第184話その中身を全部買おう!
「……どう見る?」
「嘘ですね。クジについて聞かれた瞬間、《敵意感知》のスキルが発動しました。これは主人に敵意がないと発動しませんから」
先ほどの店から少し離れた場所で俺は徐に問いかけ、ソフィアは迷うことなくそう言った。
ソフィアは『従者』の天職が第三位階に上がったことで新たなスキルを覚えていた。それに加え、パッシブスキルの方もな。
そのスキルは《敵意感知》。主人と定めたものに敵意を抱いたものを知覚することができるというスキルだ。
それが発動したってことは、あの店主は俺に敵意を抱いたってことだ。なぜだ? クジについて聞いた程度でそんなスキルが発動するほどの敵意を抱くもんか? そんなちょっとしたことで敵意を抱くような奴が、こんな大通りで店なんてやってられるもんか?
いや、ありえない。あるんだとしたら、それは詐欺でもしているからってことになるだろう。
「フィーリアは?」
「同意見です。あれからは魔力を感じませんから」
俺はソフィアの言葉に頷いてからフィーリアにも問いかけたのだが、お互いに見抜いた方法は違っても意見は同じのようだ。
何かしらの魔法の効果がかかった品物ってのは魔力を宿すらしいからな。魔法師であるフィーリアにはわかるんだろう。それなのに魔力が宿ってないってことは、まあ偽物ってことになるな。
そしてその二人の意見は俺も同じだ。つまりあの店は詐欺をしているということになる。
「そうか。じゃあ、〝やっても問題ない〟わけだな」
「やる、とはあの店を潰すつもりで?」
「ああ」
「ですが現状なんの証拠もありませんよ? クジ運がなかったと言われればそれまでですし、今から衛兵を呼んだところでその気配があれば細工を施すことは可能でしょう。あの賞品に関しても盗難対策のレプリカと言われればそれでおしまいです。ああいった手合いはいざ逃げるとなったら想定外の素早さや狡知さを発揮するものですから」
「知ってるよ。そんな輩の巣窟で暮らしてきたんだから」
フィーリアは眉を寄せて注意してきたが、そんなもんは言われるまでもなく理解してる。何せあんな小物よりももっとひどいのが跋扈してる街で育ってきたんだから。知らないわけがない。
「ただまあ、やろうと思えばできることもある」
そう言いながら俺は先ほどのクジを行なっている店に向かって歩き出した。
「まいどどうも!」
ちょうど一人客がいたようで、その者と入れ替わりに店主へと近づいていく。
「おう。なんだ今度はお前がやんのか?」
「ああ。これがあまりにもうるさいんでな」
俺は未だに不満そうな顔をしているリリアを指さして苦笑した。すると店主もなんの後ろめたさも感じていない様子で笑った。
「それに、残り少ないんだろ? まあ残りの量にもよるが……なら可能性は百分の一くらいで当たるだろ。おっちゃん。クジはその中に入ってるので全部だろ?」
「ああまあ、こん中に入ってんので全部だけど」
「そっか。なら——」
ドン、と音がするくらいに中身の詰まった袋をポーチから取り出し、店主の前に出す。
「——その中身全部買わせてもらうぞ」
「…………は?」
俺の言葉が理解できなかったのか、店主の男は惚けたような声を漏らし、呆然としたが、俺はその隙にくじの入った箱を奪い取り、それを店主から離れた地面に置いてひっくり返した。
「じゃあ全部中身を見るか」
「お手伝いいたします」
クジの紙が地面にばら撒かれ、それを一つ一つ手に取って確認していく。ものすごくめんどくさそうな作業だが、まあソフィアも手伝ってくれるわけだしすぐ終わるだろ。
なお、フィーリアは周囲の監視をしている。仲間がいたりして何か問題があるといけないからな。
「おっ、バカっ、てめえやめろ!」
この段階になってようやく気を取り直すことができたのか、店主の男は慌てながら俺たちの方へと駆け寄ってきたが、それには俺が立ちはだかって邪魔をすることで対処し、その間にもソフィアは地面に落ちた紙を開いて確認していく。
「ん〜? なんだなんだあ! みんなの前でクジを全部見られちゃ困るってのか? もしかして、この店は当たりなんてひとっつも入れてないんじゃないのか?」
