みんな、わからないでいるんだ。
ということも、分からないことの中の一つなのかもしれなくて、僕はもう何も言えない。無知は余りに広がりすぎている。まるで宇宙のように、際限なく膨張していくのだ。知らないということもそうだが、知っているということもまた、無知の中に含まれて、僕はもうどこにいて、何を知っているのか分からなくなってしまいそうだ。
いや、特段知っているものはないのだ。勉学もろくにこなさなかった人間に、知識など身に付けられるはずもない。僕が「分かっている」と言えるような発見は、古代ローマの哲学者たちによって既に暴かれているのだ。だから、僕はどれだけ文章を書き連ねても、このままでは、そのローマ人の発見に泥をなすりつけるようなのと変わらないものになるしかないのだ。
でも、そこには僕にしか表現できない何か素晴らしいものがあるかもしれないと、そう考えてみても、そこにはまた別の作者の影が乗っかっていて、僕の表現がそのまま閲覧されることはないのだ。そうやって、僕の文章は、特定の透かしによって発見できる暗号文のようになるだけだ。そう、今こうして連ねているものだって、誰かの文体と似通っているのだから……。
じゃあ、僕は何もするべきではないのだろうか。同じ位置で、同じように突っ立って、放っておかれた電柱みたいに、草に巻かれて廃れていくだけで、本当にそれでいいんだろうか。本当に、それでいいんだろうか。
誰も僕を止めてはくれない。誰も僕を動かしてはくれない。僕もまた、誰も止められない。誰も動かせない。動いているのは、いつも自分だ。そのことを、みんなわからないでいるんだ。ずっとそうしていたはずなのに、わからなくなってしまうんだ。そうやって世の中から消えていくのなら、その間にできる事なんていくらでもあるわけだろう。それでも、それでもただ消えてしまうのか。それが自分なのか。
それさえも分からないでいるから、僕はこんな事をしているんです。
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