第405話情報集めのために
「え゛——」
フローラなら頼んだら聞いてくれるだろうと思っていただけに、こうもはっきりと断られるだなんて考えもしなかった。
そのため俺の口からはなんか変なうめき声のような声が漏れてしまったが、それすら気にならないくらい衝撃的だった。
……これが、反抗期か……。
「だってそれって一人でずっと起きてないとでしょー? 朝も夜もずーっと。フローラだって夜は寝たいもーん!」
確かに植物だって夜……というか光合成をしていない時は寝ているって聞いたことがある気がするけど……。
「いやまあ、それはわかるけどさ、頼むよ」
「む〜、いや〜!」
だが、改めて頼み込んでも断られてしまった。………………どうしよう。
「フローラ、なにか条件とかありませんか? これをしてくれたら手伝っても良いというものは?」
「じょうけん〜? う〜ん……」
そんな困り果てた俺に助け舟を出すようにソフィアがフローラに話しかけると、フローラは何かを考え込むようにして首を傾げながらその場をふよふよと適当に移動し始めた。
そして、ソフィアの言った『条件』が決まったのか、パッと明るい顔をして俺へと顔を向けた。
「なら、パパも一緒にいて〜。それで一緒にお話ししたり遊んでくれたら良いよ〜。それならみんなが寝ちゃっても楽しいと思うから〜」
俺が一緒に話て暇つぶしに付き合えってことか? まあそれくらいならフローラの能力を使う条件としては破格すぎるもんだが……
「よし、なら決まりだな。なんか良い情報待ってんぜ」
と、俺が返事をする前に親父は席から立ち上がり、他のメンバーたちもそれに続くように立ち上がって部屋の外へと向かって歩き出しやがった。
「ちょっ、待てよ! 何だってもう終わりな雰囲気出してんだよ!?」
「いや、つってもよお。俺たちにはどうしようもねえことだし、お前に任せるっきゃねえじゃねえか。それに、もう話すことは終わっただろ? あとはここで迎え撃つにあたって設備や人の準備計画についてだが、これは俺が決めるような話だ。あとは金関係でそこのメガネな。お前に通すとしても、大まかな計画が決まってからの話だ」
「それは、まあ……」
部屋を出て行こうとした親父たちを慌てて止めるが、言ってることはその通りなんだよな。ぶっちゃけ親父たちがいても意味ないってのはその通りだし、今度の動き方の方針は『ここで迎え撃つ』ってもう決めたんだから細かい話は防衛担当の親父が考えるべきだ。
俺は最後にその計画を見てもう一回話し合って決めるだけ。つまり、今はやることがない。
「それに、フローラはお前の娘だろ? ちったあ話し相手になってやっても良いんじゃねえのか?」
その言葉も間違いではないが……
「あんたは自分の息子の話し相手になったことがあったかよ」
この息子の話し相手をまともにしたことがない親父に言われても微妙な気分になるぞ。普通に会話をしてはいたが、無駄話とか無意味な雑談とか、食事の時とか一緒に行動するときなんかはしていたが、そのためだけに一緒にいるってことはなかった。
「あっただろ。……いや、どうだったか? まあ、多分あったはずだ」
「ねえよ」
親父が首を傾げながら考え始めたので、俺はすぐに返事をして否定してやった。
「そうか? まあだとしても、そりゃあお前が求めてこなかったからだろ」
「まあ、そりゃあそうだけどさ……」
だって赤ん坊の時点で大人の自我はあったし、ちゃんと話せるようになってからはやりたいことも色々とあったから、無駄に雑談なんかで時間を使ってる暇なんてなかった。
だから俺から話に行くことはしなかったってのは確かだ。
「それに、暇つぶしの稽古くらいは付き合ってやったはずだぞ」
「俺の暇つぶしじゃなくて、親父の暇つぶしだけどな」
「遊んでやったことには変わりねえだろ。——ってわけで、これから奴らがこっちにくるまでの間……まあ一ヶ月くれえか? 頼んだわ」
そう言って親父は部屋を出ていき、婆さんとエドワルドも口々に声をかけてきたが止まることなく部屋を出て行ってしまった。……くっ、薄情な奴等め。
「あの野郎、勝手に決めやがって」
親父は一ヶ月と言っていたが、場合によってはそれよりももっと長くなるかもしれない。その間ずっととなると……。
そう考え、俺は背もたれに寄りかかって天井を見上げ、息を吐き出した。
「パパ……フローラとおしゃべりするの嫌いなの?」
俺がそんな態度を見せたからだろう。フローラは少し寂しそうに表情を歪め、問いかけてきた。
「いや、嫌いってわけじゃ……あ〜、うん、よし。そうだな。たまにはゆっくり話でもするかぁ」
どうせ、やらないといけないことがあるわけでもないし、植物の改良やらなんやらはフローラと一緒にいてもできるんだ。そうして適当に遊びながらダラダラ話をして過ごすのも、まあ悪くないだろ。
「いいの!?」
「ああ。その代わり、情報集めはちゃんと任せたぞ」
「うん!」
「わかったわ!」
「………………んん?」
なぜかフローラにかけたはずの俺の言葉に対して、二人分の返事が聞こえてきた。
最初はソフィアかとも思ったが、どう考えても返事の内容も声の質も違ったし、ソフィアの方を向いても首を振るだけだったので違った。
では誰が返事をしたのか。
なんか嫌な予感がした俺は眉を寄せながら周囲を見回したのだが、部屋の入り口にはそれまでいなかったはずのリリアが立っていた。
さっきの返事で予想はしていた。していたが……
「なんでお前がここにいる?」
「フローラが体を捨てたからこれは何かあったと思ってきてあげたのよ! 嬉しいでしょ?」
「いや、別に嬉しくはないな。……ああ、でも体は持ってきてくれて助かる。ありがとう」
そう言いながらリリアの後ろにいたエルフ達から、フローラの体を受け取ると、フローラはその体の中へと戻っていった。
……フローラの依代を持ってきたエルフ達がなんか感激した様子でいるけど、まあ御神体とか神様そのものを持ってたようなもんだし、そうなっても不思議じゃない、のか?
