第17話 異世界の装備屋
やや疲れた顔でハンターギルドの1階へ降りていくと、そこにはジンク君もおり3人が揃っていた。
「やぁ、ジンク君も俺を探してくれてたんだって?」
「そうだぞ! どこに泊っているのかと思ったら……まさか木の上で寝ているなんて思ってもみなかった!」
「そうだよねぇ。俺もまさか町の中なのにまた木の上で寝るなんて……でも今日からは大丈夫だよ!」
じゃじゃーん!と、ギルドマスターから貰った革袋を見せる。
「「「おぉぉおおおおっ!!」」」
おっ、ポッタ君もこの革袋は分かるようだね。ぐふふふふ。
とりあえず3人が座っているところに俺も座り、テーブルの上に革袋をドン!
「早速中身を確認してみようと思います! ポッタ君の串肉もすぐ買うから待っててね」
「これなんで貰ったの?」
「なんかメイちゃん達を救出したお礼って、町長が用意してくれたらしいよ」
「おぉーギルドの緊急依頼だと、たしか一人生還で10万ビーケが多いよね?」
「そうだな……だが……いや、なんでもない」
なんだかジンク君の発言が不穏だけど、俺にはよく分からないことだから気にしてもしょうがない。
とりあえず革袋を逆さにしてみると、金色の硬貨が何枚も落ちてくる。
ジャラジャラジャラ……
「えーと……全部で15枚か。これ1枚っていくらになるの?」
「1枚10000ビーケだな」
「ということは15万ビーケか……それでも凄いな!」
「えーでもギルドの緊急依頼だったらもっと貰えたのにね!」
「バカ! もしそんな依頼が貼り出されたら、俺達生還したとしても処罰食らうんだぞ!」
「え? そんなのあるの?」
予想外の
「あぁ。受けた依頼の予定を大幅に超えても戻らないとなると、ギルドで緊急の探索とか救出依頼がかけられる。それで見つかったら見つかったで、生還したハンターは
「なるほど……今回はどうなるの?」
「緊急依頼前だから処罰は大丈夫だな。さすがに緊急依頼が出されるにしては早過ぎる。その代わりに町長からギルドよりは少ないけど謝礼が出たんだと思うぞ」
うーん。
ここら辺もヤーゴフさんの説明と食い違うが……
ヤーゴフさんはどうも怪しいというか、やり手の営業マンみたいな雰囲気があるからな。
悪人ではないんだろうけど、恩や感情で揺さ振りながら本音を引っ張り出して、そこから何かしようとする雰囲気があるから、今後も油断ならない相手と思って警戒しておくしかないだろう。
たぶん俺じゃあの人に口で勝てないし。
「まぁ貰えるものは貰えたしいいじゃないか! みんなも罰はないみたいだしさ! とりあえず串肉奢るよ串肉!」
「やったー! 私1本ー!」
「いいのか? 助けてもらっておいてまたここで……でも1本だけ!」
「ポッタ君は無条件で2本ね。さっきお肉貰っちゃったし。というわけでおばちゃん串肉5本くださーい!」
「早速恩返しかい。早いねぇ~あいよ!」
見たら1本300ビーケだしね。
そのくらいで喜んでもらえるなら安いもんさ。
この後ちょっと付き合ってもらいたいしね……ふふ。
「あっ! そうだそうだ! 昨日の素材分のお金渡しておくよ。えーと……いくら渡せばいいんだ?」
「ん? 結局いくらになったの?」
「全部で22000ビーケだったぞ」
「んじゃ一人5500ビーケだね」
「「はやっ!!」」
あぁ、まだ10歳とか12歳だもんなぁ……
スキルに【算術】があったはずだけど、学校に行っている様子が無いというか、そもそも学校が無さそうだから、これはもうしょうがないことなんだろう。
いつもどうやって分けていたのか聞いたら、同じ色、サイズの硬貨を3人がそれぞれ1枚ずつ取っていって、2枚以下になったら今日はジンク君、明日はメイちゃんという感じで分けていたらしい。
ある意味斬新な分配方式だ。
一緒に行動するかは別として、俺がいる時くらいは助けてあげよう。
「そうそう、皆はこれから予定あるの?」
「剣を売りに行こうかと思って待ってたんだよー!」
「そうだったんだそりゃ悪いことしたね。それじゃ串肉食べながらちょっと待ってて! ハンター登録と講習のお願いしてくるからさ」
言いながら一人カウンターへと向かう俺。
誰でもいいわけだが、なぜか先ほど案内してくれた推定40歳前後、お姉様の視線が熱い。
チラリと見ると微笑みながらガン見してくるわけで、13歳相手にその視線はマズいような気がする。
(はぁ……こっち来いってことか……)
トボトボとそのカウンターに向かうと満面のお姉様。
「ハンターの登録と講習予約よね?」と、事情を察してくれているようなので、その点は俺も楽である。
そして1枚の木板を渡されながら「文字は書ける?」と聞かれたので、一応「たぶん大丈夫です」と答えておく。
これが羽根ペンか……万年筆は使ったことがあるけど羽根ペンはさすがに初めてだ。
名前は……ここで
でもギルドマスターにまでロキって覚えられちゃったし、えーい、ままよ!!
