第38話 斎藤社長のカージノ体験

「凄いですね……まさにファンタジーだ。ケモミミが普通に街を歩いているし、エルフの実物がここまでも美しい存在だとは、まさに想像以上です」

「凄いでしょ?」


「ええ……街中ではモンスターが出現することは無いんですよね?」

「はい。それは大丈夫ですよ。あ、斎藤社長。少しだけ検証にも付き合って頂いてもいいでしょうか?」


「構いませんが、一体何の検証でしょうか?」

「地球に転移したこの大陸でも、お告げカードが手に入るのかどうかです」


「そ、それは……私が実際にモンスターを倒すという事でしょうか? 自慢ではありませんが……私は腕っぷしは余り自信がありませんが?」

「大丈夫です。俺もこの世界にきたときは似たような物でした」


「手段は? どのように?」

「俺が、アンドレ隊長たちが持ち込んでいたM4カービン銃と銃弾を、大量にコピーして保存してありますので、銃撃なら大丈夫そうでしょ?」


「撃った事はありませんが……教えていただけますか?」

「後で現地に行ってからですね」


「先輩、私も一応練習しておきたいです」

「ホタルも撃った事は無いもんな。わかった。でも先に馬娘たちを見てからだ」


「了解です。あ、折角だからフローラとフラワーも連れて来ましょう。実際に馬娘と話せた方がよりイメージがわくでしょうから」


「そうだな。今は恐らくアダムさんのハンバーガーショップの開店準備を手伝っている筈だから、広場に迎えに行ってくれ。開店してしまえばニャルだけでも十分な筈だから」

「はーい」


 フローラとフラワーを迎えに行くのはホタルに任せて、俺は斎藤社長と一緒に神殿へと向かった。


「ここが女神神殿です。なかなか立派な建物でしょ?」

「そうですね。アスファルトが一切使われてない道路も新鮮ですが、石造りの神殿の美しさも特筆されますね。煉瓦はこの世界では作っていないのでしょうか?」


「そう言えばそうですね。私もまだ見たことがありません」


 神殿に到着して中に入ると、まず目につくのはオグリーヌの石造だ。


「これが、この大陸があった世界の女神であるオグリーヌの石造です。地球の神様と違ってこの石造のままの姿で実在しています。俺やホタルが身につけた能力などはすべてオグリーヌの祝福です」

「そう言い切れるところが凄いですね」


「ですよねぇ……でもオグリーヌの話では地球にも神様はいるそうですよ?」

「本当なんですか? それは神社にお参りに行かなきゃいけませんね」


「売店の様に見える場所は、スキルの販売所です」

「えっ? スキルって買えるんですか?」


「そうですね。決して安くはないですし、能力をまともに上げるためにはとてつもない額のお金が掛かりますが……」

「それでは小栗さんはどうやって能力を身につけられたんですか?」


「それは……競馬を当てて……です」

「競馬ですか? この世界にもあるんですね」


「少しというか、だいぶ地球の競馬とは趣が違いますが……実際に見るのが解りやすいでしょう」


 そうやって説明をしていると、ホタルがフラワーとフローラを連れて戻ってきた。


「斎藤社長。彼女たちは馬獣人のフラワーとフローラです。この世界では馬獣人は特別な存在で彼女たちも私達と出会うまでは神の使徒として過ごしていました。二人とも小栗先輩の奴隷です」

「ちょっホタル。その説明だと絶対、斎藤社長が俺をヤバい奴だと思うだろ?」


「ヤバいのは事実だからいいじゃないですか?」

「イヤイヤイヤ、斎藤社長、絶対今、社長が想像したような事はありませんからね?」


「だ、大丈夫です。私は小栗さんを信じてますよ?」

「疑問形入ってますって、絶対、違いますからね……」


「いやぁそれにしても馬耳と馬尻尾がついてるだけで、まったく人間と変わりないんですね。それがメイド服で行動してるなんて、異世界は素晴らしい所だ」

「斎藤社長? ケモミミ派ですか?」


「私も流行りものは手を付ける方ですから、一応話題に乗り遅れないように、馬娘たちが出てくるようなゲームをやってましたから」

「そうなんですね……それとは少し違いますけど、彼女たちのような馬獣人の女の子がこの国では女神の使徒として、この奥にある競技場で競争をしてるんですよ」


「それは……とても興味深いですね。早く行きましょう」


 俺が解る範囲での解説を行いながら、使徒の競争を二レース程見た後に、神殿を後にした。

 その時に、俺はフローラとフラワーが寂しそうな目で競争を見ていたことに気付いた。


「どうした? 走りたいのか」

「……はい……でも、みんな凄く早いし私達が出ても勝つ事は難しいかな? と、思いながら見ていました」


 俺は二人のセリフを聞きながら、どうにか出来ないものかと少し考えたが、すぐにはいい考えも浮かばなかった。


「フローラとフラワーが走りたいのは、この女神神殿の中でないと駄目なのですか?」


 唐突に斎藤社長が聞いて来た。


「えっと……それはどういう事でしょう?」

「ほら、日本の競馬でも中央競馬と地方競馬では競走馬の能力や適性が違ったりするじゃないですか? この国では恐らく女神神殿の競争が中央競馬に該当するんじゃないですか? それなら、もっと気軽に走れる地方競馬のような施設があってもいいんじゃないでしょうか? スキルを代償にすれば、とても高額な勝負になるので、誰でもが参加する事も出来ませんが、日本と同じように百円程度から馬券を販売して、馬獣人の使徒たちに賞金を出せば、普通に盛り上がりませんか?」


