第40話 大崎さんと夢幻さん
「ホタル。グランドハイアットのレストランで席を用意すると言われたけど、ドレスコードってあるのか?」
「スマートカジュアルで大丈夫ですよ。でも船の中に服とか全部置きっぱなしでしたね」
「あーそうだな。ジョンソン船長は連絡つくのかな?」
「どうでしょう? アンドレ隊長経由でなら連絡先を教えてもらえないですか?」
「そっか。じゃぁちょっと連絡してみるな」
俺は、ギャンブリーのアンドレ隊長にイリジウム電話で連絡を取った。
『隊長、アズマです。ジョンソン船長に連絡をつけたいんですが、番号とか解りますか?』
すぐにアンドレ隊長は、ジョンソン船長の連絡先を教えてくれた。
その時についでに質問もされた。
『アズマ。サメ型モンスターの話は聞いたか?』
『はい。日本の政府筋から聞きました』
『海は。モンスターに支配されるのか?』
『まだ、解りませんが。今までと比べれば、危険はありそうですね』
『海だけで済むんだろうか? 陸地でもモンスターが出現し始めたりすれば、平和に慣れた地球の人々では対処ができるとも思えないが』
『そうですね。今は隊長が地球人としては、モンスター討伐の第一人者ですから、ハンターの養成とかを考えなければいけないかもしれないですね』
『スキルの問題とかもあるから、この大陸の人たちを雇った方が早そうだな』
『エルフや獣人のハンターを雇っていけば、きっと大人気ですよ』
『アズマはお気楽だな……』
『エスト伯爵領を、効果的に利用すれば、ある程度の対処は出来るようになると思いますよ』
『それでも、何とかならないときは、アズマがなんとかしてくれるのか?』
『ご期待に沿えるよう、頑張っては見ます』
『ふん。それなら大丈夫だ』
『二、三日したら一度そちらに戻りますので、その時にまたゆっくりお話ししましょう』
『わかった』
とりあえずジョンソン船長の連絡先は解ったので、早速連絡を入れた。
『ジョンソン船長ですか? アズマです』
『おお、ミスターオグリ。連絡を待っていたよ。今は東京か?』
『はい、そうです』
『私は相変わらず『ダービーキングダム』と共に横浜に居るんだが、君とミスアララギの荷物は横浜港の会社事務所で預かっているよ』
『そうですか。それでは今日とか伺っても大丈夫ですか』
『大丈夫だ。横浜港へ着いたらまた連絡をくれれば、私が立ち会おう』
『助かります。二時間以内くらいで伺いますので』
『了解した』
電話を切って、ホタルに声を掛ける。
「横浜港へ行くぞ」
「はーい」
新幹線で横浜駅まで行き、タクシーで横浜港に行くと一時間程で到着できた。
ジョンソン船長に再び電話をすると、すぐに迎えに来てくれた。
「早かったな。無事で何よりだ」
「船長たちこそ、モンスターに襲われたって聞いた時には、凄く心配しましたよ」
「あれは、私もここだけの話、覚悟を決めたよ」
「でも、無事に再会できたことを嬉しく思います」
「ダニエルからも、話は聞いているがアズマは随分と成長できたらしいね」
「その辺りは、どこに耳があるかわからないので、今の所はシークレットでお願いします」
「了解だ」
「そう言えば、ダニエルさんは復帰されるのですか?」
「彼の提案で『ダービーキングダム』は今後、日本とカージノ大陸を結ぶ航路をメインに運行させていく予定だよ。カージノ王国のエスト伯爵様と連絡を付けて話を詰める必要はあるがね」
そう言って、ジョンソン船長はウインクした。
「エスト伯爵なら、きっと望みをかなえてくれるはずです。カージノ王国のシリウス陛下やポーラ王女とも懇意にしているようですし」
「そうか、出来るだけ早く実現させたいものだな」
「モンスターに対しての備えはどうされるつもりでしょうか?」
「その辺りが、少し不安要素だが、カージノ王国の腕利きのハンターは、護衛で雇えないだろうか?」
「その辺りも、冒険者ギルドに依頼を出せば問題は片付くと思います」
