誰でもできるって事は

 誰よりも上手くならなければならないのだ。見かけ上の敷居が低ければ低い程、実際の敷居はむしろ増すばかりなのである。ましてや、文章を連ねてお金を得ようとするなどというのは、まさしく見かけ上は敷居が低い物事なのだから。


 そして、僕はそこまで自分を追い込む事はできないだろう。日銭を稼ぐ事を諦めてまで、日常的に、あるいは一秒も無駄にせぬ様に、文章と向き合って生きていくなどというのは、最早仙人の境地の出来事であって、そうでなくても酔狂で、ただ好き好んでいるだけでは続けられない行為であると。


 そうするくらいなら、真面目に働いている方が、生きていく分には不足もないし、税金だって払えるし、それによって公共施設を利用する大義名分だって得られる。その方がいいに決まっている。自分を追い込むなどというのも、そうやって定年まで働き終えてからでもいいだろうし、そこに至ってから得られる見地だってあるわけだろうから……そして、そうやって真面目に働き通すなんていうのは、誰にでもできる事ではないのだから。


 文章なんてのに価値がないと、そんな事を言いたいのではない。僕が言いたいのは、そうやって博徒になるよりも、もっと良い道というものは他にあって、それは例え夢を諦める様な道であったとしても、それに見合うだけの幸福は別に用意されているという事だ。そうでなければ、夢を捨てる価値などありはしない。だから、そう思って生きていくしかないわけだから、それだったら夢を追っている方がいいのかもしれない。その方が楽かもしれない。そう考えた時に、今回の書き出しについて思いを馳せてほしいものだ。


 働くというのは、単純ではないのだ。そんな事は、学生のうちにだって実感する事だろう。なら、それを挫折した人間に、それよりも辛い道を進んでいく事を進めるのは良い行いではないと言える。それだけは間違いない。後は自分で決断する事だ。そしてそれは、あなたにしかできないことなのだから。

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