トラック3 聖剣捜索、騎士と博士

プロローグ

「全力で来い」

「押忍!」


日も高く昇ったある日、人気のない広場。

そう言って向かい合うのは、ジンとキョウヤ。


「よし……始め!」

少し離れて叫ぶのは、バイセン。

両者とも、その掛け声を合図に聖剣を構え――駆け出した。

一体、どういう事であろうか。

まさか、仲間割れ?


「ジンさーん、頑張ってー!」

否。そうなら、バイセンの傍らでロゼッタが声援を送るはずがない。


「随分やるようになったな、ジン」

「まだまだっすよ!」

剣と剣とがぶつかり合い、火花が飛び散る。

だがそこには、命のやり取りの血生臭さは感じられない――むしろ、スポーツのような爽やかさすらある。


そう、これは模擬戦だ。二人は、互いを高めあうために特訓をしていたのだった。


「おーし、そろそろ……!」

しばらく打ち合ってから距離をとると、ジンがディスクラッシャーのカバーを開き、メモリアレコードを装填した。もちろん、変身のためだ。

この模擬戦には、ジンが今より『ダイナソー』のメモリアレコードを制御して戦えるようにするという目的もあった。

万が一暴走を始めた場合、一人では対処できない。そのため、キョウヤが必要なのだ。

聖剣使いが二人と言う状況下だからこそできる特訓であった。


「……あれ?」


しかし、ここで一つ問題が起こる。

意気揚々と変身を行おうとしたジンだったが、いつまでたってもその姿は変わらない。

顔をしかめ、何度もレバーを引く彼。

「どうした?」

その様子に気づいたキョウヤが駆け寄り、尋ねる。

ジンはディスクラッシャーを見せながら、言った。

「何か、空回りするだけでちっとも読み込んでくれないんすけど……」

「ちょっと見せてみろ」

その言葉に、剣を手渡すジン。

「あー、これは……お前、どんだけ無茶したんだ?完全にイカレてるな」

ディスクラッシャーを受け取ったキョウヤは、ため息交じりに呟いた。

「えっ、そんな……ちょっと返してください」

ジンはディスクラッシャーを再び手に取り、レバーを引いてみる――すると。


バキッ


「あ゛っ゛」


明らかに、よろしくない音が響いた。


ジン、顔を下げて沈黙。その様子に頭を痛めるキョウヤ。

次第に、ジンはプルプルと肩を震わせ始め――


「う゛あ゛ぁ゛!ど゛う゛し゛ま゛し゛ょ゛う゛~!」


鼻水と嗚咽の混じった汚い声を出しながら――泣きついた。


「どうしたもこうしたもないだろ……いっぺん本部で診てもらえ」

「でもぉ~!」

「仕方ないだろ?……ハイヴァンドが出たら俺が何とかするから。さっさと行ってこい」

「うぅ……そうします……あぁーっ、もう……」


鼻水をすすりながら、渋々返すジン。

彼がこんなにもぐずる理由は、果たして――?

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