「なるほどな。カージノで生活をしてきたアズマとホタルの意見を聞けると、非常に参考になる。ダニエルも後三日ほどで、アメリカ本国から日本へ移動できるそうだから、彼が戻って来たら一度一緒に食事でもどうだね」
「はい。喜んで伺わせていただきます」
俺とホタルは、大量の着替えなどを受け取り、東京へと戻った。
「先輩、綺麗にクリーニングしてあって助かりましたね。でも……私の下着までクリーニングしてあるのが、微妙です……」
「そ。それは……」
とりあえず、大量の荷物はインベントリに収納して、転移で東京に戻った。
俺もホタルもクリーニングしてあったスマートカジュアルのドレスコードにあうスーツに着替えて、グランドハイアットに向かった。
途中でホタルが、本屋に立ち寄り夢幻さんの著書を三冊ほど買い求めていた。
グランドハイアットに到着すると、大崎さんへ電話をする。
『もしもし小栗です。今ホテルに到着しました』
『おお、わしらも既に一階のカフェでコーヒーを飲んでおったところだ。少し早いがもうレストランへ向おうか』
『そう言えば何も言って無かったが、中華で構わんか?』
『はい!』
一階のラウンジの方を見ると、大崎さんが三十代の男性と一緒にこちらに向かって来るのが見えた。
「先輩! 生『夢幻』さんです!」
「ホタル……恥ずかしいから、あんまりミーハーっぽくするなよ?」
「大丈夫ですって、いきなり抱きついたりはしませんから」
「すげぇ心配だ……」
大崎さんと夢幻さんが俺達の前に来たので挨拶をした。
「大崎さんお久しぶりです。夢幻さん、はじめまして!
「小栗君。元気そうで安心したよ」
「小栗さん。蘭さん、はじめまして。ライトノベル作家の夢幻です」
「俺もホタルも夢幻さんの作品のファンでして、今日は著書も三冊ほど持って来ておりますので、後でサインをいただいても構いませんか?」
「それは光栄です。サインくらいでよろしければ、いくらでもさせていただきますよ」
「ほう、私は夢幻君の著書はまだ読んだことが無かったのだが、随分と人気のようだね」
「読者層は偏りますけど、このジャンルでは、そこそこ人気ではと思っています」
「早速、六階のレストランへ向おうか」
大崎さんの音頭で、レストランへと向かい、とても高級そうな中華料理を堪能させて貰った。
イセエビのチリソース炒めや、フカヒレのXO醤煮込みなどの高級品が並び、俺もホタルも十分に堪能させて貰った。
一息ついた所で、夢幻さんが問いかけてきた。
「先日、テレビ番組に出演した際にも口にしたことなんですが、小栗さん、カージノ王国は、ファンタジー世界なのでしょうか?」
「いきなり来ましたね。ファンタジーを直訳する幻想世界という意味においては、既に現実ですので違うと言えるのかな? しかし、今まで夢幻さんの小説に描かれていた世界と言う意味であれば、正にそのままです。エルフやドワーフや獣人が暮らし、モンスターが存在し、魔法を使う世界です」
「素晴らしい! 私がカージノ王国に行く手段はあるのでしょうか?」
「今すぐに、と言われると困りますが、今後国交を作り、行けるようになると思います。少なくとも私と蘭は、その準備を始めるための会社を立ち上げました」
「本当ですか! それは素晴らしい。私に何かお手伝いできることはありませんか?」
「夢幻さんは……執筆活動をしなくてもいいのですか?」
「本物の獣人と会えることに比べれば、些細な事です」
「本気でお手伝いをして下さるならば、是非お願いしたいとこですね」
「よろしくお願いします。小栗社長でいいのですか?」
「あ、社長は別の方にお願いしてあります。俺なんか二か月前までは派遣で倉庫整理をしていた程度の人間ですから、社長って言って表舞台に立つと何かと問題がありそうですから」
「そうですか……ちなみに社長はどんな方が?」
「私が、不動産賃貸業を始めた時にお願いした、司法書士の先生にお願いしました。こちらの事情にも配慮の出来る方でしたので信頼しています」
俺がそういうと、大崎さんが話しに加わって来た。
「会社組織を作り上げたのなら、私や財前が船で小栗君と話した事も、少しは役に立ったようだな」
