第41話 おっさんインコ
彼がヒナから育てたセキセイインコのアクア君は、人間の言葉を喋るのが上手だった。一般的にオスのセキセイインコはよく喋る事で有名であるが、アクア君もそのお喋りなオスのセキセイインコの一羽に相当した。
しかもただお喋りなだけではない。彼の声質を真似ているのか、喋るインコにしては低めの声で喋り、さながらおっさんが声を出しているかのようだった。
「サァヨシオ。ガスト電気ノ元栓ハキチント閉メルンヤデー」
「ははは、心配してくれるんやな、アクア」
「ソラソウヤ。焼キ鳥ニナッテモタラカナワンカラナー」
アクアは単に喋れるレパートリーが多いだけではない。人間の言葉を理解し、飼い主である彼の言葉に応じて自分の喋る言葉を何にするか選んでいるようだった。
その声色も相まって、おっさんが中に入っているのかもと彼は冗談半分に思っていた。
※
それはある夜の事だった。中途半端な時間に彼は目を覚ましてしまったのだ。そのまままた眠れば良いのだろうが、変に眼が冴えてしまい、眠ろうと思えばますます眠気が遠ざかっていったのだ。
そうこうしているうちに、アクアの眠っている鳥籠の中が気になった。何かが潜み、動く気配を感じたからだ。鼠でも入っているんじゃあないか。不安と疑問を胸に抱えながら、彼は鳥籠の中を覗いた。
「!」
思いがけぬ光景が目に飛び込んでくる。鼠はいなかったがアクアもいなかった。厳密に言えば手のひらサイズの人間のオッサンが止まり木の上に腰かけており、彼の身の丈ほどの大きさの、ペラペラになった着ぐるみを抱えている。
その着ぐるみは頭部は白く胸や腹、背面部は緑がかった水色で羽毛に覆われていた――アクアそのものの特徴を具えていたのだ。
「ア、シモタ。見ツカッテモウタヤン」
オッサンはすぐに彼の視線に気づいた。手にしていた着ぐるみを手早く装着すると、そこにはオッサンではなく、彼が見知ったセキセインコのアクアになった訳である。
アクアの中にはオッサンがいた――その衝撃的な事実を知った彼だったが、アクアとの生活そのものは今も続いている。
ただ少し変化した事をあげるならば、かつてはあれだけ饒舌だったアクアが、あの夜を境に喋る頻度が格段に減少した事くらいだろうか。
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