「斎藤社長、凄いですね。フラワー、フローラ。馬獣人達で、もっと走りたいと思いながらも奴隷落ちしてしまった娘たちは、沢山いるのか?」

「かなりの数がいると思います」


「そうか、今度オグリーヌに会えた時に相談してみよう。きっとなんらかの力になれる筈だ」


 斎藤社長の意見で、この国でやってみたい事も見えてきた気がする。

 神殿での使徒の競争とは違ったエンターテーメントの側面が高いレースを行えば、きっと盛り上がるだろう。


 俺達は神殿を出て、今度は街の外の林へと向かうことにした。

 一応、使徒は殺生をしたら資格を無くすとの事だったので、念のためにフラワーたちは屋敷へと帰らせた。


 斎藤社長には身分証もお告げカードも無いので、転移で林の手前まで移動する。

 そこで俺がインベントリから、M4を取り出して、斎藤社長とホタルに持たせる。

 弾倉には三十発の5.56mmNATO弾が装填してある。

 

「俺も試射でしか使った事ないので、教えられるほどの事は無いんですけど、弾は大量にあるので慣れて下さい」

「解りました、練習してみます。単発で撃つのはどうするんですか?」


「セレクターでフルオートとセミオートがあって、セミオートが単発ですね。このM4はフルオートの時は三点バーストじゃなくて引き金を引いてる間撃ち続ける仕様ですので気を付けてくださいね」

「三点バーストってよく聞きますけど、何のことなんですか?」


「俺もそんなに詳しい訳じゃないですけど、三発以上連射しても発射の衝撃で狙いが狂いやすいって統計があって、フルオートで一度引き金を引いても三発で止まる様になってるのが三点バーストだそうです」

「カージノに俺達と一緒にきたアンドレ隊長たちのように使い慣れてくると、フルオートで自分の指先の感覚で調整する方がいいそうですよ」


「そうなんですね」


 三十分程練習をしてもらうと、どうにか二人とも狙いをつけられるようになって来たので、林の中に入って行く。

 俺がサーチの能力で索敵をして、すぐにゴブリンを見つけた。


「セミオートで落ち着いて頭部を狙って下さい」

「了解しました」


 ホタルも斎藤社長も無事に狙撃に成功してゴブリンを倒す事ができた。

 そして、斎藤社長の足元にはお告げカードが現れた。


「やっぱり地球に来ても有効だったんだ」

「斎藤社長、カード見せて下さい」


「どうぞ」


 そう言われて渡されたカードには『狙撃』のスキルが記されていた。


「ミッシェルさんと同じか。もしかして最初の狩りを銃で止めを刺したら、狙撃のスキルが出やすいとかあるのかもな? 俺達の時はとどめはナイフで刺したし」

「あるかも知れませんね」


 斎藤社長が俺に質問をしてきた。


「他のスキルを覚える方法はどうするんですか?」

「えーと、社長はランクがJランクだったので、カードの空きがない状態です。まずはIランクになるまで狩りを続けて、神殿でスキルを購入するか、もしくは使徒レースを的中させて増やすかのどちらかになります」


「レースを当てるのは難しいのですか?」

「ギャンブルですから……確実性はないですね」


「でも……小栗さんは当て続けたのでしょ?」

「まーそうなんですけど、ホタルとかにも教える事ができなかったんです」


「そうなんですか? それは残念だ」

「とりあえず俺の知りたかった検証は出来ましたので一度、日本へ戻りましょう」


「了解しました。この世界では馬獣人の女の子たちが、特別な存在だということも理解出来ましたので、社名の件もOKです」


 その言葉を受け、俺はM4を回収してインベントリに収納し、日本へと帰還した。

 俺達が斎藤社長の事務所に戻ると、島長官から持たされていたスマホに着信が複数回あった事に気づく。


「あー日本国内じゃないと通じないんだよなこれ……」


 俺はすぐに、折り返して連絡を入れた。


『すいません。少し電波の届かない所に居たもので』

『やっと連絡がつきました。小栗さん、緊急事態です。モンスターらしき存在ががフィリピン海に現れました』


『なんですって? それは『ダービーキングダム』を襲ったタコのモンスターで間違いないんですか?』

『いえ……それがサメ型の二十メートルほどもあるモンスターだそうです。漁船がかみ砕かれて六人が犠牲になったとの情報が入っています』


『どう対処しているんですか?』

『現在、米第七艦隊が艦載機を飛ばし索敵していますが発見には至っていません』


『モンスターだと確認をされたのは誰の判断なんでしょうか?』

『被害にあった漁船からの無線でのやりとりだけですね。画像などは残っていませんから、言葉を信じるしかない状況です』


『二十メートルのサメは地球上には存在していなかったはずですから、恐らく、なんらかの理由でモンスターへと変異をしたサメに間違いないんでしょうね。私の方でも原因を調べてみます』

『よろしくお願いします』


 どうやらこの世界は危険な世界へと変異を始めたようだ……

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