第243話開戦早々の攻撃
そんなわけでその日は警戒をしているだけで終わり、翌日。
「——奴ら早速攻撃して来やがったぞ!」
朝日が登ってあたりをまともに見ることができるようになった頃、特に何か降伏を求めたり話をしたりと言うこともなく敵軍はこちらに向かって突っ込んできた。
そして突っ込んできた兵達は、砦にたどり着く前に魔法や弓などの遠距離攻撃を飛ばしてきた。
侵略して来たんだからないのは当たり前かもしれないんだが、急展開すぎやしないだろうか? もうちょっとなんか話とかあってもいいんじゃないかと思うのは俺だけか?
接近からの即攻撃ってのは、なんかどうにも盛り上がりにかけるっていうか、これから戦争をするぞ! って切り替えがな。あんまりうまくいかない気がする。それでも潰すことに変わりはないけどさ。
「初撃は問題なく持ち堪えたか。流石は北のボスが揃えた戦力ってところか?」
敵から飛んできた攻撃だが、それらは外壁にぶつかるものもあれば、外壁の上にいる警備の者たちによって防がれていた。エドワルドが用意しただけあって、警備の腕はかなり高い。
「んなこと言ってる場合じゃねえって。どうする? このまま二回三回も食らってると守りだって抜かれるぞ?」
「敵が次の攻撃の準備をしています!」
「あー、じゃあまあ、面倒だけど対処するか」
このままでもしばらくは大丈夫だとは思うんだが、カイルの言うように何度も攻撃を受けていればそのうち綻びが出るかもしれない。
そうでなくても、仮に守り切れたとしても攻撃を受ければ壁が傷つき、その分の補修費とかもかかるんだから、さっさと片付けることができるならそうしたほうがいだろう。
「っと、その前に城壁を開けてくれ。戦ってんのが見えないと俺の宣伝にならないだろ」
今回の戦いは『俺』と言う存在がこの街のトップとして相応しいことを示すための宣伝も兼ねている。
なので、街の中から見えない状態で倒したところで意味がないのだ。
「開けてきました!」
俺の言葉を聞いたベルすぐに行動を起こした結果、門は数分と経たずに開き、街の中から敵軍の様子が見える状態となった。
そして、その頃には敵方の準備も終わったようで、第二射を放とうとしているのが分かった。
「《案山子》」
なので、敵のど真ん中に挑発作用のある案山子をいくつも発生させた。
「な、なんだあ!?」
「お前ら何をしている! どこを狙っているんだ!」
「攻撃が吸い寄せられる!?」
残念。吸い寄せられてるわけではないんだな。ただお前たちが無意識のうちにそっちを狙ってしまうってだけで。
敵軍の最前衛にいた奴らの放った攻撃は、壁と敵の間に発生した案山子に向かって飛んでいき、その後方にいた奴らは視界内に入った案山子へと攻撃をする。
だが、前にいた奴らはいいとしても、味方の軍の中に発生した案山子を狙った奴らはちょっと大変だろうな。あとその周りにいた奴らも。
敵を攻撃するための本気の攻撃が、味方の陣の中で炸裂するんだ。大変じゃないわけがない。
ぶっちゃけこれだけで戦いが終わるんじゃないかと思わなくもないが、まあ攻めて来たんだから徹底的に潰しておこうかな。
「《天地返——あー……どうしよっか」
と思ったんだが、俺はふと思いついたことがあって攻撃の手を止めた。
「どうかいたしましたか?」
「いや、敵の大将というか指揮官は生捕にしたいなー、と思ってな。使うかわかんないけど、居たら居たで何かには使えるだろうし」
使えるかどうかはわからないけど、今のところはこっちが優勢な状態だし、狙っても構わないと思う。
それに、本当に全滅させちゃって良いのか、と思い始めた。
敵を倒すことは決定事項だが、これだけの数の人が死んだらなんか色々と影響が出てきそうな気もするんだよな。
「ああ、まあなんかには使えるだろうな。でも、生捕なんてできるかこれ?」
「とりえず先頭と両脇の奴らを潰せばいいんじゃないですか? 多分いるとしたら中央の列、および後方の陣だと思いますし」
「数を減らしてから考えるってか? でもそれしかないか」
そうだな。元々生捕は計画に入ってなかったわけだし、そもそもどこにいるのかもわからないんだ。運良く生き残ったら程度でいいだろ。
敵をどのくらい殺すのかってのは……まあ敵が攻めて来なくなったらそれでいいか。半分も倒せば逃げ帰ってくだろう。
「ヴェスナー様。敵が再び攻撃を放とうとしています」
「ん——《天地返し》」
ベルの言葉を受けて、俺は改めてスキルを発動させた。
「ぎゃあああああ!」
「じ、地面がああああ!?」
俺のやったこととしては手を向けてスキル名を口にしただけだが、起こった現実としては、まあ酷いものだ。
