第26話 魔石の勉強

 ベザートは辺境にある片田舎の町だ。


 アマンダさん情報だとこの町がある『ラグリース王国』は南北に延びていて、ここベザートは最南端、パルメラ大森林とほぼ隣接していると言ってもいい位置に存在している。


 街道は北にある地方都市『マルタ』に通じるのみで、その『マルタ』は東西南北4本の街道が延びている南の交易拠点になっているとのこと。


 もちろんマルタ以外にも周囲には寒村含めたいくつかの村が点在するらしいが、国も町も全ては把握できておらず、街道近くで宿を置いているような、それなりの規模の村以外は国もあまり関与していないらしい。


 言ってしまえば税金フリー状態なんだろうけど、そもそも取れるものが無いといった方が正しい表現なんだろうと思う。


 そしてベザートは片田舎らしく、町の外周は背丈ほどの木の柵で覆われているだけ。


 十字に延びる大通りが感覚で言えば直線2km程度それぞれに延びており、中心部は商店やハンターギルドなどの商業や教会などの主要施設。


 そこから裾に広がるに連れて、民家が増えてくるという構図になっている。


 俺が泊まっている宿屋は中心よりやや北寄りの大通り沿い。


 だからギルドや買い物なんかには非常に便利で、かなり活動しやすい宿だなと思う。


 これがメイちゃんの言っていた宿だと、左右に延びる大通り沿い、しかもやや町の中心から外れてくるため、外観はかなり民家に溶け込んでいるんだそうな。


 まぁそれくらいなら個人的には全然問題無しというか、日本人からしたら民宿程度の想像しかできないわけだが、問題は町の出入り口は南北のみで、町の左右になると狩りに行く時が非常に不便。


 そんな理由もあって、あとは資金的にも逼迫した状況からは抜け出せたので、宿換えという発想にはまったく至っていない。


 ちなみに南は当然のことながらパルメラ大森林行き。


 町を南から出るのは森以外目的を探すのが難しいくらい何も無いので、町の南エリアはあまり人気が無い。


 逆に北は地方都市マルタへの街道、左右には広大に広がる穀倉地帯。


 そこからさらに北東へ進めばロッカー平原、北西に行けばルルブの森と、ベザートの町の有力ハンターや商人、農業従事者も北から出ていくので、必然的にベザートの町の北が少しだけ富裕層地区のような扱いになっているとのこと。


 会ったことはないが、ジンク君達の救出という名目で謝礼を貰った町長の家もこの北地区のどこかにあるんだろう。


 アマンダさんからこのような情報を教えてもらった時、なぜパルメラ大森林が目と鼻の先にあるのに木の柵?


 もっと石造りとかの頑丈なやつの方が良いのでは?と質問したら、パルメラ大森林は何もかもが特殊で、過去に1度も集団暴走スタンピードの発生事例がないらしい。


 だから無駄にお金をかけて警戒する必要も無く、以前ジンク君が言っていた通り森と町の間に作物を作らず、草原のままにしてゴブリンが町に近寄らないようにしているだけで十分な対策になるという話だ。


 ここまで聞くと、「それならルルブの森は集団暴走スタンピードがあるんじゃ……?」とも思ったが、聞くと変なフラグを立ててしまいそうな気がしたので聞くに聞けなくなった。


 あんなEランク推奨のところで魔物の集団暴走が発生してしまったら、俺は懐かしの洞穴仙人モードになるしかないと思っている。絶対に死ぬし。



 というわけで俺は町の中心地。


 その交差点を一本入った脇道などを探索していく。


 特に左右は今まで行くことがなかったので、旅行先をプラプラするような感覚で何気に楽しみである。


 ミミズの這ったような文字が書かれた木の看板は大体がお店だろうと、店先からどんな内容かを見てみると、一つ目に発見したのは果物屋。


 俺が森の中でよく食べていたキウイみたいなやつも並んでいる。


(ふむふむ……メイちゃんが言ってた100ビーケでギルドに売れると言っていたやつも、ここでは200ビーケで売られているわけだな……)


 となると庶民が食べたいと思った時、森の中にちょっと取り行くかという気持ちもなんとなく分かる。


 中には3500ビーケなんていう俺の宿代より高い黄色い果物なんかもあったりするが、たぶんこの世界のことだから輸送費で値段がガンガン吊り上がってしまうんだろう。


 依頼の護送もそれなりの費用がかかっているみたいだしね。



 そして次に見つけたのは……あった! ちょっと楽しみにしていた魔石屋!