「どういたしまして! それよりも、これから敵が攻めてくるんでしょ? それも、『魔王』退治しに来た英雄達が! そんな奴らを相手にするなんて、すっごい『悪』じゃない! わたしが参加しないわけないでしょ! それに、わたしが参加しなかったら盛り上がりにかけるってもんでしょ」
左手は腰に置きながら堂々と胸に手を当てて宣言した。
だが……
「いや、別にいなくてもいいんだが?」
「なんで!?」
ぶっちゃけこいつの役割って前線で戦うことじゃないんだよな。守りと治癒だし、後方にいるべき存在だ。一緒に戦ってもらうのはアリだろうが、それはあくまでも同じ戦場で、ってだけで肩を並べて戦うってわけではない。
それに、これからやるのは戦争だ。盛り上がりなんて必要ない。ただ順当に守って、ただ相手を潰す。それだけだ。物語の世界では盛り上がりはっ重要だろうが、現実としては盛り上がりなんてもんはいらないんだよ。
ついでに言えば、ここにやってくる『魔王討伐軍』はあくまでも建前で、実際には普通に侵略者だから、それを倒したとしても『悪』らしいのかって言われると微妙だ。
「めぎょっと活躍するんだから! だからお願い!」
めぎょってどんな擬音だ? 目をギョッとさせるほどの略?
まあそれはともかくとして……
「活躍なら前の魔王戦でしただろ」
「そうだけどお〜。いいでしょ〜。もっと活躍したいのよお〜!」
映画のゾンビのように手を前に突き出しながらフラフラと俺に向かって歩いてくるリリア。
いつものことなんだが、これがエルフのお姫様かと思うと残念すぎてなんだか優しくなれる気がする。
……まあ、今後の俺の予定といったらフローラと話をして情報集めをしてもらうことなんだが、正直なところ俺だけで何時間も話し相手になれるのかって言われると微妙だし、場繋ぎとしてリリアを使うのはアリと言えばありかもな。
「はあ……。まあ今やることなんてそんなにないけど、それでもいいなら手伝わせてやる」
「ほんと!? わーい!」
両手をあげて喜んだリリアだが、何かに気がついたのかハッと動きを止めると咳払いをした。
そして……
「ふっ、そこまでいうのなら仕方がない。このわたしが手を貸してやろう」
「あ、結構です。お引き取りください」
「なんでえ!?」
「なんでも何も、元々呼んでないし。お前が手伝いたいから手伝わせてやるだけだろ?」
「そ、そうだけどお……! もっとなんか違うこといってもいいじゃないの〜」
言う事ねえ……。うん、何にもねえな。
「まあ、お前も参加ってことで。とりあえず、今日の夜から調査開始だから、夜に聖樹の前に集合な」
「ま、任せなさぎっ——! い、いちゃい……」
舌を噛んだのか……。やっぱりいつものことだが、締まらないなぁ。まあある意味ではそれがこいつのいいところとも言えるけど。変に緊張しなくて済む。
「ってか、今更だけど夜でも大丈夫なのか?」
「なにが〜?」
「いやほら、さっき夜は植物たちも寝てるっていってただろ? そんなんだと言うこと聞いてくれんのかなって」
「だいじょ〜ぶ。フローラと繋げればみんな起きててくれるから!」
「そうか。じゃあ夜はよろしくな」
「うん!」
そうして俺は会議室を出ていき、夜に備えるために寝溜めするべく自室に戻ることにした。
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