「ばっ、んなわけねえだろうが! 何言いがかりつけてやがる!」
あえて煽るように言ってやると、男は顔を赤くして怒鳴りつけてきた。そんなことをしてしまえば……ああほら、周りの通行人たちも気になったのか、なんだなんだと俺たちを囲うようにしてこちらのことを見始めた。
だが男はそんなことに気づいていないようで、俺は気づいているが無視して話を進める。
「じゃあ、いいよな。金は払うっていってんだ。全部買わせてもらうぞ」
「ざっけんな! んなこと許可するわけねえだろ!」
「なんでだ? せっかく全部買ってやるって言うんだから、店側としては嬉しいんじゃないのか? どうせクジなんて全部売れることなんてないだろうし、俺たちが全部買ったほうが店側としてはお得だろ?」
これが食べ物系だったら全部売ることはできないってのはわかる。ああいうのはただ品物が売れればいいってだけじゃなく、リピーターを捕まえなきゃいけないんだからない。毎日来るかもわからない一人に百個売るよりも、ほぼ毎日来てくれる百人に一つづつ売ったほうがいい。そうすれば中には二個三個と買ってくれる客も出るだろうし、紹介してくれる客もいるかもしれないんだから安定と将来を考えると、一人に在庫全部を売るってのはナシだ。
だが、クジはそうじゃない。あの手のものは売り切れごめんでいいはずだ。リピーターや客の紹介なんて期待していないだろうし、元々全部のクジを売り切ることはないだろうってつもりで用意してるんだから。
「でもそうか。認めないってんなら力尽くで奪うか? そんなことしたらそれこそ自分は詐欺をしてますって言うようなもんだと思うけど?」
男は「うぐっ」っと声を漏らすとそれ以上何かをいうことはなくなり、打開策でも見つけようとしているのか周囲に視線を巡らせるが、結局何もできないままソフィアによる紙の開封が行われていった。
「——で、結局当たりのクジがないわけだけど、どういうことだ?」
全部開いてみたのだが、結局クジの中には当たりなんてなく、せいぜいがどこぞの工芸品だとか干し肉や塩なんかの食料くらいだった。
「そ、それは、そこにあるのが全部じゃなかったってだけで……」
「でもお前、最初に言ったよな。そこの中にあるのが全部だって。その言葉を聞いてた証人だっているぞ」
「そ、そんなのお前らの仲間ってだけじゃ信用できねえだろうが! そいつが嘘ついてるかも知れねえんだからな!」
「ああ、それはないな。何せこいつ、あの城に住んでるお嬢様だから。こんなところで、お前みたいなのを相手に嘘をつく理由がない」
フィーリアは「なぜバラすんだ」とでも言いたげだが、これが一番手っ取り早いんだ。許せ。
「何言って……は? あの城? あの城って、領主の?」
「そうだ」
「それじゃあ、おう……王女様?」
「そうだな。お前は王女の友人に詐欺を働こうとしたわけだ。もし違うってんならそれなりの謝罪はするが……なんか言い逃れはあるか?」
そう言うと男はがくりとその場で膝を突き、うなだれてしまった。
しばらくして人だかりを注意しようと現れた衛兵に事情を話し、男は捕まえられていった。
そしてクジにかけた金は王女特権で自分たちの分だけすぐに回収させてもらった。
「うわーーん! あの仮面欲しかったのにいーー!」
仮面が偽物だとわかってリリアが騒いだのでちょっとめんどくさいことになったが、レーネがなんとか宥めて落ち着かせることができた。やっぱりお前と出会えてよかったよ。出会えたことを神に感謝だな。
ってか、やっぱこいつ仮面が欲しかったのか。だがお前二枚も持って何に使うんだ?
「二枚も持ってどうするのですか?」
そんな俺の心を代弁するかのようにソフィアが問いかけるが……
「え? だって二枚あればみんなで一緒につけることができるでしょ? やっぱり秘密組織とか悪の集団って顔を隠す道具は必要だと思うのよね」
みんなでって、そりゃあ俺も仮面をつけろってか? そんなのお断りだボケ。
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