第439話親父の仲間に相談

「一応エディ達にも聞いてみるか」


 エドワルドに話を聞いた後、新しくできた城のことを見ていると、ふとそう思いついたので城へと向かってみることにした。

 確か、もうすでにエディやエミールなんかの主要メンバーの何人かはこっちに滞在してるはずだ。


 親父の側近なんだからそっちについていなくて良いのかと思ったが、城の警備が必要だってことなので納得した。


 何せここはカラカスだ。いくらあの城が国王や元ボス達が造ったものだとしても、警備に隙があり、儲けられるとなれば盗みに入る者はいることだろう。

 まだ人が住んでいないとはいえ、家財道具の類はあらかた搬入してあるんだから金目のものがないわけでもないのだし。


 それに、城の内部の地図だって金に変える事ができるし、隠し通路の一つでも見つければ儲けものだ。

 ……まあ、そんな通路を見つけても実力がないと罠にかかって死ぬかもしれないけど。


 そんなわけだから、まだ人がそれほど住んでおらず、警備が緩いうちなら、自分たちでも盗めるんじゃないかって思う奴らの相手をしなくちゃいけない。


 そのため、城の主である俺や親父達よりも早く、すでに城で寝泊まりしてる奴らがいる。

 その中に親父の側近である〝元〟騎士達も入っていた。


「——何してんだ、こいつら?」


 誰か相談できそうな相手がいれば良いなと思いながら城に向かったのだが、植物達に聞くと訓練場にいるとのことだったので、そっちへと進んでいった。

 だが、そうしてついた先では、数十人の男がいたのだが、そのうちの何割かはノロノロとした動きをしていた。あれは、武器を振っているんだろう? 


 ゆっくりした動きで戦闘の動作をするってのは結構きつい、みたいな話を聞いた事がある気がするし、それだろうか?


 そう思ったが、傍目には何をしているのかよく分からない。まあ、これは俺が一般人目線だからかもしれないけど。


「坊ちゃん? 見ての通り訓練ですぜ。俺達も、こんなんでも騎士なもんですんで」


 なんて考えながらその場にいた奴らのことを見ていると、そのうちの一人が俺に気がついたようで、走ってこっちにやって来て声をかけてきた。

 ……別に、そんな高位階の奴が全力でダッシュしてくるほど急ぎの用件でもないんだけどなぁ。


「ああ。そういえばそうか」


 俺はやってきた男——エミールへとそう言葉を返した。

 まあこいつらも騎士なわけだし、訓練することもあるんだろう。今までろくに訓練してるの見たことなかったけど。


 まあ、東区のあの館は広かったけど訓練場みたいな場所はなかったしな。いくつかあった広めの空間も俺が使ってたし。だから訓練したくてもできなかったってのはあるかもしれない。

 でもここはちゃんと訓練用の空間があるんだから、俺に気を使うこともないし訓練も自由にできるだろうな。


 ただ、それでもやっぱりこいつらが訓練ってなると、どうしても違和感を感じてしまう。

 別に、常にだらけてる姿しか見てこなかったってわけでもないんだけど……どうしてだろうな?


「その反応はひどくねえですかい?」

「いや、だってお前ら『騎士』ってガラか?」

「ま、俺達も自分達が騎士らしいのかって言われると首を傾げるしかねえんですけどね。それでも一応はこの国の『騎士』で、『騎士団』でさあ」

「騎士団ねぇ……」


 まあエミールや、他の親父の側近達が『騎士団』だってのは良いとしよう。元々騎士やってたわけだしな。


「それって、アレもか?」


 でも、あれも騎士団なのかと言われると、ちょっと首を傾げてしまう。


「あー……あっちは違いやすね。あれはちょいと事情が違うというか……言うなれば『戦士団』ってとこですかねえ」


 エミールは俺が指さした方へと振り返りながらそう言ったのだが、俺が指さした先には、『騎士』とは思えないようなファッションと顔つきの男達がいる。

 エミール曰くそいつらは『騎士団』ではなく『戦士団』だということだが……なんだそれ?


「戦士団? それって騎士団との違いは……まあ、あからさまに違うみたいだけど……」


 なんというか、エミールのいた一団とは違って、激しく打ち合いをしているんだが、その動きが出鱈目というかなんというか。それなりに強いというのは分かるんだが、体系化された強さってわけじゃない感じだ。

 一応うちで働いてる奴らは同じような戦闘技術を持ってる。言うなれば『流派ヴォルク流』みたいな感じだ。……まあ、実際に親父が教えてるわけじゃないだろうけど。

 でもこいつらは違う。よく言えば我流。悪く言えば粗暴、粗雑。そんな感じだ。


「そうですねぇ。あれは礼儀も作法も気にせず、ただ戦うための戦力、ってところですかねえ。ちいっと言葉はおかしいんですけど、まあそんな感じでさあ」

「戦うための戦力……要は強ければいい傭兵部隊って感じか?」

「ああ、そんな感じで合ってやす。国で雇った傭兵を集めた部隊。そんなところになりやす」


 この国にはまだ戦力が足りていない。純粋に戦う力という意味では俺や親父がいるから良いんだけど、表面的なわかりやすい力がないのだ。それに、毎回俺たちが動くわけにもいかないし、その不足を補うためなんだろうな。

『騎士』でも『兵士』でもなく『戦士』なのは、こいつらがカラカスの住民だからだろう。下手に今から同じ技術を覚えさせるより、元々持っていた力を振るってもらったほうが役に立つ。だからあえて『戦士団』としたんだと思う。