「はい、勿論大崎さん達の言葉を、参考にさせていただきました」
「私には、どんな話があったのかね?」
「はい。大崎さんは建設系の会社でやってこられたんですよね?」
「そうだ」
「今でも、会社に影響力はありますか?」
「私はオーナー社長だったからな。今は息子が後を継いでおる」
「そうですか! でしたら是非相談にのって欲しいと思います」
「それは随分楽しそうな話だな。何をすればいいんだね?」
「まず、最初は発電機のメーカーに知り合いの方はいらっしゃいますか?」
「勿論だとも、建設現場には発電機は必須だったからな」
「俺は、カージノに生活家電を広めたいと思ってるんですよね。エアコンや洗浄トイレなどの、テレビなどはまだ放送局が無いので、普及に時間はかかりそうですが、DVDなどで地球文化を広めるのは全然ありだと思いますし」
「そうなると……発電所や送電線など、それこそ国家予算が動くような話では無いのかね?」
「その辺りは、ちょっと違う切り口で考えているんです。まずは発電機のメーカーの方をご紹介いただけますか?」
「解った。しかし、とても興味深いな。どうだ、私を雇わんか? なに高額な給料を寄越せとは言わんさ。年寄りの暇つぶしだからな」
「そんな、ただ働きなんてお願い出来る訳ないじゃないですか……」
「話の規模からして、海千山千の経営者連中と渡り合わんといかんだろう。君と蘭君では、まだその辺りの連中とやり合うには荷が重いだろう?」
「確かにそうですね。大崎さんのような経験豊富な方がいらっしゃると心強いです」
「それじゃ話は決まりだ。一応雇用契約は結ぼう。そっちの社長が司法書士だというなら、守秘義務とかも織り交ぜた契約書を用意できるだろう。わしは時給でそうだな、千円でよいか。それくらいなら払って貰えるかな? 一応東京都の最低時給は千四十一円になるが、六十五歳を超えている場合は適用範囲外だから問題無かろう」
随分と、食いついて来るのが気にはなるけど、元建設大手の重鎮を時給千円で確保できるなら、超お得なのか?
「本当に良いんですか?」
「勿論だよ……ただし、ストックオプションが欲しいな」
「えーと……何でしょうそれ?」
そこで、それまで黙っていたホタルが口を挟む。
「先輩、ストックオプションっていうのは株式の持ち分を設定した金額で譲渡するシステムですね。価値が上がった時点で手放せば取得した人の利益になりますから、新会社が有能な人材を求めるときなんかに、よく使う手段なんです」
「ほお、蘭君はよく勉強しておるな」
「一応、大学では経営学を専攻していましたので」
「どうだね?」
「その辺りの事は、私だけでは判断はつきかねますので、うちの社長とも相談して決めたいと思います」
「ふむ。了承した。一応だがストックオプションを取得する権利を私が有した方がいい理由もちゃんとあるぞ」
「それは、どんな理由でしょう」
「会社が成功しなければ、私に何も得が無いからな。成功させるために必死で働く」
「なるほど……わかりました」
「あとは、そうだな財前にも一枚嚙ませてやれば、大喜びで資金調達をやってくれるぞ?」
「先輩。私は、何となくですがこの話お受けした方がいいと思います」
「そうなんだ……でも、社長がいる以上あくまでもその辺の判断は社長にしてもらおう」
「良い判断だぞ、小栗君。私は君がどの程度、信用できる人物なのかも今の会話をしながら見させて貰っていた。ただホイホイ私のような立場の者の言う事を聞いていたんでは、国が絡むような大事業は成し遂げられんからな。改めて連絡を貰えることを待っておるぞ」
「大崎さん。発電機メーカーの件は先によろしくお願いします」
「了解した」
その日はそれで話を終え、ホタルも夢幻さんにサインをもらって、嬉しそうにしていた。
夢幻さんも早速明日の昼に、俺達の事務所に遊びに来ると言って帰って行った。
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