こうして名前『ロキ』、年齢『13歳』、種族『人間』、特技『無し』と書いて提出。
ちなみに文字は頭で書きたい言葉を想像すると手が自然と動くが、ミミズみたいな文字で自分でも何を書いているのかよく分からなかった。いや、それでも読めるのが不思議なんだけどね。
あと羽根ペン、激しく使いにくい。
そんなこんなで登録と講習予約が完了。
細めの鎖が通された『ギルドカード』を受け取った。
特に材質はおかしなものではなく、カード自体は名刺に近いサイズの薄い鉄板。
そこに1文字ずつ打刻したのか、クレジットカードのように文字が判別できる仕組みになっている。
『G』という文字だけが一際大きくてかなり目立つな……
ちなみに魔法的な要素は何もないようで、失くすと再発行手数料が普通にかかるらしい。
大半は首にかけておくそうだが、金属アレルギーの人は大変だろう。
さて、時間は現在10時過ぎ。
講習は昼過ぎと言っていたのでまだ時間がある。
となれば、早いとこ剣を売ってお買い物タイムだ!!
ジンク君達に終わったことを伝えてゾロゾロとギルドを出る一行。
どこに売りに行くんだと聞けば、通りを挟んで目の前にある武器屋で売るらしい。
めちゃ近っ……
ちなみにこの町の武器屋はここだけで防具も兼用なので、ベザートのハンターご用達は言うまでもないこと。
どうも一軒だけでライバルがいないとか、ボッタくられそうな気がプンプンするけど……そこはマズそうだったらヘルプに入ればいいだろう。
僅か5秒で到着し、俺は心をウキウキさせながら店内の品を物色。
その間にここでナイフを買っているジンク君が、地球ではまず見られないネイビーカラーの髪色をした、やや不愛想で大柄のおじさん店主と交渉に当たる。
ふーむ……入口の脇に置いてある、樽に無造作にぶっ刺さった剣や槍が中古品なのかな……
樽に5万ビーケ、10万ビーケと書かれているので、一律価格のワゴンセールみたいなものなんだろう。
値段は魅力的だが――……そもそも大人用の長い装備しかないんだよなぁ。
そして奥のカウンター近くになるとさすがに高い品物も目立つようになり、鉄とは違う素材に見える鎧や光沢の強い青みがかった剣、宝石が埋め込まれた杖など、ちょっとワクワクする装備が色々展示されている。
お値段を見ると……そうかそうか。
1200万ビーケとか書かれているので、俺には無縁過ぎる装備であることがはっきり認識できた。
どうやら30年は早いらしい。
小さい町の武器屋でこの値段って、それこそ王都などの大都市ではどれほど高価な武器が売っているのか、冷かし程度に1度は見学したいものである。
しかしなぁ……
いつまでもマイナスドライバーというわけにもいかないし、ナイフよりはもっと長く、1メートルを超えるような長剣まではいかない。
70~80cmくらいの剣は早急に欲しいところ。
そんなことを思いながらも店内をウロウロしていると、壁に掛けられたそれっぽい武器を発見する。
『ショートソード パイサー 付与:魔力上昇 価格:55万ビーケ』
パイサーというのは武器の名前なのか、作った人の名前なのか。
よく分からないが、他の棚に飾られている武器はどれも100万以上が当たり前の世界なので、最初に手を出す武器としては結構お買い得な方なのかもしれない。
そして付与か。
スキルに確か【付与】があったはずなので、そのスキルも併用して作った武器なのだろう。
そんな考えごとをしていると、どうやらジンク君の交渉が終わったようだ。
「ロキ! この剣50000ビーケだってさ! 売っていいか?」
