! やった!! 成功だぁー!!!!」
出来上がったのは籠を乗せた石柱の下にもう一つの石柱が作られ、まるで一本のようになった高さ3メートルほどの柱。
まさに理想。
蹴っても重さがあるからか、安定していてビクともしないし、これなら魔物だろうが人だろうが、その上に乗っかった素材入りの籠に手を出すことは容易ではないはずだ。
おまけにだだっ広い草原のような場所に1本だけ立つ石柱なので、かなり目立っていい目印にもなる。
これで定点狩り用のポイント作りは完成だ。
あとは周りを狩りつくせば次の場所へ行き、同じように石柱を生成して拠点化していけば良い。
難点はパルメラでのハンター歴が長く、フーリーモールから【土魔法】をしっかり取得している人間だと同じことができてしまう可能性も高そうだが――
まぁ、これだけ広いのだ。
奥に入れば人はまったく見かけなくなるわけだし、もし明らかに怪しい動きをする輩が視界に入ったら、速やかに場所を変えるなどの対処をすれば問題無いだろう。
ある程度は割り切らないと定点狩りのメリットを享受できなくなる。
ふふふ……ふはははははーっ!!!
これで素材こんもりじゃーーーーい!!
(よし、それじゃ一旦下ろして……あれ……この石柱、消せるのかな?)
とんでもないことに気付いたのは、もう魔力も尽きかけた最後の最後だった。
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