「……ところで、坊ちゃんはここに何をしに? 城に帰ってきた、って感じじゃあねえんでしょう?」

「ああまあ、そうだな。……今、親父はこっちにいるか?」


 本題に入る前に、親父に話を聞かれてはまずいと考え、そう尋ねた。


「団長ですかい? いえ、今はまだ東区の本邸の方にいるはずですぜ。街の改修もまだ終わってねえですし、あっちの方が何かと手を出しやすいもんですんで。ただ、今回の件が終わればあっちは別宅扱いになって、城で暮らすことになるんでしょうねえ」

「そうか。まあ母さんもこっちに来るわけだしな」


 今はまだあっちを使っているが、エミールが言ったように、母さんがきたらこっちを使うようになるだろう。何せ、母さんのためにこの城を作ったわけだし。安全と利便性とを考えたら、こっちにしないわけがない。


「リエータ様ですか……」

「やっぱりエミールも知ってるのか?」

「ええまあ、一応は俺もそうですし、他にも最初に坊ちゃんをここに連れてきた奴らも知ってるはずですぜ。何せ、これでも『王国騎士団』に所属していたもんですから」


 まあ、そうか。親父に見る機会があったんだから、他の仲間達だって見る機会くらいはあっただろう。


「まあ、その母さんについて話だ。後ついでに親父な」

「その二人についてとなると……坊ちゃんの今後の振る舞いに関してですかい?」

「振る舞い? ……あー、まあ、その辺も考える必要があるか」


 母さんはともかくとして、親父のことは『親父』と呼んでいるが、本当の父親ではない。

 だが母さんと再婚したとなったら、本当に俺の父親になるわけだし、変わるものはあるはずだ。

 何より、新婚の二人の間に入っていく気はないので、どうしたって振る舞いや接し方は変わってくるだろう。


 でも、今回はその話ではない。


「違いやしたか。でもそうなると……さて、なんでしょうかねえ」

「ん。まあ二人の贈り物についてだ」

「贈り物……ああ。結婚祝いですかい? 確かに、それは悩むもんでしょうねえ」


 エミールは納得したように頷いたが、こいつはどうなんだろうか? 何か用意する、或いはもうすでに用意してあるのか?


「お前達は何か用意するのか?」

「さて、その辺は話したことねえですが、まあ騎士団の奴らは何かしらは考えてるようではいやすね。相談とかはねえですが、変な動きをしてる馬鹿がいるもんですんで」

「変な動き?」

「ジートのことでさあ。あいつ、団長……ボスが結婚するってんで、なーんか落ち着かねえ雰囲気してんです。あれは本人もどうしてかわかってねえでしょうけど、焦ってるように見えんです。多分になりやすが、自分の感情を言葉には表せないけど、何かしてやりたい、ってようなことを思ってんじゃねえかと思いやす」

「ああ……まあ、あいつはあんまり頭使わないからな。こういう時にどうすれば良いのかわからない、ってのはあるんだろ」

「ですね」

「で、エミール自身は何か渡すのか?」


『みんな』が何か相談して用意するつもりがないのは分かったけど、エミール自身はどうなんだろうか?


 そう思って尋ねてみたのだが……


「いや。なんにも渡すつもりはねえですねぇ」


 肩を竦めながらそう言われてしまった。


 こいつは言葉遣いはアレだけど、それはわざとやっていることだし、礼儀作法や気配りだってできる男だ。

 それなのに何も贈り物を用意しないってのは意外だった。


「そうなのか?」

「ええ。まあ強いていうなら酒を用意してみんなで呑み交わすくらいなもんでしょうね」

「意外だな。お前なら何か用意すると思ったんだけど」

「俺もそう思ったんですが、それはなんかちげえなって思ったんでさあ。俺達の間柄でそうやって改まって祝うのは、どうにも他人行儀というか、壁を作るように思えるんでさ。今まで俺達は色々とやってきやしたが、それが成功だろうと失敗だろうと、その度に酒飲んで話して、馬鹿みたいに騒いでこれからもやっていこう、なんて風にやってきやした。なら、今回もそうやって〝いつも通り〟に騒いで祝ってやるのが最高の祝い方じゃねえかってね」


 いつも通りに過ごすのが最高の贈り物、か……。

 なんだか、本当に『仲間』って感じがして、少し羨ましい。


「……の割に、ジートは止めないんだな」

「みんながみんな何も用意しねえのはボスも寂しいでしょう? それに、そうやって用意したやつが一人でもいれば、それをネタに騒げばいいってもんで。用意しなかったのが俺一人だとしても、それは同じでさあ」


 そうして笑い合う事ができるのも、お互いを信頼している『仲間』だからだろう。


 ……俺は、そんな『仲間』を手に入れる事ができるだろうか?


 エミールの話を聞いて、ふとそんなことを思ってしまった。


「信頼、なんてのは、一人だけじゃ成り立たねえもんですよ。自分の他に誰かがいて、その誰かと接していくから信頼できる仲間になるもんです」


 暗くなった俺の表情を見逃さなかったのだろう。エミールは不意にそう語りかけてきた。


「坊ちゃんは俺達とは違って頭も力も金もある。だからこそ色々と考えるもんなんでしょうが、時には馬鹿みたいに真っ正面からぶつかって話をするのもアリってもんですぜ」

「エミール……」

「余計なことを言いやした。あのボスが結婚だなんてことになったからでしょうかねえ。自分でもわからないうちに混乱しているみてえです」

「……いや、余計なことなんかじゃないさ」


 本当に、余計なことなんかじゃない。こうして助言をしてくれるってのは本当にありがたいことだ。


「今の言葉の感謝は、問題が解決したら言う。それまで待っててくれ」

「その解決がいつになるのか分からねえみてえですが、首を長くして待ってやす」

「……今度のは本当に余計なことだぞ」

「それはすいやせん、坊ちゃん」


 そんなふうに言葉を交わしてから笑い、他の奴らとも話をしてから俺は城を離れ、花園へと戻っていった。

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