「そうなんだ。ちなみに4人で割ると1人分は?」
「分からない!」
「だよねぇ……ということで店主さん。僕たち4人でこの剣の代金割りたいんで、理想を言えば80000ビーケなんですけど、もうちょっとなんとかなりません?」
「そうは言っても、うちも商売だからな。赤字になるような買取はできねぇよ」
「それはもちろん。ただこの剣、そこの樽で売られますよね? 50000で買って50000で売るなんてことは店主さんが否定している以上あり得ませんから、10万の樽で売るわけでしょう?」
「あぁ……だからなんだ?」
「ということは倍で売れる算段立てているわけじゃないですか。赤字とはまだまだ無縁ですし、置いて腐るものでもない。それならもうちょっと頑張ってもらえません? 納得できれば置いていきますから。今後ろにいる身体の大きいポッタ君に持たせるべきか、金額次第で悩んでいるところなんです」
「んぐっ……それじゃ60000だ! もうこれ以上は無理だぞ!」
「ちなみにこの剣、10日ほど前にここで売られていますよね?」
「……なんでそれを?」
「ハンターギルド絡みでして。しかも門番さんは中古にしては中々状態が良い剣だと唸っていました。樽に刺さっている剣よりも良さそうな気がしますね。以前の持ち主さんも状態が良くて樽の中からこの剣を選んだんでしょうから……」
「……」
「置いておけばどうせまたすぐ売れるんでしょうし、店主さんにとっても良い買い戻しになると思いますよ? なので72000ビーケ。これなら即決したいと思うんですけどどうでしょう? 店主さんはすぐに28000ビーケ儲かる計算です」
「72000だと4等分は―――「18000なので大丈夫です」―――……もういい分かった……」
「「「……」」」
「あ、店主さん、頑張ってくれたお礼に、今度解体にも使えるナイフ買いに来ますから! 安くしてくださいね!」
「あぁ……その時はほどほどにしてくれ……」
ゾロゾロと武器屋を出る一行の中、笑顔なのは俺だけだった。
籠の分配金を考えると、1日分の収入が増えるくらいには交渉したんだけどなぁ……
3人はいまいち理解ができていないっぽい。
「とりあえずこれ、一人18000ビーケね。最初より5500ビーケ増えてるから、1日休んでも問題無いんじゃない?」
「ロキってなんだかよく分からないけど凄いんだな!」
「商人? 実は凄い商人でしょ!!」
「違うわ! 新人ハンターロキでございます!」
「あの剣拾って一人18000ビーケか……拾いに戻って本当に良かった……」
「というわけでさ。ちょっとお金が増えた分、皆にお願いがあるんだけど良いかな?」
「ん、なになにー?」
「お勧めの宿があれば教えてほしいのと、とりあえず服と靴を急ぎで買いたいんだよね! 俺でも買えるようなお店って分かるかな?」
「お勧めというか、普通に泊まるなら『ビリーコーン』だよね? 他は汚いし!」
「服と靴は町長からの金も足したら余裕で買えるぞ。そこら辺の人達が身に着けているようなものでいいんだろ?」
「そうそう! そんな感じの、ふっつーーーーーなやつが良いんだよね!」
「それなら商店通りにいくつかあるから見に行こうぜ。俺もなんか買うかなー? ポッタも買う?」
「買うっ!!」
「「「「それじゃみんなで行こー!」」」」
いつかは別れる一時的なものかもしれない。それでも、今は……
最後尾で呟いた俺の言葉は、三人に聞こえることもなく掻き消えていった。
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