 中に入らないと売り物がさっぱり分からないのでドアを開けて覗いてみると、カラランという音に反応して店の人が俺に気付く。


「いらっしゃい~」


「あっ、こんにちは」


 声をかけられたので挨拶をしつつ、俺はすぐに店内の光景に目を奪われた。


 日本のジュエリーショップとは違う、様々な色、大きさの魔石。


 店内は狭いものの、それでも50は超える魔石が陳列棚に置かれている。


「初めてこのような魔石のお店に入りましたが……色々な種類の魔石があるんですね」


 思わず店員さんに尋ねるような口調の独り言が出てしまうも、眠たそうな妙齢の女性店員さんは良い人なのか暇なのか、しっかり受け答えしてくれる。


「用途に合わせて他国で採れる魔石も取り寄せてるからね~」


 俺が見慣れてきた親指の先ほどの魔石もあれば、子供の拳ほどの魔石もある。


 また色も統一されているわけではなく、水色や橙色なんかが混じった色の魔石が陳列されていた。


(そういえばゴブリンとホーンラビットは黒色だったけど、フーリーモールはちょっと茶色も混ざったような色をしてたな……)


 ふと思ったことが気になり始める。


「大きいほど価値が高いというのはなんとなく分かりますけど、色は何か関係があるんですか?」


「おぉ……君はなかなか魔石にうといようだね。しょうがないお姉さんが教えてあげよう」


「あ、ありがとうございます……」


「色は魔石の属性を表しているんだよ。黒い色が無属性、水色は水属性、この辺で採れるフーリーモールの魔石は茶色くて土属性って感じだね。属性の力が強い魔石ほど色がはっきり出るから、より大きく、発色が強いほど価値の高い魔石っていうことになるわけさ」


「なるほど!」


 そう言われて改めて魔石を見ると、水色も黒に僅かに青が混ざった?という魔石もあれば、もう少し水色に寄った魔石もあったりする。


「属性が混ざると何か変わるんですか?」


「変わるも変わるさ。水を出す魔道具なんかには、水属性の混じった魔石の方が効果は強くなるし長持ちもする。火に関連する魔道具なら橙色や赤色をって感じだね。ただ属性付きの魔石は値が張るから、普通の家は何にでも使える黒い無属性の魔石を砕いて使うもんだよ。お金持ちさん用の需要があるから一応属性魔石も置いているけどね」


「ほっほー……」


「君は魔石を買いたい人、売りたい人?」


「うーん、どちらかというと売る側ですかね。仕事がハンターなので」


「なるほどね~……武器を持ってないところを見ると、これから頑張ろうって感じかな?」


「ですです。まだ始めて数日の駆け出しなので……」


「なら、いずれ武器に属性を乗せたくなった時にまた来ると良いよ」


「武器に属性?」


「そうそう。武器に属性を付与する時は乗せたい属性の魔石が必要になってくるからさ。パイサーさん……この町にある武器屋の店主が付与魔法を使えるから、うちで属性魔石を買って依頼する人もいるよ。特にこの辺じゃ火属性の魔石は希少だからね」


 なんだか凄く興味深いお話を聞けた気がする。


 そしてパイサー……そうか、あの俺が狙っているショートソードはパイサーさんが自ら作ったものだったのか。


 そういえばどんな内容かは覚えていないけど、何かしらの付与もなされた武器だったはずだ。


 俺はそっとステータス画面を起動しスキル欄を確認すると、【付与】というスキルがあることは確認できるので、隠れているレアスキルではないことが分かる。


 ん~……自分で【付与】スキルを取得したとして、スキルレベル1とか2でどの程度の効力があるのかも分からないし、属性を乗せたくなった時にはその値段と相談するのが無難だろうな。


 あとはついでに……


 そう思ってステータス画面を閉じ、一応属性魔石の値段も確認しておく。


 が――


「フーリーモールと似たような大きさの氷属性魔石で50000ビーケ……かなり……お高いっすね……」


 思わず声に出してしまった。


 だってフーリーモールの土属性魔石は1個2000ビーケの買取だよ? 高過ぎない!?


「ははは! そりゃ他国から取り寄せてるんだから高いさ。魔石は小さいけど価値があるってんで盗賊に狙われやすいからね。それに氷属性は特別高いと思った方が良いよ。武器に乗せる属性としては大人気だからさ!」


 そう言われて土属性魔石――つまりフーリーモールの魔石がいくらで売っているのか確認すると、3500ビーケと確かに安いことが分かる。


「土属性魔石って人気無いんですね……フーリーモールをセコセコ倒している身としては悲しくなります……」


「土属性魔石は建物とかを作る時に使うのが一般的だからね。この辺なんかじゃ大きな建物を作ることも無いし、そもそも材質は木で作るからそこまで土属性魔石を使う用途も無いんだよ。要塞を作る時なんかはかなり大量に使われるみたいだけどね~」


 量は取れるのに消費が無い。物の売買としては売る側が極めて不利な状況である。


 ただ言っていることも至極真っ当なので、俺がブーブー文句を言ったところでどうにもならないだろう。


 商人ならばここで大量に土属性魔石を買い付けて、戦争でもやってそうな国に行って売れば大儲けっていうことになるんだろうな。途中で盗賊に奪われなければだが。


 最後にお礼を言い、属性を付けたくなったらまた来ますと伝えて店を出る。



 属性武器かー……


 高いけど……氷属性魔石高いけど!


 それでも武器に青白く冷気を纏わせて闘う姿なんて、ちょっと格好良過ぎじゃないか?


 二刀流にして片方は氷属性、もう片方は火属性かな?


 それでブワッ! カキーン! なんて、強者感ハンパないでしょう!


 ……良し、目指そう。


 これも目標にしよう。


 そう思いながら、何やら感じる嗅ぎ慣れた匂いに釣られ、次なるお店へと吸い寄せられていった。

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