案山子を攻撃したことで同士討ち状態になり、混乱した敵の足元の地面が浮かび上がり、それが一定の高さまで持ち上がるとくるりと反転し、落下。いつもの光景だ。
たった一度のスキルで、先頭を進んでいた部隊はほぼ壊滅。ひっくり返り、荒れた地面のせいで後に続いている奴らはまともに前に進めなくなった。
進むとしたら、その場所を避けるか、ゆっくりと荒れた地面に気をつけて進むかのどっちかだ。
「ばかな! これだけ離れているのにこれほどの規模の攻撃だと!? こんなことができるのは『地割り』か『大地母神』くらいではないのか!?」
と、そんなことが起こって混乱した敵軍の様子を見ていると、不意に敵の叫びの一つが耳に届いた。
「どうにか勢いは止められたな、っと」
「ねね、わたしの出番は?」
「あると思うか? あの惨状を見て?」
「……せっかく見せ場があると思ったのにぃ……」
リリアは落ち込んでいるが、この状況でその反応ってどうなんだ? 人死にを見てその反応で済むだけこいつもズレてるよな。
いや、エルフたちは元からこんなんか。なんというか、『他者の死』と言うものに対して距離が遠い気がするんだよ。多分植物たちの影響が混じってるんだろうけどな。
植物たちは種族が死ななければ個が死んでも問題ない、みたいな考えだし、言うなれば他者と自身の境が曖昧なんだよな。他者と言っても本当にまるっきり他人ではなく仲間に対して限定だけど。
それにまあ、その分仲間であれば他人のことも自分のことのように考えるから仲間思いではあるんだけどさ。
「……ところで、大地母神って誰のことかわかるか?」
さっき聞こえて来たうちの片方——『地割り』ってのは知っている。この国に所属している第十位階の強者。この国には全部で八人の第十位階がいるとされている。まああくまでも公式には、ってだけで実際にはもう少しいるだろうけど。俺だってそうなわけだし。
で、だ。その『地割り』ってのは、『八天』なんて呼ばれている国に所属している八人の第十位階の一人だ。
だからそっちはいいとしても、もう一人の『大地母神』の方は全く知らない。誰だ? 誰かが新しく八天に加わったのか?
「さあ? でも異名なんだから冒険者じゃないか?」
「でも、そんな異名の冒険者なんて聞いたことないよ?」
俺の疑問にカイルが答え、その言葉にベルが疑問を口にした。
二人が知らないとなると、冒険者じゃないんだろうか?
「……あなたもご存知の方ですよ」
「? ソフィアは知ってるのか?」
「ええまあ、はい」
しかし、そんな中でソフィアだけが何かを知っているような様子を見せた。
だが、その様子はなんというか、なんとも微妙な表情をしている。言おうか言うまいか悩んでいるような、言っていいのか悩むようなそんな感じ。
なんか歯切れの悪い感じだな。でも俺の知ってる人物か……
「地面を操るんだから『土魔法師』だろうし、大地母神なんて大仰な呼び方されるってことは第十か第九位階、最低でも第八位階にはたどりついてる人だろ? で、〝母〟神ていうくらいだから女で……」
……なんかなあ。割と最近、ではないけど、少し前にその条件に当てはまるような人にあったような気がしないでもないんだよなあ。
「……なあその人って貴族の出身だったりしないか?」
「しますね」
「ついでに今は王族入りしてたりしないか?」
「してますね」
「……あと、割と最近になって生き別れた息子と再会したりなんて……」
「しましたね」
oh……お母様、なんでそんな呼ばれ方してんですか? 俺も人のこと言えない呼ばれ方してっけどさぁ……。
「今の話聞いてっとその人って……」
「ヴェスナー様のお母様ですか?」
「はい。そう呼ばれ始めたのは数年ほど前のようですが。貴族の娘として育ち王族入りしましたが、その当初はさほど位階が高かったわけでもなかったようです。ですが、その後の十年未満という早さで第八位階にたどりついた者として、この国の敵対勢力からは有名だそうです。あと数年もすれば確実に第十位階になるだろう、と。私も砦に滞在している時に知ったのですが、少なくとも貴族家の当主は知っていてもおかしくない、というよりも知っていて当たり前かと」
ああまあ、世間一般の奴らは一日十回とか二十回とかしかスキルが使えないんだったな。頑張っても五十回。
そんな奴らからしてみれば、毎日スキルを使ったところで十年じゃ第二位階くらいしか上げることはできないか。
それなのに、たった十年で第八位階。元々が貴族の娘として蝶よ花よと育てられて来たことを考えれば、その後の成長は驚くものだろう。知られていてもおかしくないか。
「犯罪者どもに告げる!」
なんて話をしていると、敵陣からなんか聞こえてきた。
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